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運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
第四章 運命の恋は真実と共に

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049.運命の恋をしてみたい/合同捜査Ⅱ

 

 沿岸警備隊が話を終えると、話の主導が再びグレーメンへと戻った。


「港にはメイウッド貿易会社の船員のほか、麻薬の取引相手なども集まるはずだ。……一連の麻薬密輸の黒幕とも言える、麻薬売買組織の奴らもな。そして、こういう疚しいことをしている奴らは、腕利きの用心棒を船員として雇っている場合が多い。ただでさえ海賊に対抗するため船主は優秀な航海技術を持つ者に加え、腕利きの者も欲しがるからな。マクスウェル警部率いる特別班には、主にそいつらの制圧をお願いしたい」


 グレーメンがライナスとレイド、そしてリアーナに視線を向ける。その視線を追った沿岸警備隊の隊員たちが、驚きを顕わにした。


「三人だけか? しかも一人は女性――それも人間のようだが」


 先ほど前に出て話していた沿岸警備隊の隊員が、リアーナを見て軽く眉を顰めている。けれどそういった視線は慣れているのだろう、リアーナの方は眉ひとつ動かさない。そのやりとりを見たライナスは、わずかに口元を緩ませた。


 彼女のそういう胆力のあるところを、ライナスは好ましく思っていた。リアーナは人間で在りながら、亜人に対し一切の気後れも恐れも抱かない。しかも、レイドに対してさえ、その態度を崩さないのだ。


 力では亜人に敵わないからと磨いた銃の腕はかなりのものだし、そしてよく気が付く上、書類整理も上手い。


 地方へ行った際にリアーナを見つけることが出来たのは、本当に僥倖だったとライナスは思っていた。


「彼女はうちの班にとって、必要不可欠の存在です。それに、今回彼女は戦闘要員ではありません」

「では二人だけか?」


 沿岸警備隊の隊員が、さらに眉間の皺を深くした。


「人員については逮捕までに一人、補充したいと思っています」


 ライナスがそう言えば、今度はグレーメンが眉を顰めた。


「この直前で補充だと?」

「この話をいただいたのが三日前ですよ? 人員の補充は前から考えていたことですし、そもそも私とレイドだけでは、片方が潰れた場合、計画に支障が出ます」


 ライナスがそう言えば、グレーメンが一唸りしてから「大丈夫なんだろうな」と聞いてきた。


「ええ、大丈夫ですよ。少なくとも、私とレイドと同等程度の能力は有しているはずです」


 言った瞬間、隣にいたレイドから「同等は言い過ぎだ」と声がかけられた。けれどその言葉とて、相手の能力を否定するものではない。


 組織犯罪対策課とはすでに何度か一緒に捜査をしているので、当然グレーメンもレイドのことを知っている。レイドが滅多に、他人を認めないこともだ。そのためグレーメンも先ほどのレイドの態度を見て、大丈夫だろうと判断したらしい。


「わかった。増員は好きにしろ。足手まといにならないなら何でもいい」


 グレーメンがそう言い捨ててから、また事件に関する話をはじめた。


「現在我々は協力して、メイウッド貿易会社の動向を探っている。密輸の証拠はすでに手に入れているが、同時に麻薬売買の方も取り締まらなければならないからな。こちらは、組織犯罪対策課が主となり動いている。現在首都圏内においてメイウッド貿易会社と取引をしている店は、二十店舗以上になる。……手元の資料に目を通してくれ」


 ライナスがテーブルの上に置かれた何枚かの資料を手に取り、件の資料を見つけ視線で文字を追う。そして取引先の店舗名が羅列されたその締めくくりに、見知った名を見つけ目を見開いた。慌てて右隣のレイドを見れば、真剣な表情で資料を見つめている。


「……マルグリット商会」


 左隣にいるリアーナが小さく呟いた。その呟きを拾い、グレーメンが補足する。


「そうだ。今年からガルストラ警視庁(うち)の売店に入っている店だ。ただ、こことの取引はまだ正式に決まったわけではないらしい。今朝方、社長自らマルグリット商会のオーナー、マルグリット・サイモフを訪ねる姿をうちの監視が確認しているが、その時には取引は締結されなかったようだな。ここも引き続き、メイウッド貿易会社を取り締まるまでは、監視対象となっている」


 最後にもう一度、グレーメンが会議室に集まった面々を見渡し、会議を締め括った。


「逮捕の決行は、五日後。それまで各自連絡を取り合いながら、準備を頼む」




 ☩☩☩




「メイウッド貿易会社か……確かに初めて聞く名前だな」


 リアーナが今朝の会議を元に調べ、まとめあげた資料を読みながら、ライナスは呟いた。


 大手の貿易会社の名は大体記憶していたが、この会社名は初めて見る。添付されている貿易会社社長の写真は、どこかの集まりで取られたものらしい。目的の人物はかなり小さく映っているが、離れた位置からの撮影でもはっきりとわかるほどに、整った容貌をしていた。


 資料によると、メイウッド貿易会社社長のクリストファー・メイウッドは、淡い金色の髪、菫色の瞳の美男子らしい。


「沿岸警備隊が言っていましたが、会社を興してから二年、ガルストラ国内の業者と取引をはじめてからは、まだ半年と経っていないようです。それまでは主に、タガラスを中心として活動していたようですね。それと……ガルストラとの取引を始めると同時に、彼の生国であるリアンタとも取引を始めています」


 何とはなしに書類に目を通していたライナスだったが、リアーナの言葉に思わず姿勢を正した。ライナスの意識に引っ掛かる箇所があったのだ。


「リアンタ?」


 ライナスが聞き返せば、リアーナが「はい」と頷いた。


「生まれはリアンタの首都、ティレス。ラスフィアさんの故郷でもありますね」


 クリストファー・メイウッドとラスフィアが同郷と聞き、ライナスは唸った。


 会議が終わったあと、ライナスはグレーメンに、マルグリット商会とメイウッド貿易会社に関しての詳しい情報を求めた。


 クリストファー・メイウッドには部下を交代で張り付かせているらしいが、その部下の一人から上がって来た情報によると、クリストファー・メイウッドはマルグリット・サイモフとの話し合いのあと、従業員の一人と親し気に話をしていたらしい。その従業員と言うのが、ラスフィアだったのだ。


 そしてクリストファーと同郷とくれば、二人は知り合いである可能性が高い。否、知り合いであることはほぼ決定だろう。


「……本当に、事件に遭遇する率が高い子だな」


 ライナスは、思わず心の声を漏らしてしまった。


 彼女との出会いがそもそも連続誘拐事件の最中、被害者と警察隊としてであったし、その後も殺害未遂事件の目撃者、暴行未遂事件の被害者、そして今回は、麻薬密輸の首謀者と見做されている人物の関係者だ。


 まだ関係者で済んでいるのは幸いだが、これから彼女がどう事件に関わって来るのかは未知数だ。これまでのことを考えれば、警戒しておくに越したことはない。


「リアーナ。うちからも彼女に、監視と言う名の護衛を付けた方が良いと思わないか?」

「思います」


 即答だった。


 レイドを見れば、苦い表情をしている。ラスフィアのことが心配だが、自分がその役目を買って出るわけにもいかず、さりとて他の者に任せる気にもなれずに葛藤しているのだろう。


「こういう密偵役はお前が適任なんだが……」


 わざとらしく視線を送れば、レイドがくぐもった声を出した。応とも否とも判別の付かない唸り声だ。


「……とはいえ。今主戦力のお前に抜けられても、困ると言えば困る。五日後には必ず居て貰わなければならないからな」


 監視を付けたいのは山々だが、今言った通りの理由でレイドを監視に出すには問題があり、他の警察隊員に監視を頼むにも、理由が事件に遭遇しやすいからでは弱い。


「……まあ、幸いにも彼女はほぼ毎日ここへ出勤して来ているわけだし、交代でちょくちょく売店に顔を出していればなんとかなるだろう。もし彼女がクリストファー・メイウッドと接触するにしても、あちらには常に監視がついているわけだしな。滅多なことは起こらないはずだ」


 ――起こらないはず、だったのだが。


 五日後の密輸現場取り押さえの決行日、その現場となる貿易港によもやラスフィアが出向いていようとは、この時のライナスは想像すらしていなかった。


ライナスの一人称は、気を許した者の前や、プライベートでは〈俺〉。それ以外、今回のような公式の場では〈私〉です。

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