↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命なんて信じない~小説の世界へ転生したら、ヒロインのお相手(ヒーロー)の番でした~  作者: 星河雷雨
第二章 運命の恋は意外と身近に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/78

028.運命の恋をしてみたい/お節介

 

「来週からマルグリット商会の支店が、現売店の後に入ることになった」


 その台詞を放った直後、一瞬だけ、レイドの耳がピクリと震えたのをライナスは見逃さなかった。


「マルグリット商会ですか?」


 リアーナが、大きな目を更に大きくして驚いている。


 リアーナがマルグリット商会という単語に反応したのは、レイドと同じ理由だろう。マルグリット商会には、彼女が勤めている。レイドの「番」である、ラスフィア・エーレンが。


「ダーラさんが、歳で売店を辞めたがっていたのは知ってただろ。あそこは跡継ぎがいない。必然的に、ダーラさんが辞めると売店そのものもなくなるはずだったんだが、それじゃ皆納得しないだろう」


 同意を求め視線を送ると、リアーナが「その通り」とばかりに頷いた。


「確かに、食堂からあぶれた際には、あの売店によくお世話になりました。残業用の軽食も購入出来ましたし、それ以外の商品も頼めば手に入れてくれましたから……。なくなると、ちょっとどころではなく困りますね」


「すでに三日前に打診は済んでいる。そして今日、承諾の旨の書類が提出された。売店に来る従業員はラスフィア・エーレンと、ミュッテ・ロイガルドの二名だ」


 ラスフィア・エーレンの名を出したところで、今度こそレイドが大きな反応を見せた。


「……お前が手を回したのか?」

「人聞きの悪い。だが――。だとしても、何か問題があるか? お前にとっては都合がいいじゃないか」


 レイドはまだ何か言いたそうだ。だがこの場にリアーナがいるため、言いたいことが言えないのだろう。仕方がないので、ライナスはリアーナをこの場から退場させることにした。


「ああ、リアーナ。悪いが、この書類を急ぎ経理部に出してきてくれないか」

「……承知しました」


 何か感じる所があったのか、リアーナは部屋を出る間際、一瞬だけ視線をレイドに向けていた。しかしレイドはその視線に気付いていながら、自ら視線を合わせるようなことはしない。


 案の定、扉が閉まった途端、レイドが喰いついてきた。


「なんでお前がそこまで焦ってんだよ。絶対手を回しただろ」


 こちらを睨む金色の瞳は、鋭い光を放っている。仮にも上司だぞと言いたいところを我慢して、ライナスは言葉を続けた。


「だから、人聞きの悪いことを言うな。次の店を探していたから、少しばかり意見を言っただけだ。マルグリット商会はガルストラ警視庁に近く、大通りで長年店を営んでいるという実績もあり、店主の人柄も信頼出来る。うってつけだろう。それに……先ほどはお前にとっては都合がいいと言ったが、実際にはそうとばかりも言えんぞ」

「はあ?」


 レイドが訝し気な視線を向けて来る。その視線をしっかりと受け止め、ライナスは忠告の言葉を口にした。


「彼女、やばいぞ」


 やばいぞ、と言ったところで、レイドが座っていた椅子から勢い着けて立ち上がった。その表情には焦りが見える。


「どういうことだ!」

「あれは、やばい。誰彼構わずにあんな笑顔を振りまいていたら、絶対勘違いする奴らが出て来るぞ」

「は⁉ てめー……」

「俺は勘違いしたりしないぞ? 彼女の笑顔に他意はないことはわかっている。だが、少々言動が危なっかしいというか、思わせぶりと言うか……いや、思わせぶりは違うな。やはりあれは無自覚……」

「おい!」


 胸倉を掴もうとするレイドから逃れ、ライナスは先日、ガルストラ警視庁の前で途方にくれていたラスフィアの姿を思い出した。


 黒一色の隊服姿の隊員がひしめく中、淡いラベンダー色のワンピースを着たラスフィアは、まるで風に揺れる一輪の嫋やかな花のように、人目を引いていた。


 彼女の佇んでいた一画の空間だけ、静謐さと美しさが漂っていた。美術館で高名な画家の描いた絵画を見ている時のような、感動と高揚を覚えたほどだ。


 あの場にいたほとんどの連中の視線を集めていたことを、ラスフィア本人はきっと気付いていない。


「……亜人は繊細で儚い美しさを好む奴が多いからな。自分達とは真逆の性質だからこそ、惹かれるのだろうか」


 ラスフィアがレイドの番と知っているライナスでさえも、一瞬目を奪われてしまった。


「おっまえな……」

「レイド。ここには亜人が多く勤めている。彼女がここに勤めるということは、お前との接点も多くなるが、他の奴らの目に付く機会も多くなるということだ」


 そう言えば、レイドがぐっと言葉に詰まった。


 まさか己の「番」だからと安心しているとまでは思っていないが、どうやらレイドは「番」という事実に意識を取られ、彼女自身が魅力的な女性であるということを忘れているらしい。


 たとえ亜人でなくとも、ラスフィアの美しさは人間相手にも十二分に通用する。万が一、ラスフィアがレイド以外の相手を選んだ時、一体レイドがどういった行動に出るのか、付き合いの長いライナスにさえもわからない。


 そしてそれはレイドだけではない、ロイにも言えることだ。


「番」を見出しながら、その「番」を得ることが出来なかった亜人。その末路はどうせ碌なものではないだろう。そう思うからこそ、ライナスはこうして本来ならばいらぬ世話を焼いているのだ。


 先日、クロエに会いに来たとラスフィアから聞いた際も、ライナスはとっさにレイドに案内させることを思いついた。ラスフィアの気持ちを酌んだことも確かだが、それを口実にレイドとの仲を取り持とうとしたことも事実。


 だが、案内から帰って来た時のレイドがやけに機嫌が良かったこと以外は、結果としてラスフィアとレイドとの仲が特に進展している様子もない。もし進展していたとしたら、このようにいつも通りに仕事をしているわけがないのだ。


「さっさと何か行動を起こせ」


 そう発破をかければ、レイドが横を向き、小さな声で呟いた。


「…………なった」

「……は?」

「……名前で呼び合うようになった!」

「……聞こえている」


 まさか、とライナスは唖然とした。あの時、ニヤニヤとした顔で帰って来た理由はそれなのかと。こいつは、それくらいのことで満足しているのかと。


「……名前で呼び合うようになったから、何だって言うんだ。お前……本当にレイドか?」


 ライナスのその反応と言葉に、レイドが渋い表情をした。どうやら、自分でも同じことを思ったらしい。そのままそっぽを向いてしまったレイドの横顔を見つめ、ライナスはあまりに想定外の現実を前に、「番」という存在の理不尽さと恐ろしさを知った。


「前途多難だな……」




 ☩☩☩




 マルグリット商会警視庁支店の初日、本当なら開店時間直後に挨拶に行くはずが、緊急の仕事が入り結局訪問は午後へとずれ込んでしまった。


 午後、それも閉店間近ともなれば客は少なく、数人がうろうろと売店の前をたむろしているのみだった。それでも、それすら以前ではあまり見かけなかった光景だ。


 以前も店は繁盛していたが、皆買い物が終わればさっさといなくなっていた。二言三言、馴染みの客が店主と会話をしていることもあるが、それ以外の用もなく店の前をうろういている者など、皆無と言い切ってしまってもよいくらいだった。


 店が一新され、目にする商品が真新しいせいもあるのだろうが、おそらくは若く美しい女性が二人揃って店番をしていることが、こうして男たちがむらがっている一番の理由だろう。


 ラスフィアとともに店に立っているミュッテという女性も、ラスフィアに負けず劣らず美しい女性だった。マルグリット商会は容姿で店員を選んでいるのかと、勘ぐってしまう程だ。


 ライナス達に気付いたラスフィアが、小さくこちらに手を振りながら、満面の笑みを浮かべている。その笑顔を見た周囲の者たちが、ぼうっと見蕩れていることなど、やはり本人はまったく気付いていないらしい。


 そして横を見れば、同じようにラスフィアの笑顔に見蕩れているレイドの姿が目に入り、ライナスは軽く溜息を吐いた。これでは、その他大勢と変わらないではないか。


 ぼうっとしたままのレイドをその場に残し、ラスフィアに声をかけるべく、ライナスは売店に向かって歩を進めた。


「やあ、エーレン嬢。来るのが遅くなって申し訳ない。本当は開店直後に来ようと思っていたんだが、急な用事が入ってしまってね」

「いえ、そんな……。来て頂けただけで、嬉しいです。トレスタさんも、レイドさんも、ありがとうございます」


 ラスフィアがそう口にすれば、すかさずリアーナが「こちらこそ、ありがとうございます」と礼を言った。


「この売店にはお世話になっていたんです。……その、こちらも引き続き、個人での商品の取り寄せは出来ますか?」

「ええ、もちろん。時間はかかりますが、承っております」

「そうですか、良かった……。では、また後日注文をしに伺います」

「お待ちしております」


 リアーナとラスフィアが親し気に言葉を交わしている間ずっと、レイドは商品ではなくラスフィアのことを見ていた。明らかに目を奪われているといった様子だが、そのことに本人が気付いているのかどうか。


 少なくとも、他人が見れば常とは様子の違うレイドを、不審に思ったはずだ。


「私は特に個人的な注文はないが……これを貰おうか」


 目に付いた焼き菓子を購入すると、ありがとうございます、とラスフィアが眩しい笑顔で礼を言った。


「お前は?」


 何か買え、と暗に促すと、突然会話を振られたレイドがハッとした様子で、瓶詰め飲料を手に取った。そして同じようにラスフィアに笑顔で礼を言われ、多少そっけなくはあったが、言葉を返している。


 レイドがラスフィアのことを特別扱いしていることは明白だが、そのやりとりは、到底「番」を前にした亜人のそれとは思えない。とはいえ、真実「番」を見出した亜人を、ライナスはまだロイとレイドの二人しか知らないのだ。ロイとレイド、どちらの態度が「正解」かなど、わかりようもない。


 ロイはあからさまな求愛行動を「番」に対して見せているが、「番」の反応は芳しくない。


 一方、レイドは本当に「番」なのかと訝しむほどに、「番」に対して消極的だ。


 本当に、二人の友人の前途は多難だと、ライナスは内心で頭を抱えた。


*ロイの友人表記について。以前ロイはライナスの後輩と書きましたが、ライナスはロイのことを後輩でもあり、友人でもあると認識しています。なので、「友人」表記。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。