12. 共通の理由
「さ、く・・・?」
静まり返った室内にルイスの間抜けな声が響く。
「そう」
してやったり、という顔で笑う美貌の探偵。
あー腹立つ。
ルイスの反応がお気に召したらしい。
こんの愉快犯。
「とは言っても、あまり大層な物じゃないけどね」
「へえ、そうなのか」
お前なのに、とルイスが首を傾げると呆れた様に笑う。
機嫌が良さそうだ。
「ちょっと調べ物をしていたら、時間が足りなくなってさ」
「調べ物」
繰り返す。
「そう、調べ物。結構、手こずっちゃった」
何を調べていたのだろう。というか、さぼっていたわけでは無いらしい。ワンチャン、ルシャージャならさぼってるかもと思ったのだが――。
「失礼過ぎない」
「だから口には出してない」
「顔に書いてる」
「左様で」
顔くらい自由にさせてくれ。
お前の前ならいいだろという感想はのみ込んだ。
「んで、何を調べてた?」
この部屋の惨状も関係あるのかと問うと、正解と彼女はまた笑う。
「流石に分かる。てか、取っ散らかってんの珍しいな」
「んー、なかなか見つからなくてさぁ」
ぼやきつつ、デスクに向かう。ファイルや書類等が散乱して山になっているところから一冊のファイルを手に取り戻って来た。
「これ」
「ん、『童子誘拐ファイル』・・・?」
綺麗な読みやすい字で書かれたそれは、大分分厚く重い。
間違いなくルシャージャの字、ということは・・・彼女の自作ファイルか。
「これ・・・事件について纏めたファイルか」
以前別のファイルなら見た事があったが、これは初めて見る。
「そう。それの平民の所を見て」
「青い紐?」
「青い紐」
繰り返された。
「了解」
ルシャージャが作ったファイルは、それぞれ色の違う紐が挟まれている。ページの記載が無い為、目次の代わりになっているのだ。
人関連の場合、青は平民。赤は貴族。
「ええっと・・・」
何々・・・
『クロリア・イルディス
誘拐時年齢:9
性別:女
住所:西区ユーナン街 10✕✕✕―1765✕〇〇〇
キメル・イルディスとは一卵性双生児
キメル・イルディス
誘拐時年齢:9
性別:男
住所:西区ユーナン街 10✕✕✕―1765✕〇〇〇
クロリア・イルディスとは一卵性双生児。
備考:クロリア・イルディス、キメル・イルディスは同時刻に行方を晦ました。
また、最終的な目撃証言では揃って行動していた為一緒に誘拐されたと思われる』
兄弟等、繋がりのある者達は纏めて最初に配置する。それはルシャージャの癖だ。
どうやら、変わっていないらしい。
簡単なプロフィールの隣に、写真が貼られている。
肩まで伸ばされた黒寄りの茶髪に、同じく茶色の瞳。上下の二人はそっくりだ。慣れていなければ間違えそうなくらいに。
・・・ああ、成程。攫われた子供達のリストで見たのか。
「どう?」
「え、あ・・・お前、これどうやって用意したんだ?」
「は?何言ってんの」
「いやさ、被害者含め情報速くないか」
「普通だよ。君は知らないだろうけど、花屋の奥さん情報通なんだよ。そこからちょっとね」
「怖」思わず身震いする。
「失礼」
ルシャージャは眉を顰める。
「そうじゃないんだけど」
「何が」
「住所」
見ろってか?
(言葉が足りなさすぎるだろ)
ルイスは心の中で毒づいた。
『西区ユーナン街 10✕✕✕―1765✕〇〇〇』
双子だから住所は同じ。それはそうだ。
なんとなくページを捲ってみる。分厚さ的に、まだまだあるだろう。
先程と同じ様な二人分のプロフィールと写真。
それよりも、ルイスの目を引いたのは住所だった。
『西区ユーナン街 10✕✕✕―1753✕〇〇〇』
(近いな・・・)
ルシャージャが言ったから、ただ住所が目についた。
彼女が纏めたのだから地区毎にも分けたのかもしれない。
それだけだとまた、ページを捲る。
『西区ユーナン街 10✕✕✕―1759✕〇〇〇』
速度を上げてページを捲っていく。
確認するのは、住所の欄。
十枚程捲っただろうか、ルイスの手が止まった。
どういう事だ。
被害者の書類を作る時に、住所も入れる。
改めて見て、驚いた。
何十人分のプロフィール。
それに共通していたのは『西区ユーナン街』という、住所の記載。
気付かなかった。
「ルシャージャ、・・・これ」顔を上げる。
彼女はデスクを片付けていた。
「あ、見た?」
机に散乱していたファイルは、いつの間にか片付けられていた。
「ああ」
喉が渇いた。一気に疲れた気がする。
「全部、『西区ユーナン街』って・・・」
「え、全部?」
ルシャージャは束になった書類を手に、ソファに戻って来た。
「全部だろ」
長い睫毛が数度瞬く。
「はあ?」呆れた声が返ってくる。
すぐに納得したように小さく声を漏らした。
「ルイス、最後まで見てないのか」ルイスの膝に広げられたファイルを見て、納得したように言う。
「それ、最初の方に纏めたのは兄弟が居る子とかじゃなくて住所が『西区ユーナン街』の子」
「え、そうなのか?」
「そうだよ」
早とちりとルイスを笑う。
「別の地区の子供達もいるけど、圧倒的にユーナン街が多かったんだよね」
だから纏め方を変えたのだと笑った。
「そうなのか・・・」
「そうなの」書類を広げつつ返される。
面倒な時は繰り返して返される。ルシャージャの癖。
(省エネか・・・)
「でも、なんで」
――ユーナン街なのだろう。その答えを、彼女は知っているのだろうか。
「分かってはいない。けど、」
予想は付いてる、と。それは、彼女の言う‘‘策‘‘に関係があるのだろうか。
‘‘策‘‘には関係なくとも、事件には関係があるんだろうな。
そう言えば、とルイスは口を開いた。
「なあ、ルシャージャ」
「何」視線を上げる事は無い。書類を見比べて小さく唸っている。
「なんで・・・」
ルシャージャの手が止まる。
「なんで、聞き込みの時に写真を使わせなかったんだ?」
そう。すっかり聞きそびれていた。
従いはした。が、未だに分かっていないのだ。
数秒の間の後、伏せられた瞳が上げられた。上げられた顔は、きょとんとしている。
珍しい。いつもすましているというのに。
この顔だと、幼く見えるな。
大人びた顔に感情が露わになるだけで、大分印象が変わる。
ふ、と彼女の口から溜息が零れる。
「ねえ、ルイス」
「なんだ」
「絡みたいなら後にしてくれない」
「おい」
応えろよ。
「御免御免、冗談だよ」クスクスと笑う。
ほんとに此奴は。
「っと、あったあった」一枚の書類をルイスに差し出す。
見比べていたのは、これを探していたかららしい。
受け取ったルイスは一度ルシャージャの顔を見て、それから書類に視線を落とした。
そこに書かれた内容にルイスは目を見開いた。
予想通りの反応に、ルシャージャの口から小さな笑いが零れた。
次話は4月3日20時に投稿。
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