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運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
第三章 運命の恋は偽りの果てに

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040.気付いた気持ち

 

 アレンに襲われ、レイドに助けられたそのあと。


 ラスフィアはレイドに抱えられたまま、意識を手放してしまった。


 最後にとんでもなく眠かったことを覚えているので、きっとアレンに襲われるという極度の緊張状態のあとにレイドに助けられたことで安心し、緊張の糸が切れてしまったのだろう。


 ラスフィアが目を覚ましたのは、かつて父のトルロイが寝かされていた医療室のベッドだった。目を開けた時には、クロエとリアーナの二人が傍に付き添っていてくれた。倒れた事情が事情だったので、なるべくなら女性が付いていた方が良いと判断されたらしい。


 実際、クロエの顔を見た時には、ラスフィアは心から安心することが出来た。けれどリアーナの顔を見た時には、少しだけ気まずい思いをしたことは、表情には出ていなければいいと思っていた。




 ☩☩☩




「え? ハマートンさんが?」


 心配だからまだ傍にいるというクロエを、大丈夫だからと言って仕事に返したあと、リアーナがアレンの現在の状況をラスフィアに話してくれた。


 リアーナの話だと、アレンは警察隊を解雇、前世でいうところの懲戒免職となったらしい。それだけではなく、処罰を受けたアレンは、暫定ではあるがそのまま禁錮三ヵ月となったのだとか。


(暫定とはいえ、さすがに処分が決まるの早くない……?)


 アレンに襲われたのは、数時間程前のことだ。


 となると、アレンの処分はその日のうち、しかも数時間もしないうちに決まったことになる。


 だが、やはり警察隊が警視庁内で女性を軟禁して襲おうとするなど、よほどの事態ということは理解できる。そういった事情も考慮した上で、早急に処分が決まったのだろうと納得した。


 リアーナも、ラスフィアが考えていたことと同じことを口にして、憤慨している。


「当然です。むしろ刑が軽いくらいですよ。市民を犯罪から守るはずの警察隊が、女性を襲おうとするなんて……。しかも警視庁内で」


 リアーナは、その顔にはっきりと嫌悪の表情を浮かべている。それについては、ラスフィアもまったく同感だった。


 二人きりになる状況を作った一端はラスフィアにあるとはいえ、それでも、アレンのしたことが許されるわけではない。


「あと……アレン・ハマートンの他にも二名、処罰を受けた警察隊の者たちがいます」

「……ハマートンさんの、他にも?」


 ラスフィアはレイドたちやロイを抜かせば、アレン以外の警察隊員とはほぼ接点がない。唯一あるとすれば、あの熱いお茶をかけてきた女性だけだったが――。


「同じく、治安部在籍のリンジー・アンヴィルが解雇。クリフ・シャンクリーが一ヵ月の謹慎処分となりました」


(リンジーって……あの女性?)


 男性の方は知らないが、女性の名には聞き覚えがあった。確か、あの女性は食堂で「リンジー」と呼ばれていたはずだ。


「……その人たちはどうして」

「……リンジー・アンヴィルについては、アレン・ハマートンへの幇助ですね。ただ、クリフ・シャンクリーについては、幇助とまでは判断されませんでした。彼は、二人の様子がおかしいことに気付いていた。けれど、それを然るべき人間に報告しなかった。それが処分の理由です」


(幇助……してたのね、あの人……。まあ……あの人は良いとして……)


「その……クリフさんって人。何だか巻き込まれてしまっただけのような……」


「いいえ、ラスフィアさん。それでも彼は、警察隊なんです。クリフ・シャンクリーは、アレン・ハマートンたちが何をしようとしているのかおおよその検討が付いていながら、貴女を助けるために動かなかった。仲間を信じたかった気持ちはわかりますが、気付いた段階で彼が止めていれば、貴女があんな目に遭うことはなかったかもしれません」


(そう言われると、まあ確かに……)


 一般人ならまだしも、リアーナの言う通り、そのクリフという彼は警察隊だ。悪事を働こうとしている者の行動に気付いたのなら、たとえそれが勘違いの可能性があろうとも、やはり何かしらの行動を起こすべきだったのだろう。


「リンジー・アンヴィルについても、解雇だけではなく法律に基づき処罰するべきでした。……あの人、貴女にお茶をかけたそうですね」

「えっと、はい。聞いたんですね……」


 リアーナが無言で頷いた。その沈黙が恐ろしい上に、目が据わっている。


「私も以前、かけられました。私の場合は、水でしたが」

「リアーナさんも⁉」

「私が特別班に入ったのが、気に入らなかったようです」


 リアーナからの告白に、ラスフィアは顔を顰めた。


(あの人、まさかリアーナさんにまでちょっかいをかけていたなんて……。じゃあ、小説の中に出て来たリアーナさんに嫌がらせをしていた人って、もしかして、あの人? ……っていうか。やっぱり水が普通よ……!)


 おそらくは、嫉妬の具合がリアーナに対するよりも、ラスフィアに対する方が上だったのだろう。


「まあ……レイドにしっかり報復されてたみたいだけど」


 小さな声で落とされたリアーナの言葉に、ラスフィアの胸が反応した。


(う……忘れていたわけじゃないけど……)


 頭の片隅に、わざと追いやっていたことではある。


(……レイドさん。レイドさんの言っていたことは、本当なの? でも、そしたらリアーナさんは?)


 あの時のレイドの言葉は、リアーナにもしっかりと聞こえていたはずだ。けれど二人だけとなった今でも、リアーナはそのことに触れない。触れる気がないのか、たいして気にしてはいないのか。


(やっぱりリアーナさん……。レイドさんのこと、なんとも思っていないの?)


 ラスフィアとしては、今の二人の関係の進展具合は、とても気になる事柄だ。


 レイドの番と判明してしまった今は、特に。


 ただ、気にはなるが、同時にまたか、と感じてもいる。最近のラスフィアは、番に振り回されっぱなしだ。本来なら番など関係ない、人間だというのに。


(聞かなかったことには……出来ないわね。アレンさんの時よりはっきりと、言っちゃってるもの)


 レイドの番だと聞いても、嫌な気持ちにはまったくならない。だがリアーナのことを考えれば、喜ぶことだってできないのだ。


 だが、ラスフィアはそこではたと気が付いた。


(喜べないって……もしかして私、喜びたいの?)


 アレンの時は、ただ困惑するだけだった。嫌だとさえ思っていた。けれどレイドから番だと言われた時、何よりも驚愕が先に立ってはいたけれど、決して嫌ではなかったのだ。


(……嘘でしょ? リアーナさんがいるのに……? 番だってだけで、ヒロインの椅子にでも、座るつもり?)


 ラスフィアは、自分では何の努力もしていない。


 小説の中のレイドとリアーナのように、共に試練を乗り越えて、精神的な絆を結んだわけでもない。


 ただ番だというそれだけの理由で、レイドの傍にいていい筈がない。


(いえ、でも……。まだあの言葉が本当だと、決まった訳じゃないわ)


「……リアーナさん、あの、私がレイドさんに助けられた時のことなんですが……」

「はい」

「……レイドさんが、私のことを、番だと……言っていたような?」


 聞き間違いですよと、そう言われることを期待してとぼけてみたが、リアーナからは当然のごとく肯定の答えが返って来た。


「はい。そう言っていました」


 そう言って、リアーナは静かにラスフィアを見つめている。その瞳に、ラスフィアに対する怒りや嫉妬は微塵も感じない。


 それどころか、驚きさえも見当たらないことに気付き、ラスフィアは無意識に唾を飲み込んだ。


「……もしかして。知っていましたか?」


「……はっきりと、レイド自身が私の前で、貴女が番だと口にしたわけではありません。けれど、彼の貴女に対する態度を見ていれば……予想はつきます」


(リアーナさんが知っていた……。なら、やっぱりレイドさんの言っていたことは、本当のこと?)


 だが本当にラスフィアがレイドの番だと言うのなら、レイドはラスフィアと会ったその時から、すでにラスフィアを自分の番だと認識していたということになる。出会ってからしばらくして番だとわかることなど、あまり考えられることではない。


 ラスフィアは、はじめてライナスの執務室で事情聴取を受けた時のことを思い出した。


(リアーナさん、レイドさんが匂いがするって言って、部屋を飛び出していったと言ってた……)


 それに、レイドも言っていた。どうなんだ、と聞いたライナスに対し、間違いない。彼女だ、と。


 その言葉の意味するものすべてが、ラスフィアをレイドの「番」だと示していたのだ。


(やっぱり……レイドさんは、あの時から私が番だとわかってたんだ……)


 なのに何故、レイドはそのことをラスフィアに告げなかったのか。


(そんなの……わかり切ってる。認められていないからよ。レイドさんはもともと、番なんて信じてなかったし……)


 きっとレイドがあの場でラスフィアを番だと宣言してくれたのは、ラスフィアの身を護るためだ。レイドの番だと周囲に知られれば、手を出す相手は、いなくなるから。


「でも……」


 茫然としていたラスフィアだったが、再びリアーナが話し始めたことで、一旦己がレイドの番であるという事実を、再び頭の片隅に追いやることにした。


「でも、はっきりとは言われていなかったから……もしかしたら貴女がレイドの番だというのは私の勘違いで、本当はアレン・ハマートンの番なのかもしれないと、思ってしまって……」


「……リアーナさん?」


 何故かリアーナが、苦しそうに眉を顰めている。


(もしかしたら……私はレイドさんの番ではないと、リアーナさんはそう思いたかったんじゃ……)


 だがリアーナが考えていたことは、ラスフィアのそれとは異なっていた。


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