猟奇殺人を企てた自殺志願者は化物に出会った
ここに最初にやってきた人間を殺して首を吊ろう。
頑張って生きていても、報われないのなら意味がないのでは? と気付いた11月の半ば、私は自殺を決意したのだった。
だけどなんだかそれはそれで癪だった。
だからと言ってあの犯罪者共に報復して死んだところで、あとあと私が死んだ理由を犯罪者共への当てつけだと思われるのも癪だった。
なら一人で死んでしまえとも思ったが、自分だけ奪われっぱなしなのも癪だ。
だから、この後この場所、つまりはこの廃墟にやってきた人を殺してしまおう。
一人なら一人、複数なら全員。
どうせ、こんなところにわざわざ出向くような奴はまともではない。
もしも無垢な子供が冒険とか称してやってきたとしてもみるも無残にぶっ殺そう。
大丈夫、きっとあとあとの教育方針につながるから。
それでも理想は馬鹿な大人だ、気持ちの悪いカップルとか、いきがってる不良だと嬉しいな。
装備品はナイフと金槌、ナイフで刺して痛みで動けなくして、金槌でいろんなところをガンガンガン、とやる作戦。
男だったら股間を潰そう、女だったら……子宮でも取り出せばいいのだろうか? それとも股の間にナイフでもぶっ刺してみる?
男の股間のアレを潰すに相当する女への攻撃って何がふさわしいんだろうね?
わからないけど色々やろう。
きっと楽しいと思う。
ワクワクしながら誰かが来ることを待つ。
この廃墟は小さなビルだ、3階建てのちっちゃな建物。
その2階で私は私の犠牲者を待つ。
時刻は17時少し前、もうすぐ日も暮れ大禍時。
人を殺すにふさわしい魔境の時間がやって来る。
誰かが来るまで暇だからとスケッチブックを開いて絵を描き始めた。
2枚目の絵が半分くらいまで描き終わったその時に下で騒音が。
やっと鼠がやってきたとスケッチブックをほっぽり出して人の悪い笑みを浮かべたかったのだけど、なんかやかましすぎじゃね?
ドッカンドッカンいってるんだけど、何やってんの、私の被害者さんは。
不良の喧嘩にしても派手すぎる、極道のドンパチにしてもうるさすぎる。
というか、なんて言ったらいいんだろ……建物の壁とかがぶっ壊されてるような凄まじい音な気がするのだけど?
まさかの解体工事? こんな時間から始まるとは思わないし。
「……さて、どうするか」
低く呟く、私は下に行って人殺しを決行すべきか、しないべきか。
答えは是。
私には何もない、この先死ぬ人間が後のことを考えて、怖気付いて逃げるなど。
「今ここにいることへの全否定だ」
というわけで殺人は決行だ。
誰であっても殺してやる、殺されても息の根を止めてやる。
そうっと階段を下っていく。
右手にはナイフを装備、左手には金槌を装備。
いざという時のために制服のポケットにもナイフを一本ずつ。
あとは、この時のために1階に置いておいた工具セットも使えるだろう。
ドライバーでたこ焼きみたいに目ん玉ほじくり出してやるぜ、なんて思いつつコソコソ移動。
階段を下って下って一階廊下へ。
ゆっくり足音を立てぬよう、音が聞こえる方向へ向かう。
そしてその部屋? って言っていいのかよくわからない広いスペースに行き当たる。
その入り口の横から顔を少しだけ出して、中を確認。
「……?」
思わず困惑の声を上げかけた自分の口を慌てて抑える。
覗き込んだその先で、人間くらいの大きさの生命体が殺しあっていた。
人間くらいの大きさの生命体が普通に人間であったのなら、全く問題はなかった。
だけど、中で殺しあっていたのは人間じゃなかった。
どちらも人に似通ったカタチをしているけど、人じゃない。
だからと言ってゴリラでも猿でもチンパンジーでもオラウータンでもなかった。
一言で言ってしまえば、化物。
そのうちの一つは、人の形を模したようなのっぺりとした金属、金属のくせに人よりもよほど滑らかに素早く動く何か。
もう片方は人間の表皮に無理やり金属を取り付けてごちゃごちゃにしたような生き物。
こちらは人間のようにも見えるが、取り付けられたような金属が時折がしゃりがしゃりと自動で動いているから、余程のテクノロジーを使っていると考えない限りは人間ではない。
軽率に人を殺そうと思っていた。
軽率だけど、本気で人間という生き物の形を踏みにじって、壊してしまおうと思っていた。
だけど、化物を殺す決意は当然のようにしていない。
さてと、シンキングタイムだ。
私はここにやってきた人間を殺そうとしていた。
だけど、実際にやってきたのは人に似た形をした別の何かだ。
さて、では私が取る行動は?
殺すか、殺さないか。
殺しにかかってもいいだろうが、あれは誠に残念ながら"人間"ではない。
では、前提が崩れてしまう。
というか、両方ともあんな金属の塊みたいなやつだし、私の装備がきくとも思えない。
ならば素直に上に戻って人間が来るのを待つべきか?
だけど、ここで逃げても怖気付いたみたいでなんとなく癪だった、決意とか鈍っても困るし。
なら、特攻かますのもアリなのでは?
迷っているうちにすでに1分は経っていた。
殺しあってる謎の生命体はどちらもどちらへの決定打を与えられずにいた。
ふむ。
なら、存分に殺しあってもらって、どちらがどちらかを殺した瞬間、生き残ってた方を殺そう。
それなら殺せそうな気がする。
と、脈略も根拠もない自信を持ちつつ、謎の生命体の戦いを眺めることにした直後。
全身銀色ののっぺりしてる方が、私を見た。
あ、やば、そう思った時には時すでに遅し。
顔の真横を何かが勢いよく通り過ぎた後、右頬に鋭い痛みを感じると同時に甲高い音が耳をつく。
触れると薄く血が付いている、おそるおそる振り返った先に落ちていたのは小さな刃状の金属片。
突然あらぬ方向に攻撃したのっぺりとした金属の化物に、金属で装飾されたような化物はこちらに振り返る。
「……っ!!?」
「あ……」
驚愕で人間で言うところの顔に相当する部分を歪めた化物に、私はバツの悪い顔を向けていた。
「あなた、何者です?」
聞こえてきた声はどれのものだと顔をキョロキョロ動かすと、声の主はなんと意外なことにのっぺり金属だった。
「……えっと」
自殺の前に猟奇殺人を無計画に行おうとしていたJKですと素直に答えるべきか迷った。
迷ったというか、咄嗟のことで言葉が出てこなかったと言うか。
少しオロオロしてたけど、数秒後にストンと。
ま、いいか、殺しちゃえ。
ナイフの刃は通らなそうだと右手に握ったナイフを背後に放り投げる。
そしてすぐに左手に握っていた金槌を右手に持ち替えて。
「ぶっ殺す」
ただそれだけ宣言してとりあえず立ち位置的に近かった金属で装飾された化物に殴りかかった。
その後の記憶は途切れていた。
気がついたら私は自分の部屋のベッドに寝っ転がっていた。
あれ? 化物は? なんで私の部屋?
周囲を見渡して、何もいない。
見慣れた部屋だ。
……まさかの夢オチ?
確かにあれは現実離れしていた。
部屋の中を見渡すと、あの廃墟に持って行ったはずのものが散乱している。
――猟奇殺人を起こそうという計画を立てているうちにあんな夢を見たのだろうか?
そんな事を考えながら、散乱しているものを片付けようとベッドから降りた。
片付けているうちに、私はあることに気づいて首をかしげた。
「スケッチブック、どこいった?」




