13. 春飴歌
『睡眠薬:春飴歌について
春飴歌は96年程前(クヴィル王国創立514年時点)、発展集落「イッシリルド」にて開発、発表された睡眠薬。
プラシーボ効果ではなく、実際に薬理効果が確認されている。
また、即効性の高い物であると発表されている。
効果
睡眠のサポートではなく、半強制的に眠りへ落とす物。子供など、体が小さい者や年齢が低い者は抵抗力が低い。また、体格のいい大人、年齢の高い者への効果は薄い。
強力で副作用も強い為、殆どの国で禁止令が出されている(一部の街は例外)
無味であり、液体状。
服用方法は、水に混ぜて飲み干すか吸入。
飲む場合は効果が出るのは多少遅いが、体に影響が残りにくい。
吸い込む場合は体に回るのは速いが、体に影響が残りやすい。
後遺症として身体の麻痺が確認されている。記憶喪失になる事例も報告されているが稀。
無味ではあるが、特徴としてその香りが挙げられる。
『鼻を刺す甘い臭い』と言われている。
幾つかの証言があるが、共通しているのは以下の通りである。
・ツンとした臭いである
・鼻を刺す変な臭いである
・妙に甘い臭いである
また、この香は体に移りやすく、残りやすいとのこと。
備考:近年、各国への流出が噂されている(一部地域では確認済み)』
ルシャージャに対して、言いたい事は色々とあるのだが。取り敢えず、
「一ついいか」
言いたい事、聞きたい事がある。
「何さ」
嫌そうな顔。面倒そうな気配を感じたのだろうか。
「何追加してんだよ」
そう、備考の部分はルシャージャの字で書かれていたのだ。
「しょうがないだろう、最新の資料がこれなんだから」
妙に子供っぽくなっている気がする。
多分、ルイスの気のせいではないだろう。
「んで、これが何なんだ?」
パサリと机に書類を置いて、ルシャージャに顔を向ける。
「知らない?違法薬物『春飴歌』これさ、隣国に密輸されたらしいんだけど。最近」
――この国にも持ち込まれてるんだって。
どうでもよさそうな無表情。けれどその瞳には、鋭い光が宿っている。まるで、鋭利な刃物の様に冷たい光が。
「隣国・・・噂程度なら。この国にも、か」
知らなかった。薬物は専用の部署があり、ルイスの所属する部署とは違うから。
いや、違うな。これはただの言い訳だ。
情けないな。
自嘲気味に笑う。
これさぁ、とルシャージャが呟くように言う。
「奴隷商が使ってる可能性があるんだよねぇ」
体が強張った。思考が止まる。ただでさえ遅いと言うのに。
「どういう、ことだ・・・?」
「前例があるんだよ。別の国ではあるんだけど」
――攫う時に使っていたんだってさ。
「でも」
ルシャージャが、それだけでルイスに話すのか?あり得ない。
「話を聞きに行った帰りに、青果店の方に行ったでしょ?私」
ルイスの言いたい事が伝わったのだろう、答えをくれる様だ。
(目撃証言が成立するのか、確認するんじゃなかったのか・・・?)
「その時にちょっと店主と話してね。不審な子連れを見かけなかったか聞いてみた」
ごくりとルイスから唾を飲み込む音がした。
「けどまあ、居なかった」
おい。居る流れだっただろ。
「でも」
また体が強張る。
「『変な臭いがする子連れが居た』っていうのは聞けた」
不思議なんだよねぇとわざとらしく言う。
「その臭いが『鼻にツンとくるような甘い臭いだった』んだって。で、服屋の袋を持っていたらしい」
それは、
――どういう事になるのだろうか。
そんなの分かってる。
「その子連れが・・・奴隷商の奴と攫われた子供だって、言いたいのか」
自然と声が硬くなった。
ルシャージャが口を開く。
聞きたくない。
「その可能性が高い」
抑揚のない声だった。
「・・・・・・」
口に鉄の味が広がる。無意識に唇を噛んでいたらしい。
「これ単体ならそこまで気には留めなかったけど」ルシャージャと目が合った。その鋭さは、幾分か柔らかくなっている。「ここまで色々と重なったら、疑ってくれって言っている様な物だよ」
「ルイス、・・・聞いてる?」形の良い眉が顰められる。
「・・・んだよ」目を合わせて居られなくて顔を逸らす。
拗ねてるような、妙に辺りの強い言い方になってしまった。
違う。ルシャージャは悪くないのに。
普段ルシャージャの事を子供っぽいとかなんとか言っておいて、自分の方が子供じゃないか。最悪だ。
「私としては、これ。決定打に欠けていた『一押し』になると思っているんだけど」
ルイスはどう、と首を傾げて見せる。
俺?
――俺は、
「なる、と思う」
「そう」
よかったと笑う。
まるで、ルイスの態度は気にも留めていないように。
「ルシャージャ」
頼りない声になった。
「何?」
「・・・悪かった。お前に当たったりして」
「別に」
いいよと呟く。
顔を上げて、ルシャージャの目を見る。
相も変わらず、不思議な色の綺麗な宝石。
「見惚れちゃった?」揶揄うように言う。
「ああ」言い切ってやった。
「・・・そう」一瞬固まり、すぐに顔を逸らした。
ルイスの言葉が予想外だったのだろう。
気恥ずかしそうな顔で、くるくると髪を指に巻き付けている。
「まあ、当たり前だよね。私、綺麗だし」思考を切り替えたらしい。まだ薄らと顔が赤く、恥ずかしそうではあるが。
言葉だけならただの自画自賛なのだが、恥ずかしげも無く言ってのける辺り、自分に自信があると言うのが伝わってくる。まあ、ルシャージャの顔を見ると誰でも納得するだろう。
「聞き込みで」
恥ずかしがるルシャージャというレアな姿を見てにやけるルイスに、強引に話題を変えようとする。
「写真を使うなって言ったのは、邪魔になるから」不貞腐れたように、ぶっきらぼうに言う。
「邪魔」繰り返し、大きく目を瞬かせる。
どういう事だろうか。
「そう」怠そうに息を吐き、言葉を続けた。
「聞き込みでさ、目撃証言が無かったって言ってたでしょ。人の目って印象に残ってる物ばかりが焼き付いて、それ以外はあまり残らない」
まあそういうものだよなと納得する。
分かるかとルシャージャから視線が向けられる。
軽く頷いて、続きを促した。
「奴隷紋が目撃証言で割と大きいっていうのは分かってると思うけど」長い足を組む。「模様になっているから、更に印象が強くなる。奴隷紋を入れられた子供が居てさ、どこに視線が行く?」
「え、そりゃあ・・・奴隷紋?」
「正解」小さく微笑む。
大抵の人はそこに目が行くだろうな。
「そこで、さっき言った『印象が強いものが記憶に残る』。これと合わせて考えると?」
「奴隷紋の事は憶えてて、容姿は憶えてない・・・?」
「よくできました」満足そうに笑った。
「だから、写真を見せても成果が無かったのか」
「うん。憶えてないんだから、見つかりようがないよね」
納得できた、とルシャージャの首が傾げられる。
ああと頷き、軽く笑う。
さて、とルシャージャが口を開いた。
「行こうか」
「どこに」
ん-、と小さく唸り、衝撃的な事を口にした。
「お相手さんの所?」
何で疑問形。・・・じゃなくて、
「場所分かんのかよ?」
「大体は」
「どうやって」
「住所の偏り」
「近くにあるって事か」
「逆」
「はあ?」
「離れてるから遠慮なく攫えるの」
どういう事だ。
「服とか買いに行ってるみたいだし、人に見られるでしょ」
「おう」
「近くだと、攫った子供の家族に見られる可能性が高くなるんだよ」
「確かに、そうなるか」
「ほら、行くよ」
ルシャージャにジャケットを放り投げられた。
「うおっ」
事務所に置いていたルイスのジャケットだ。依頼の時にこういう事が多いから役に立つ。
投げんなよと言いつつ、ジャケットを羽織る。ルシャージャも自分のコートを着ていた。
「どーぞ」扉を開けてやる。
「ありがとう」
ルシャージャに続いて事務所を出るのだった。
次話は10日20時に投稿。
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