箱庭から出れたよ!ヴィルヘルムくん!
いつもありがとうございます!!
大変長らくお待たせいたしました!!
ようやくヴィルヘルムくんが更新できるぐらいになりましたので、今日からまたボチボチと更新していきたいと思っております…
全然更新出来ず申し訳ありませんでした…!!
長い期間待っててくださった皆様、本当にありがとうございます。
えっと話の内容は…ですね…
中間試験の最中初恋の人に会いたい可愛い子のために頑張ってたら、その相手が頭おかしくなってたのであの子の歌を聴かせてやろうジャン!からの続きとなっております。(注・簡略化されてます。)
楽しんでいただけたら幸いです…!!
今後ともよろしくお願いします!!
荒波に飲まれ、それでも必死に上を目指した先に待っていたのは空だった。
絵に描いたような青空でなくどんよりとした曇天ではあったけど、境界線なんて存在しない本当の空の下。
ふわりと浮かぶ身体が、箱庭から脱出できたことを実感させてくれる。
この時確かに、私は空を飛んだのだ。
「えぇ!?な!?ま、マジで釣れやがったぁあ!?」
首根っこに引っかかったなにかに引っ張られ、釣り上げられる過程で。
「あはは、ほらやっぱり釣れたでしょ?でもちゃんと釣り上げないとぶつかっちゃうよ?」
「わ、分かってんだよ!そんなこと!!っつうかお前も手伝え!!」
「キューーー!!」
「ちょおま!?邪魔すんじゃねぇってあ、やべ」
不穏な声が聞こえたかと思えば、ズザザザザザッ!!という荒い効果音がバッチリと当てはまる見事なまでの顔面着地が私を襲う。
なんだかよく分からないが、なにかを間違いなく失敗された。
恐る恐る自分の顔に手を触れれば普段と変わらない肌の張りのなさにホッとする。
どうやら顔の皮がズル剥けになる事態は避けられたらしい。
(つ、面の皮が物理的に分厚くて本当によかった…。)
「キューーー!!!」
「うっ!!」
聞き覚えのある声と共に腹部にかかる衝撃で身を起こす。
お腹の周りを覆い隠すようにキラキラと光る水色の髪が宙を舞うと、宝石のように輝く大きな瞳が私を捉えた。
「セイレーネス…!」
「キュウキュウ!!キューーーー!!」
「どうしてここに…あ、相方のワイパーくんは?」
「ギュギュ。」
「な、なんて濁った声。すっごい嫌そう…なにかあったの?っ、まさか乱暴されたり」
「なんでそうなんだよ!?なんもしてねぇっての!!むしろ丁重に扱ってるわバーカバーカ!」
「そ、そうだよね。それなら良かっ…顔汚なっ。」
「なぁお前やっぱナメてるよね?会うたびに俺の扱い雑になってきてるよね!?誰のためにここまで走り回ってやったと思って」
「やぁカンザキさん。彼が不甲斐ないばかりに乱暴な着地になってしまってごめんね。大丈夫かい?怪我とかしてない?」
「え、あ、うん。大丈夫。ありがとう。」
「聞けよ!!!」
さりげなく伸ばされた手に、流されるように思わず自分の手を重ねてしまう。
ひぃ!!なんて恐れ多いことを!!私の馬鹿!
すぐに我に返って手を離そうとしたがその前に私の身体を引っ張り起こし、顔についていたと思われる砂を優しく払ってくれた。
「よかった。女の子が顔に傷を作ったら大変だからね。」
(これがモテる男シオン・ハリベル!!恐ろしい子…!!)
コミュ障の私はこういう時なんて返したらいいか分からない。
あたふたと慌てていると気のせいなのか、背後から得体の知れない絶対零度の視線がこちらを貫いてくるのを感じた。
恐る恐る振り返れば、ずぶ濡れになりながらも芸術並みに美しい顔立ちをした青年が前髪を搔き上げながら怒りで目を吊り上げている。
「ヴィ、ヴィルヘルムくん!無事だったんだね!」
彼の名を呼んだが返事はない。
ただ一心に私より少し下を見つめているのでその視線を追ってみれば、重なったままのシオンくんの手と私の手に行き着いた。
「ひ、ひぃ!!ご、ごめんなさい!!」
慌てて手を離せば数回瞬きしたシオンくんは、花開くように微笑んで告げる。
「残念、せっかく役得だったのに。」
なんだそのあざとい顔は!!!怖い!
シオンくんの美しさに恐ろしくなってセイレーネスに抱きつくと、彼女は嬉しそうに私の頭を撫でた。
美男美女に挟まれて幸せですどうも。
一方で血管を浮かび上がらせたヴィルヘルムくんは雷を周囲に撒き散らしながら一歩ずつこちらに近づいてきた。
「シオン、我が友よ。ようやく来たかと思えば、随分と楽しそうじゃないか…!!」
「ぷくく、ごめんごめん。つい、ね。」
「つい?つい、だと!?そんな言葉で済ませられると思ってるのか…!!カンザキを救い出す名誉を譲ってやったというのに!!!」
「だったらヴィルも一緒にその釣り糸に引っかかってくればよかったじゃないか。脱出という名の大義のもとに、カンザキさんにくっついてさ。」
「……カンザキの脱出時間、龍神を抑え込む必要があったことを知っててその台詞を言うのか貴様。」
「あちゃー龍神の箱庭だったんだこれ。いくらヴィルでも無理か。そうだよね、本当ごめ……ブッッハ!!なにその顔もう無理可笑しくて死ぬ!!」
「よし上等だ。カンザキ、そんな奴の手など放火して炭にしてしまえ。大丈夫だ…カンザキなら出来る…!!」
「え、えぇ…?」
「というより掴まるならばやはり俺の手にしないか!!?そうだろう!!さぁ!!いつでも構わん!!…………来い!!!」
「え、いや、あの、そんな怒気迫った顔で来いとか言われても…そっち落雷が酷いので結構です。」
「おのれ!」
「つうかそんなことよりリュウジンって一体何の話」
『ーーーーーーッ!!!』
「だから俺に最後まで喋らせろよ!!…ってはぁあああ!?なんだありゃああああ!!」
ワイパーくんの悲鳴はもっともだ。
波が大きく唸り天に登っていったかと思えば、姿を現したのは私たちを追ってきたと思われる魔法生物。
「龍神……」
『ーーーーーーッ!!!!』
鼓膜が破れそうなほどの声量で叫ぶ龍神の声に誰しもが耳を押さえる中で、たった1人…いや1匹は目を輝かせた。
「……キュキュ…?」
「セイレーネス?」
素肌が見えないほど真っ暗な霧に覆われて、黒い竜巻のように立ち昇った龍神だったが、なにかを察したようにセイレーネスは手を伸ばす。
「キュ、キュキュ…!」
彼女は嬉しそうに人間に化けていた自身の身体を元の姿へと戻し、尾ひれを動かして彼の元へ飛び立とうと力を込め始めた。
やはりこの龍神は彼女が愛する海の声に違いない。
しかしそんな私たちの喜びを打ち消すように、龍神はその口元に赤黒い球体を浮かび上がらせ吠える。
彼は、セイレーネスごと私たちを打ち消そうとしていた。
「っ、駄目!待ってセイレーネス!!」
「キュ?」
目前に迫る光線。
ショックを受けたように固まるセイレーネスを抱きしめてなんとか頭を下げさせる。
「流石だカンザキ!!セイレーネスは任せる!」
「ヴィ、ヴィルヘルムくん!!」
そのタイミングにあわせて光線を弾き返したヴィルヘルムくんは、私たちを背中に庇うように龍神の前に立ちはだかった。
「嘆かわしいことだな…龍神ともあろう奴が、惚れた女の顔すら忘れたか!!」
『ーーーーーーッ!!!!』
「吠えることしか出来ぬ愚か者めが!この俺が撃墜してやろうそこに直れ!!」
「なんだか楽しそうだねヴィル。僕も参加するよ。」
「構わん!だが殺すなよ!時間を稼ぐんだいいな!」
「いいい言っとくけどおおおお俺は無理だかんな!?」
「ほざけ!誰も貴様のような猿に期待などしていない!せいぜい邪魔にならないよう隅で丸くなっているがいい!!」
「そう断言されるとすげぇ腹立つ!」
牙を剥く龍神に向けて、臆することなく駆け抜けていく黒と白。
「おいカンザキ!セイレーネス!!俺たちは邪魔だから隅に避けておこうぜ!ほらこっちに」
「待って。」
一瞬ぼうっと彼らの後ろ姿を眺めていたが、ワイパーくんの言葉にハッとする。
「やらなきゃならないことがあるの。」
「は!?やること!?」
そう、なんのために箱庭から出てきたのかといえば……セイレーネスに助力を乞うためである。
彼らが時間を稼いでくれている間やるべきことがあると、抱き抱えていたセイレーネスの顔を覗き込み口を開いた。
「セイレーネス、歌を、歌を歌ってくれないかな。」
「…。」
「はぁ!?何言ってんだお前!!歌なんて聞いてる場合かよ!!それにセイレーネスは…その…そんな状態じゃ…」
ワイパーくんの言う通りセイレーネスは放心状態。
さっきまで輝いていた瞳は陰り歌を歌える状況でないことは一目でよく分かる。
それでも、と彼女の両手を握り締めて必死に彼女の心に訴えかける。
「今、あなたの大切な人は彼の身体を取り巻いてる黒い霧に苦しめられてるんだと思うの。確証はないけど…私の変換系魔法でもしかしたら助けられるかもしれない。」
「………。」
「でも半人前の私だけじゃ彼の心に届かないの。だからお願い、セイレーネスの力を貸してほしい。」
視線を逸らしたセイレーネスは答えない。
だけどいつまでもヴィルヘルムくんたちに時間稼ぎをお願いするわけにはいかない。
「ねぇセイレーネス、あなたはどうしてセイレーンからセイレーネスに進化できたか忘れちゃった?」
「キュ…?」
「数十年たった一人を思って歌い続けないとその姿にはなれない。大切な人の力になりたくて、必死に頑張って進化したんでしょう?自分で言ってたじゃない、海の声と一緒にいたいって。その気持ちは嘘だったの?」
「キュ…!…キュ、キュキュ…!」
「ほら自信を持って大妖精セイレーネス!あなただけが持つ純粋な愛の旋律で、海の声を導いてあげて!!」
「お前…。」
「……キュキュ!!」
力強く返事をしたセイレーネスは輝く尾ひれを地面に叩きつけ、瞳を閉じる。
そしてくるりと回した手元に小さな水色のハープを出現させると、大妖精に相応しい貫禄で大きく頷いた。




