↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
第三章 運命の恋は偽りの果てに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/78

037.決戦の場への道案内

 

 売店の休日は、週に一回。だが実は、ラスフィアの勤めるマルグリット商会は、ほぼ連日開いている。完全な休みとなると、ほとんど月に一日だけだ。


 そこに勤める人間も基本、週休一日。前世、週休二日で働いていた記憶のあるラスフィアは、休みが一日だけってなんて無理ゲーと、最初は思っていた。けれど、これが意外とこなせてしまうのだ。


 昔から休日関係なく、実家の手伝いをしていたことも関係している。けれど、前世よりも仕事中の息抜きに対し、皆感覚が緩いからという理由が、おそらくは第一に挙げられるだろう。


 良い意味で、仕事とプライベートが融合しているのだ。

 なので、皆気軽に仕事中に売店に寄ってくれたりする。


 仕事中だって普通に歓談するし、お茶もする。個人の采配に頼っている感じだ。その代わり、仕事が忙しい時には就労時間関係なく働くことが多い。


 そして、今日は週に一回あるラスフィアの休暇の日。


 今日、売店にはラスフィアの代わりに、マルグリット商会本店から助っ人が来ているはずだ。同じように、ミュッテが休みの時も、代理の者が来ることになっている。


 けれどラスフィアは現在、休みだというのにガルストラ警視庁内をうろついていた。アレンと話をするためだ。


 先日リアーナと話をしたことで、決意を固めることができた。アレンには申し訳ないが、はっきり断ろうという気持ちになることができたのだ。


 できたのだが――。


 実は昨日の夜、ラスフィアはとても寝つきが悪かった。


 覚醒と浅い眠りを繰り返していた最中、以前見た悪夢をまた見てしまったのだ。


 物も言わず、何を思考することもなくベッドで寝かされているらしい自分。そこまではいつもと同じだったのだが、昨日の夢では、ベッドに横たわっているラスフィアの周囲に、誰かがいたような気配があった。

 

 それが誰かはわからない。誰か一人というよりは、複数人の気配があった。しかもその気配は、ラスフィアの知っている人たちのような気がしたのだが――。


(まあ、如何せん夢だから……。朝起きた時に覚えていた情報だって、あとから補完したものなんだと思うけど……)


 とにかく昨夜は、眠りたいのに眠れない、なんとももどかしい夜になってしまった。


 しかも朝起きた瞬間、会いに行こうにも、自分がアレンの所属を知らないことに気が付くというおまけつき。


(ハマートンさん、あれだけ売店に来てくれてたのに……どこに所属しているとか、そういう話、全然しなかったわ)


 警視庁とは一言に言っても、前世と同じ、様々な部署がある。


 リアーナやレイドたちは、凶悪な犯罪事件を捜査したり、武力が欲しい現場に助っ人に行ったりする、特別犯罪捜査班、略して特別班。ロイは町中で起きる犯罪や諍いを取り締まる、警邏隊に所属している。


 けれどアレンが一体どこの部署にいるのか、ラスフィアはアレンから聞いていない。


(誰かに聞くしかないわよね。そして誰に聞くのが一番早いかと言えば……)


 ライナスに聞くのが、一番手っ取り早い。


 というより、ラスフィアは食堂の他はライナスの執務室以外訪ねたことがないので、そこ以外に行きようがないのだ。


 もしかしたら総合案内所のようなものもあるのかもしれないが、そういった場所があるのかどうか、あるとしたら何処へ行けばいいのかすら、ラスフィアは知らなかった。


(今度、もうちょっと警視庁内のそれぞれの部署の配置を知っておいた方がいいのかもね……)


 これではいざという時、たとえば地震や火事の時など、何処に逃げればいいのかもわからないだろう。


 しかし、今日はそれをしている余裕はない。主に心の余裕が。


 とにかくまずは、ライナスのところへ行き、アレンの居場所を聞く。それが今ラスフィアがするべきことだ。


 事前に連絡を入れていないので、もしかしたら執務室には誰もいないかもしれない。いたとしても、仕事が忙しく、ラスフィアの相手をしている暇もないかもしれない。


 そしてそれは、突然訪ねられたアレンにとっても同じことではあるのだが、駄目だったら駄目で、今度はアレンの都合の良い時に、約束を取り付ければ良いと思っていた。


 できれば今日決着を付けたかったが、無理でもそれは突然訪ねて来たラスフィアが悪いので、次回の訪問はアレンの都合に従うつもりだった。


 とにかく、売店で仕事をしている時にアレンに来られても、そこではっきりと告白を断ることは心情的に難しい。そこで次の約束を取り付ける手もあるが、ラスフィアはとにかく、はやくに決着をつけてしまいたかったのだ。


(マクスウェルさん……忙しくなければいいけど……。というより、誰かいてくれればいいけど……)


 もし誰もいなかったその時は、さすがに、今日アレンに会うことは諦めるつもりだった。あるいは、売店の前でアレンが来るのを張っているという手もある。


(……そっちの方が、手を煩わせずに済むかしら)


 とはいえ、絶対にアレンが来るとは限らないし、やはり売店の前でアレンを捕まえるとなると、人の目にも触れやすい。しかも、来るかもわからない人をただ待ち続けるのも建設的ではない。


(でも、結局はハマートンさんの職場を訪ねる行為も、人の目に触れるという点ではそう変わらないのよね。むしろ、ハマートンさんが普段仕事をする場所での返事だけは、避けなくちゃ……)


 ラスフィアがアレンの番という事実を周囲に知られたくないように、アレンだって、告白を断られた事実など、周囲に知られたくないだろう。


(どこか、場所を移せたらいいけど……)


 そうこう考えている内にも、ライナスの執務室へ向けて、ラスフィアは足を動かしていた。


 ライナスの執務室には、これまで二度ほど来た事がある。


 最初は、誘拐事件に巻きこまれた際の事情聴取の時、二度目はクロエに会いに来た時だ。警視庁内は広かったが、多分辿り着けるはず。


 結局、二、三度道を間違えはしたが、ラスフィアは無事ライナスの執務室へ辿り着くことができた。


 呼吸を整えてから、緊張しながら扉を叩く。


 返って来た声は、ライナスではなくリアーナのものだった。


「……あの、ラスフィア・エーレンです」


 しばらくしてから、扉が開いた。


 扉の隙間から見えたのは、リアーナの驚いたような顔。


 一瞬だけ何に驚いているのだろうと思ったが、すぐに、きっとリアーナはラスフィアがここを訪ねて来たこと自体に驚いているのだろうと思い至った。


(そうよね……。そう何度も気軽に訪ねていい場所じゃないわよね)


 外に出ていないとき、ライナスたちは主にこの執務室で犯罪捜査の職務に当たっているはずだ。そんな場所、普通なら一般人がほいほい訪ねて良いわけがない。


 だが、それでも今回ばかりは勘弁してほしい。


「あの……お仕事中すみません。ちょっと教えていただきたいことがあったんですが、ここ以外に頼れるところがなくて……」


 リアーナが少しだけ驚いたような表情のあと、優しく微笑みながら入室を許可してくれた。


「どうぞ。お入りください」




 ☩☩☩




「それで……聞きたいこととは?」


 勧められた来客用のソファへ座り一息ついたあと、リアーナに用件を聞かれた。


 どうやら今は部屋の主であるライナスと、そしてレイドは不在にしているらしい。


(でも……リアーナさん一人の方が聞きやすいか)


 ライナスたちにアレンの居場所を聞くとなると、何故アレンのところへ行く必要があるのかと問われるかもしれない。否、問われることになると思っていた方が正解だ。


 ラスフィアとしては、少しでも早くアレンとのことに決着を付けたいという思いから、気持ちが焦った結果としての、今回の訪問だった。


 けれど、ライナスたちにはそんなことは関係ない。ライナスたちが仕事中だとわかった上で訪ねて来て、警視庁内に勤める人物の所在を聞く。その理由を言わずに済ませることなど、できないだろう。


 けれど、リアーナはすでに、ラスフィアに関する番の噂を知っている。ならば理由を言うにしても、気持ちが楽だ。


「あの……どこへ行けばある人に会えるのか、それを教えて欲しくて」

「ある人……?」


 一瞬だけ怪訝そうに眉を顰めたリアーナだったが、すぐにその理由に思い当たったようだ。真剣な表情でラスフィアを見つめている。


「いつも、売店に来てくれる人なんですが、私、何処へ行けばその人に会えるのかわからないんです」


「……もしかして、噂のお相手ですか?」

「はい……」


 相手がリアーナとはいえ、肯定する時には緊張した。しかも、休暇中のラスフィアとは違い、リアーナは仕事中だ。やはり仕事中に聞くことではなかったかも知れないと思い、恐縮したせいもある。


 けれど、リアーナはそんなことはまったく気にしていないかのように、聞いてきた。


「そのお相手の、お名前は?」

「アレン・ハマートンさん、です」


 アレンの名を告げれば、リアーナが一瞬考える仕草を見せたあと、「知りませんね……」と答えた。


「……私は知りませんが、人事部に聞けばわかると思います。少々お待ちいただけますか?」


「え、あ、ありがとうございます!」


 ラスフィアに微笑んだあと、リアーナが事務所に備え付けてある電話の受話器を取った。おそらく、人事部に連絡を取ってくれているのだろう。


 リアーナはまず電話口で人事部へ繋げてほしい旨を告げ、そのあとアレンの名と所属を尋ねる言葉を告げた。二言三言の会話のあと、リアーナが礼を言い、受話器を置いた。


「アレン・ハマートンの所属は、治安部のようですね」

「治安部……」

「場所、わかりますか?」


 リアーナの問い掛けに、ラスフィアは「いいえ」と首を横に振った。


「では、私が案内しますね」

「でも……お仕事中に申し訳ないです……! あ、仕事中にこんなことを聞きに来ておいて今更ですが……」


 案内してもらえるというのなら、まだ警視庁内を把握していないラスフィアとしては、とても助かる。だが、さすがにそこまでして貰うのは気が引ける。


「構いませんよ。書類を提出しに行くついでです。警視庁内は経路が複雑ですからね。もう少ししたら警部とレイドも戻って来ると思いますし、部屋には書置きを残しておきますので、ご心配なく」


 柔らかく微笑むリアーナを見て、申し訳ないと思いつつも、ラスフィアは好意に甘えることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。