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運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
番外編

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天華に捧げる竜の歌 5

 銀髪の青年から説明を受けた名付け子が、驚愕の視線をディートヘルに向けてきた。


「竜種……」

「確かに、そう呼ばれることもある」


 ディートヘルの言葉を聞き、途端に名付け子の瞳が輝いた。


「ディートヘルさん、蜥蜴じゃなくて竜だったんですか⁉」

「いいや。先祖が竜だと言われているだけだ」


 しっかり否定をしたというのに、名付け子の期待は治まらなかったらしい。


「口から火を噴いたり……!」

「何度も言うが、それは無理だな」

「……ですよね。……って、何度も?」


 僅かに首を傾げた名付け子の仕草がおかしくて、ディートヘルは小さく笑いを零した。


「君は幼い頃はよく、口から火を噴いて見せてくれと私に強請っていたよ」

「そ、そうなんですか……?」

「できないと言ったら、とても残念そうにしていた。ああ、あと。翼はないのかとも聞かれたな」


 火を噴き空を飛ぶ蜥蜴など、この世のどこにも存在しないだろう。名付け子がどういった思考回路を経てそのような質問をしてきたのかは、いまだに謎だ。しかも当時は竜種という存在すら知り得ないような歳だったのだから、なおさらである。


「……すみませんでした」

「謝ることはない。実際、竜には翼を持つ種もいたらしいからな。だがそういった竜の子孫は、蜥蜴族ではなく、鳥族にあたる」

「な、なるほど……!」


 このことを告げれば大抵の者は信じないのだが、名付け子は一片も疑う素振りを見せずに、ディートヘルの言葉に納得をしていた。あまりにも素直すぎるその反応に、ディートヘルは名付け子のことが心配になった。


 だがディートヘルの心配をよそに、名付け子は「リュウ()って、キョウリュウ(恐竜)か……」などと意味の良くわからない言葉を呟いている。しかも名付け子の呟きはここにいる全員に聞こえていただろうに、誰もそこを指摘しない。


「鳥族って、鳥と同じで翼は羽毛だらけなんだろ? それが竜の子孫?」


 先ほどの名付け子の独り言などまるでなかったかのように、茶髪の青年が疑問を口にした。この茶髪の青年のような反応が、普通なのだ。


「でも、その先祖の竜だって羽毛はありましたよね?」


 名付け子が、ディートヘルに同意を求めてきた。確かにその通りなのだが、ディートヘルの種すら知らなかったというのに、よくその情報を名付け子が知っていたものだと驚いた。


 だが、常人は知り得ないような情報を知っているのが、この名付け子なのだとディートヘルは思い出した。


「君は本当に……昔から不思議なことを言う子だとは思っていたが、一体君はその情報をどこから仕入れたのかな」


 ディートヘルが問えば、名付け子は途端に慌て出した。


「え? ええと、お、お父様に聞いたような気が……」

「トルロイに? トルロイは私が竜種と呼ばれることは知っているが、さすがに先ほどの情報は知らないはずだ。私でさえ、その情報は鳥族の長に直接聞いて知った程だからね。そしてその話を、私はまだ誰にも話していない」


 鳥族が竜族の子孫だという話は、特に秘密にされているというわけではない。ただ、話しても信じない者が大半であると言うだけだ。しかも名付け子に言ったとおり、鳥族の祖先の竜にも羽毛があったなどという話は、旧大陸においてさえ、ここ五十年の間にわかったことであり、新大陸にはまだ情報が伝わっていない筈。


 ディートヘルを赤蜥蜴であり古代種と知っていた銀髪の青年でさえも、このことは知らなかったようだというのに。


「あ……ええと、その。……お父様に聞いたというのは、気のせいだったかもしれません。そうなんじゃないかなあって、思っただけなのかも……」


 困ったように視線を彷徨わせている名付け子に対し、ディートヘルはそれ以上追及をすることを止めた。別に、名付け子を困らせたいわけではないのだ。


「そうか。君は想像力があるな」


 ディートヘルが褒めれば、名付け子はどこか後ろめたそうに曖昧に微笑んだ。


「あんたの種が相当に珍しいのはわかった。でもあんた、もしかして血が混じっていないんじゃないか?」


 番の青年の言葉に、またもや銀髪の青年以外の皆が驚きの表情を見せた。それもそうだろう。この新大陸にいる亜人のほとんどが、人間や、他の種族と血を混ぜている者ばかりなのだから。名付け子でさえ、ディートヘルは混血で、先祖代々ずっとこの新大陸に住んでいると思っているだろう。


「その通りだ。私は二十年前に旧大陸から新大陸へ出て来た、純血の亜人だよ」


 ディートヘルの答えを受けた番の青年が、「どうりで……」などと呟いている。


 五百年前に、旧大陸から新大陸へと出て来た亜人たち。けれどそれ以降の大規模な数の移動は、現在のところ確認されていない。


 そして現在、ディートヘルのように個人で新大陸へとやってくる亜人もいないわけではないが、今では旧大陸の亜人はその強大な力故、上陸した際には必ずこのガルストラで身元を登録することになっているのだ。ディートヘルも二十年前に新大陸へ出て来た時には、友人二人を身元引受人として登録している。


「どうして、こちらへ来ることに? 先ほどのあなたの話ですと、あなたの種族はあまり生息域を出たがらない筈では」


 銀髪の青年の疑問は、もっともだ。


 ディートヘルとて、何事もなかったならば、あの大陸を出ようなどとは思わなかっただろう。あの、自然の脅威厳しくも美しい、彼の故郷を。

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