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想いを込めて!セイレーネス!

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ハープの音色が美しく響き、セイレーネスがゆっくりと口を開く。


教科書によれば、セイレーネスはその個体ごとに奏でる音楽が異なるという。

優しくハープを撫でる愛らしい彼女は、果たして一体どんな愛の歌を歌うのだろう。


背後で大暴れしている龍神に恐怖を覚えつつも、私は期待を込めて唾を飲み込んだ。


「キ"ュエェエエーーーーーーーーッ!!!」


バラードだと思った?残念ロックでした。


一瞬で鼓膜を破るほどの声量でシャウトしたセイレーネスに、意味が分からないまま両手で耳を塞ぐ。


確かに魂からの叫びだけどね、間違ってないけれどもバラードだと思い込んでたよね。


思わず同じく耳を塞いで目を点にさせたワイパーくんと目配せしてしまったのはしょうがないと思う。

芸術レベルが高すぎて、凡人の私たちには理解が追いつかなかった。


「ギュエギュエーーーーーーーイ!!!」


さらに驚くべきはその威力で、彼女を中心に音が反響して周囲の木々を薙ぎ倒すだけでは飽き足らず、既に大荒れの波をさらに煽っていくではないか。

まるで台風が直撃したような大荒れ模様に、本当にやばいのはセイレーネスの方なのではないかと疑いたくなった。


『ーーーーーーーッ!!』


そしてその驚愕の爆音は、分からず屋の彼の鼓膜も平等に撃ち抜いたらしい。


上空からヴィルヘルムくんたちを常に狙っていたその巨体は地面へと落下し、頭を振りながら大きく悶え始めたのだ。


「ほ、ほら見てワイパーくん!反応してる!反応してるよ!」


「いいのか!?いいのかあれで!?ただ煩くて困ってるだけじゃね!?」


「そ、そんなことないって!セイレーネスの歌にテンションが上がってヘドバンしちゃっただけだよ!!きっと今に冷静になるはず!」


「本当何言っちゃってんの!?!?そんなイケイケな龍神なんて俺嫌なんですけど!!!」


『ーーーーーーーッ!!!』


だがヘドバンだけでは満足しきれなかったのか、ギラリと瞳を鈍く光らせた龍神はセイレーネスの歌声をかき消すほどの爆音で叫ぶ。

すると彼の叫び声に反応するように、身体から滲み出ている気味の悪い黒い霧が意志を持った触手の如く伸びて地面に突き刺さる。

そしてそのまま手足のように蠢いて、蜘蛛さながらの姿で自身の身体を引きずり始めた。


「ねぇなにアレ!!?冷静になったのアレ!?むしろ悪化してない!?キモくない!?」


「きききききっとセイレーネスの歌に感動して一皮剥けちゃっただけだって!!!」


「剥けるどころかたちまち重装備になってんだけど!?趣味悪いもんエゲツなく着込んでるんだけど!?……え、ちょ、待て…アイツ…こっち…来てね…!?」


奇声をあげながら突進してくる龍神にはセイレーネスしか映っていない。

しかしセイレーネスめがけて突っ込んでくるということは、その隣にいる私たちも相当に…まずい。


「ににににに逃げるしかねぇ!!!!」


「そ、そんなこと言われてもセイレーネスが…!!」


「一旦中断させればいいだろそんなの!!」


「セイレーネスは歌い出したら最後まで歌い切らないと止まれないの!!」


「はぁ!?なんじゃそりゃあ!!!?」


「キュキュキュキューーーー!!ギュキュッキュッーーーー!!」


「ちょ、お前、止まれーーーー!!!」


どうしよう、どうしよう。


なかなかのスピードで詰め寄ってくる巨体に顔面から血の気が失せていく。

ものすごく怖いけどとにかく、セイレーネスを置いて逃げるわけにはいかない。

せめてもの思いでセイレーネスの前に立ち、両手を広げて固く目を閉じる。


なにかの間違いで止まってくれたりしないかな。

なにかの間違いで突撃されても怪我しなかったりしないかな。


誰か、助けてくれたりしないかな。


そんなあり得ない希望がチラリと頭を過ぎると同時に、強烈な稲妻が私たちと龍神の間に落ちて息を呑む。


「……………獲った。」


そしてその場に現れた彼は確かにそう呟くと、指をパチンと鳴らす。

たちまち光り輝く鎖が出来上がると、一瞬にして不気味な霧ごと龍神を縛り上げていく。

身動きが取れなくなり目の前で横転した龍神に恐れながらも、前髪を掻き上げた青年に見惚れた。


「……キュ?」


同時にセイレーネスの歌も終わり、何が起こったのかと目を瞬かせる彼女に彼は軽く笑ってみせる。


「はっ、一丁上がりだ。それにしても、なかなかいい歌だったぞセイレーネス。」


本当に………カッコよかった。


「ヴィ、ヴィ、ヴィルヘルム様ぁああああああ!!」


そのカッコよさたるや、あれだけヴィルヘルムくんを毛嫌いしていたワイパーくんが彼に抱き着いて泣き出してしまうほどである。


「怖かったぁあ!俺もう、本当だめかとぉおおお!!」


「っ、ええい離れろ猿めが!!無駄に力が強い!!」


「でも本当間に合って良かったね。流石にカンザキさんが前に出たときは駄目かと思ったよ。」


「俺が間に合わないわけないだろう。カンザキを守るのは当然のことだからな。」


「………ありがとう、ヴィルヘルムくん。」


なにが当然かは分からないけど、心の底から彼に感謝を告げると彼は顔を真っ赤にして視線を逸らした。

彼が人気な理由、本当に良く分かった気がするな。

そんな思いでワイパーくんを振り払っているヴィルヘルムくんを眺めていると、隣から話しかけられる。


「よければ後でもっとヴィルを褒めてあげてくれないかな。」


「え?」


「きっと面白いものが見れるよ。」


よくは分からないが、ウインク付きで言われてしまうと頷くしかない。

とにかく今は、目の前のことだけを集中する必要がありそうだ。


『ーーーーーーーッ。』


鎖でぐるぐる巻きにされて身動きが取れなくなった龍神は唸り声をあげる。

近くにいる私たちなど視線に入っていないかのように、セイレーネスに釘付けになっているのだろう。

龍神は何を思っているのか分からないけれど、それでも今ならば彼を解放できる気がした。


「セイレーネス、おいで。」


「キュ!!」


セイレーネスと手を繋いでゆっくりと龍神の身体に触れる。

今度は引き込まれそうになるあの感覚もはない。

先程触れた時は全く分からなかったが、ひんやりとした鱗の感覚とともに彼の鼓動が確かに感じ取れた。

不規則で、それでいて力強い。


『ーーーーーーーッ。』


怖がるように瞳を見開いた龍神を安心させるように撫でたセイレーネスは、気恥ずかしそうにしながらも歌を口ずさむ。


今度はハープの演奏なしの、優しい歌声。

セイレーネスは音を外さないはずなのに、少し音痴なその歌声に龍神は静かに目を閉じる。


触れているだけでも感じる安心感と喜び。


「すぐに会わせてあげるからね。」


深く息を吸って覚悟を決めた私は、普段通りにゆっくりと龍神の身体を撫でた。



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