海鮮カルツォーネ
「気にしてません。顔を上げてください。」
私はお手本のようなお辞儀をしたままの国王に声をかける。
恐る恐る顔をあげてこちらを見た国王の顔は青白かった。
不思議に思い後ろを振り返ると、黒いオーラを放っている笑顔のアランがいた。
「何でもするので、どうか国を滅ぼしたりなさらないでください。」
国王は青白い顔き悲痛な表情を浮かべ、アランに懇願した。
「…」
アランは、少し考えている素振りを見せて全く答えない。
「…アラン?」
アランの服の裾をくいっと引っ張る。
アランは「何でもない」と言って、私の頭を撫でた。
「2度目はない…。あと、一つ頼みがある。」
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ちりん、ちりん
鈴の軽やかや音が店内に響き、扉が開く。
「イレーナ、また来てくれたの?」
店の奥にある厨房から、ルーチェが笑顔で出迎えてくれる。
ルーチェは、相当パン作りを頑張っているらしく、頬に小麦粉が付いていた。
ハンカチで頬を拭いてあげると、ルーチェは照れたように笑った。
「新作は上手くいってるの?」
「勿論!イレーナもきっと気に入ると思うわ!」
自信満々のルーチェは私の手を引っ張り厨房に連れていく。
厨房に入り、店を経営しているルーチェの姉夫婦と従業員達に挨拶をしていく。
ルーチェは出来立てらしく、ほんのり温かいカルツォーネを「自信作なんだよ」と意気込んで私に手渡す。
カルツォーネを齧ると、海鮮カルツォーネなのか海老やアサリなどの味がする。
しかしそれだけでなく、その中に魔界に生息している魚が入っていることに気がつく。
「美味しい。これならきっとみんなパクパク食べちゃうわ。」
ルーチェは、照れたように笑った。
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この数ヶ月で人間界と魔界の関係は大きく変わった。
アランは、魔界と人間界が友好関係を結ぶことを望んだ。
人間界の国王達も快く承諾してくれた。
人間界と魔界の民達がいきなり良好な関係を築くのは難しいということで、人間界と魔界で互いの生活に理解のある者を送り込むことになった。
人間界には私、そして魔界にはフィリプが頻繁に行き来して互いに抱いている恐怖を払拭し、良好な関係を築こうという作戦だ。
そして、人間界の首都にパン屋を開くことになったルーチェには魔界の食材を使ったパンの開発をお願いしている。
やはり、良好関係を築くためには胃袋を掴むことも重要だと思う。
まだ、この試みは始まったばかりで、困ったことも多い。
しかし、いつの日か色々な種族の人達が皆で笑顔で食卓を囲む日が来ると私は思う。
物思いに耽っていると、ルーチェが私の服の裾を引っ張った。
「ねぇ、お城で手合わせしてるフィルとアランにこのパン持っていこう!」
「お店は?」
「大丈夫!あ、お姉ちゃん、店番お願いね」
「もう…イレーナさん、ルーチェ、気をつけてね。」
レジ打ちをしていた姉のエレナに、厨房からルーチェが叫ぶ。
ルーチェは作ったばかりのカルツォーネを片手に持ち、城に向かって走り出した。
きっと、世界はこれからどんどん変わっていくだろう。
変わり続ける世界のなかで、この幸せな生活がずっと続くように私は願う。
「ほら、イレーナ、何ぼーっとしてるの?早く!」
「今行く!」
私はルーチェに返事をし、力強く地面を蹴って駆け出した。
Fin♡
作者の立花花穏です。
「魔王の妻、始めました」完結しました!
書き終えられるか不安だったのですが、無事書き終わってホットしております(笑)
数ある小説の中から本作をお読みいただき、ありがとうございました。




