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運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
第四章 運命の恋は真実と共に

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048.運命の恋をしてみたい/合同捜査Ⅰ


 ライナスは珍しくも憂鬱な気分で、仕事をこなしていた。


 もともと楽しい気分でこなすような仕事ではないが、それでもここまで気が重いのは、はじめての経験だ。しかも、それは自分のことではない。その原因となった人物、己の部下兼友人であるレイドを見つめ、ライナスは溜息を吐いた。


 レイドは窓枠の僅かな幅に腕を乗せ、窓の外を見つめている。その様子は正に心ここに在らずといったものだった。


 だがレイドのその状態も当然のこと、むしろよく平然と仕事に来られているとライナスなどは思うのだが、仕事に来ることで気を紛らわせているという可能性も考えられる。どちらにしろ、今のレイドにこの仕事を任せるのは少々気が重いなどと、珍しいことをライナスは考えていた。


 己の「番」に、誤解を与えかねない言葉を――否、ラスフィアは完全に誤解をしていた――そのような言葉を聞かれたあげく、まるで自分のことは忘れて欲しい、あるいは自分がレイドの「番」だという事実など、まるで気にしていないかのような態度を取られてしまったのだ。もし自分がレイドの立場だったなら、自棄になって一人、出奔しかねない。少なくとも、しばらくの間は使い物にはならなくなりそうだ。


 けれど、昨日の今日だというのに、レイドは普通に仕事に出てきている。普段よりは口数も少なく暗い雰囲気を出してはいるが、自己を失ってはいないようだ。だが、普段通りの活躍が出来るのかと問われれば、わからないとしか言いようがない。


 ライナスの班は亜人の凶悪犯罪者を取り締まる部署に所属しており、隊員はライナスを入れて三名、ライナス、レイド、リアーナだ。リアーナには主に事務仕事の処理を頼んでいる。銃の扱いに関しては見事なものだが、現場で活動するのは主にライナスとレイドの役目。


 乱暴で凶悪な犯人、しかも亜人とくれば、取り押さえるにも苦労することになる。そんな時に出動するのが、ライナスたちの班においての、役割のひとつだった。


 そして今回も、ライナスたちの手を借りたいとの上からの指示で動くことになったのだが、それが珍しいことに、組織犯罪対策課と沿岸警備隊との合同捜査らしい。


 同じ警視庁内の別部署同士で協力しあうことはそれほど珍しいことではないが、軍との協力は珍しい。とはいえ、警視庁も元は軍から分れた組織であるため、秘密裏にお互いが協力し合うことはよくあることだ。今回のように、表立っての合同捜査が珍しいのだ。


 詳しい話はまだ聞かされていないが、沿岸警備隊へ協力を頼むとなると、考えられることは密輸絡み、そして組織犯罪対策課の存在を考えれば、それも麻薬売買組織絡みのものだろう。


 麻薬を売る側も買う側も、人間亜人に関わらず麻薬を摂取することにより理性を手放し、凶暴化していることが多い。人間ならばまだしも、凶暴化した亜人など、同じ亜人でも手に余る場合がある。そいつらの制圧は、ライナスの班にはまさにうってつけの案件だろう。


 だが今のレイドは、いわゆる腑抜けの状態だ。今までに経験したことがない事態故に、今の状態が仕事にどう影響するかは未知数だ。こちら側が痛手を負うようなことにでもなるか、もしくは相手側に影響が出るか。せめて相手側の殲滅などという事態にはならないでくれよと、ライナスは心の内で神らしき何かに祈りを捧げた。


「レイド、時間だ」


 ライナスが呼びかければ、だいぶ緩慢な動きではあったが、レイドがライナスに真っすぐ視線を向けて来た。その瞳に一応の理性と力が籠っていることを確認し、ライナスはほっと胸を撫でおろす。


「リアーナ。会議の書記を頼む」

「承知しました」


 ライナスの隣にレイド、その一歩後をリアーナがついて来る。いつもの配置だ。そのまま三人で、今回の捜査の会議を行う、招集場所へと向かった。


 今回の合同捜査に加わる者たちは、大会議室に集まることになっている。そこの会議室が使われる時は、かなりの規模の人員が投入される事件と決まっていた。とはいえ、今回は内部の二部署に加え、外部機関との連携を必要とする捜査だ。大会議室は収容人数が二十人前後なため、今回は各部署各機関の捜査員の中でも、重要な地位にある者たちのみが集まることになる。


 ちなみにライナス達の班は現在三人しかいないため、三人での参加となる。


 会議室には、すでに組織犯罪対策課の捜査員たちが揃っていた。沿岸警備隊はまだのようだ。座席の前方には、会議用の大きな黒板と、移動式の小さな黒板が置いてある。その小さな黒板に書かれた座席表を見て、ライナスたちは自分達に用意された席に着いた。


 席に着きしばらくすると、紺色の軍服を着た、沿岸警備隊の捜査員たちがやってきた。


 彼らが席に着いたのを見計らい、組織犯罪対策課の課長であるグレーメンが前へ出た。


 今回の捜査は、組織犯罪対策課が主体となって行うと聞いている。今のところ、ガルストラ国内での麻薬製造は、大量生産するまでには至っていない。主な麻薬の供給地は、海を隔てた外国からとなる。貿易船での密輸だ。そこで沿岸警備隊の協力が必要となる。


「近年、この首都(ルカルス)において薬物が蔓延していることは、君たちも知ってのことと思う。しかも、この一年は特に、麻薬売買による逮捕者が急増している。なぜここまで急激に、麻薬の売買が盛んになったのか。その背景には、ある組織が関係していると我々は踏んでいる」


 グレーメンの言葉に、ライナスは心の中でとある犯人のことを思い出していた。


 ラスフィアが関わった事件の犯人、交際していた女性を刺し、目撃者である彼女まで狙った山羊の亜人である彼も、薬物を使用していた。聴取をしたところ、恋人の態度に常日頃思うところのあった彼は、街で声をかけられた売人から薬物を買い、それ以降常習していたらしい。ラスフィアたちからも、あの時の彼はどこか異常な様子だったと聞いている。


 それもこれも、常習していた薬物の影響で、興奮しやすく、攻撃性が増していたことが原因だ。


 確かに、山羊や種の近い羊の亜人は凶暴ではあるのだが、それでも、普段はその凶暴性を抑えて生活をしている者がほとんどだ。そしてそれは、どの亜人に関しても言えることだった。


 亜人は本来、弱肉強食の世界に生きる生物だ。新大陸に来ることで人間との共存を学び、凶暴性も攻撃性も徐々に弱まり、人間と同じような社会生活をなんなく営むまでに進化した。だが薬物の摂取により、脳の一部、それも本能的な攻撃性を司る部分が、解放されてしまうらしい。しかも、生来よりもその攻撃性を増長させた上で。


 ただでさえ血の気の多い亜人が、さらに攻撃性を増す。街の治安が悪化するどころの話ではない。麻薬売買の経路と販路の撲滅は、早急に手を打たなければならない案件だった。


「そして密輸ともなれば、海路を無視することは出来ない。そこで我々組織犯罪対策課は早期から沿岸警備隊との連携を図って来た。そのかいあって、二か月程前、沿岸警備隊が、ある貿易会社がここ最新の麻薬密輸の主体となっていることを突き止めた」


 すでにそこまで調べが付いているというのなら、あとは一斉逮捕を待つのみだったのだろう。逮捕の日取りが決まり決行するまでは、残りの大詰め捜査と言ったところか。


 だが今のグレーメンの話には、気にかかる点がある。先ほどグレーメンは、ここ最新の麻薬密輸の主体と言った。となれば、これまでに販売された麻薬に関しては、別の経路があるということになる。きっとその言葉の意味するところは、これからの話で出てくるのだろう。


 だが、そこでグレーメンが沿岸警備隊と立ち位置を変えた。どうやらその話の続きは、沿岸警備隊に譲るらしい。グレーメンの代わりに前に出て来た沿岸警備隊の男は、会議用の黒板にその貿易会社の名を殴り書いた。


「密輸に関係していると思われる貿易会社はメイウッド貿易会社という、ここ一年程で台頭してきた、設立後二年も経っていない新参の貿易会社だ。我々がこの会社に目を付けたのも、新参会社にしては勢いが良く、主な麻薬の生産国との行き来が盛んだったことからだ。この会社には一月前から一人、我々の仲間を潜入させている。次にメイウッド貿易会社の船が港に着くのは五日後。一週間前にその荷の中に麻薬が積まれていると、潜入捜査官からの連絡が入った」


 そこで沿岸警備隊の男は一度言葉を区切り、僅かに表情を変えた。


「――だが、この会社が我が国と取引を始めたのは、ここ半年程のことだ。あくまで現在の主体がこの会社というだけで、他にも密輸に関わっていた会社はある、あるいはあったと我々は踏んでいる。さすがにこの一社の取引量だけでは、近年のここまで急激な麻薬の蔓延には至らないだろう」


 沿岸警備隊の言うことは最もだ。貿易船が一度航海に出れば、短くても一週間前後、長ければ数か月帰らないこともざらだ。一度に最大限の荷を積むにしても、限度というものがある。しかも、メイウッド貿易会社があくまで貿易会社間の競合の中で台頭して来たと言うならば、通常の貿易も、しっかりとこなしているということだ。


「本当に瓦解すべきは、この貿易会社ではない。だがこの会社を隠れ蓑としている者たちをあぶり出すには、この会社を足掛かりにするしかないだろう。失敗は許されない。ここで奴らを逃せば、またどこかの貿易会社に潜り込むだけだ。あるいは――この国での商売を諦め、拠点を国外へ移す恐れもある。奴らがこの国へいる間に、何とか蹴りを付けたい」


朝一で売店に来てくれる管理職のナイスミドルは、グレーメンです。熊耳熊尻尾の巨体。力持ち。体毛多し。

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