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【完結】『誰やねん?』と絡んできたキツネ顔の性悪王太子へ。  作者: 木風


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第二話 ……あんたとは、なんか、うまいこと言い合いできひんな

その夜、歓迎の晩餐会が開かれた。

ヴィオレントは末席に近い位置から、上座に座るカルメリア皇女をちらちらと見ていた。

向こうはこちらを見ていない。

隣に座った帝国の外交官と、淀みない言葉でやりとりしている。


「殿下」

「なんや」

「先ほどから皇女殿下をご覧になっておられますが」

「見てへん」

「見ていらっしゃいます」

「……食事の方向に目ェやっとるだけや」

「皇女殿下は上座においでです。殿下の食事は左手にございます」

「ロイド」

「はい」

「今日は早よ寝えや」

「承知いたしました」


そう言ってロイドが視線を前に戻したとき、カルメリア皇女がこちらを見た。

皇女は表情を変えず、ただわずかに顎を引いた。

それだけだった。

ヴィオレントは、気づけば視線を自分の皿に落としていた。


おかしい。

なにかがおかしい。


普段ならば、いくらでも言葉が浮かぶ。

言いたいこと。

突っ込みたいこと。

相手の急所。


それがすらすらと口をついて出るのが常なのに、今日に限って、言葉がどこかに引っかかって出てこない。

あの皇女の顔を思い出すと、なぜか、いつもの言葉を探す前に、別のなにかが先に来る。

何だろう、これは。


「殿下」


横からロイドの声が聞こえた。

さすがに声に出してはいない。

口の動きだけで、主人に伝えている。


「晩餐会ですよ。ちゃんと食べてください」


ヴィオレントは舌打ちをして、グラスを取った。

上座の方向は、もう見なかった。

見なかったが、それはそれで落ち着かない。

王宮の外では、ラルディア帝国の旗が、アルバシオンの旗と並んで夜風に揺れている。




翌朝。

回廊を歩いていたロイドは、中庭の噴水のそばに人影を見つけた。

カルメリア皇女が、昨日と同じ場所で空を見上げている。

そして、その少し離れたところで、ヴィオレントが柱に背を預けて腕を組んでいた。


声をかけていない。

ただ、そこに立っている。

ロイドは己の目を疑った。

あの男が、誰かのそばで、何も言わずにいる。

その様子に気づいたのか、カルメリアが振り返った。


ヴィオレントと目が合う。


「……おはようございます」

「…………おはようさん」


ヴィオレントが、普通の声で挨拶を返した。

ロイドは、柱の陰で、そっと祈った。

どうかこのまま、何も言いませんように。


「あんた、朝からこんなとこ来てなにしとるん」


台無しだった。

しかし今日の言葉には、いつもの毒がない。


「昨日も思うたんやけど、なんでそこで空見上げとるん」

「故郷が懐かしくなりましたの」

「帝国、遠いもんな」

「ええ」

「……来たくなかったん?」

「来ることは、決めておりました。ただ」

「ただ?」

「あなたが、思っていたよりも少々、厄介な方でしたので」

「厄介って」

「昨日の中庭でのこと、お忘れですの」

「……忘れてへん。俺が悪かったのは認めてるやろ」

「そうですわね」

「じゃあもうええやろ」

「わたくしは怒っておりませんよ」


ヴィオレントが、少し意外そうな顔をした。


「怒ってへんの」

「ええ。正直な方は、嫌いではありません」

「……なんか、それ、馬鹿にされてる気がするんやけど」

「まあ。そう受け取るのは、少し捻くれておりませんこと」


ヴィオレントは言い返そうとして、止まった。

いつもなら、倍にして返す。

相手の弱点を探して、的確に突く。

それが得意なはずなのに。

やっぱり、言葉が出てこない。


「……あんたとは、なんか、うまいこと言い合いできひんな」

「それはよかったですわ」

「よかった?」

「わたくし、言い合いは得意ではないのです。ただ、事実を申し上げることは得意ですので」


ヴィオレントは少しの間、その横顔を見ていた。

朝の光の中で、黒髪が揺れている。


おかしい。

また、そう思った。

おかしいけれど、それがなんなのかは、まだわからない。

わかりたくない気もした。


隣に立っていいか、と聞こうとして、でも自分がそんなことを言うはずもないと思って、ヴィオレントはそのまま黙って、噴水のそばに立った。

カルメリアは何も言わなかった。

ロイドは柱の陰から二人の様子を確認して、それからそっと回廊を引き返した。

今日のところは、これ以上見ていないほうがいいかもしれない。

そう思いながら。




その日の午後、ヴィオレントはロイドを呼んだ。


「ロイド」

「はい」

「ラルディア帝国の皇女が好きなもん、調べといてくれ」


ロイドは瞬きをした。

一呼吸おいて、また瞬きをした。


「……殿下、今なんとおっしゃいましたか」

「聞こえとったやろ。好きなもんや、好きなもん。食べ物でも宝石でも何でもええ」

「それは、どういった用途で」

「用途って何やねん。人に贈り物するのに、用途もなにもないやろ」

「失礼しました。……なぜ、でしょうか」


ヴィオレントは腕を組んで、窓の外を見た。

中庭の方向だった。


「知っといた方がええやろ。婚約者やし」

「…………はあ」

「なんや、その間は」

「いえ、何も」


ロイドは懸命に表情を管理した。

管理しながら、内心では小さくガッツポーズをしていた。

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