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【完結】『誰やねん?』と絡んできたキツネ顔の性悪王太子へ。  作者: 木風


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3/3

第三話 本当に、併合しますわよ

三日後。

ヴィオレントは中庭に、小さな包みを持って現れた。

カルメリアはいつもの場所にいた。

もはやそれが、彼女の定位置になりつつある。


「これ」


差し出された包みを、カルメリアは少し目を細めて見た。


「なんですの」

「開けたらわかるやろ」

「贈り物の説明としては、不親切ではありませんこと」

「……菓子や」


白い紙を丁寧に解くと、中から小さな焼き菓子が出てきた。

素朴な見た目だったが、香りがよかった。


「王都の東区に、帝国の食材を扱う店があるらしくて。あんたの故郷の菓子に近いって聞いたから。口に合うかどうかは知らんけど」


カルメリアはしばらく菓子を見つめていた。


「……ロイド様に、調べさせましたの」

「なんでそれを知っとるん」

「ロイド様が、嬉しそうにしておられましたから」

「あいつ後で説教したろ」

「やめてあげてくださいまし」


カルメリアは菓子を一つ、そっと口に運んだ。


「……おいしい」


小さな声だった。

いつもの凜とした声とは少し違う、ただの少女の声だった。

ヴィオレントは、まだそっぽを向いていた。


「そうか」

「故郷の味に、近いですわ」

「それはよかった」

「……ありがとうございます」


ヴィオレントは少し黙って、それからようやくカルメリアの方を向いた。


「俺さ」

「はい」

「口が悪いのは、たぶん直らへん」

「存じております」

「周りから嫌われとるのも、わかっとる」

「そのようですね」

「……でも」


言いかけて、止まった。

それからもう一度、口を開く。


「あんたのこと、嫌いとちゃうから。それだけ」


カルメリアは目を瞬かせ、今まで見せたことのない顔をした。

涼やかでも、裁定を下す顔でもない。

ただ、少し困ったような、それでいてどこか温かい、そんな顔。


「……ずいぶんと、遠回りな言い方ですこと」

「うるさい。これが精一杯や」

「まあ。わたくしも、あなたのことが嫌いではありませんわ」

「……そうか」

「ただし」

「ただし?」

「次にわたくしに向かって、平民ですかなどとおっしゃったら」

「……」

「本当に、併合しますわよ」


ヴィオレントは数秒ほど固まって、それから噴き出した。

声を出して笑ったのを、カルメリアは少し驚いた顔で見ていた。


「それ、脅し文句として便利すぎひん?」

「ええ。あなたにはよく効きますもの」

「性格悪いな、あんた」

「あなたほどではありませんわ」


ヴィオレントはまた笑った。

噴水の水音が、穏やかに続いている。

彼はカルメリアの隣に、今度は迷わず座った。

カルメリアは何も言わなかったが、菓子の包みを少しだけ彼の方へ差し出す。

一つ取っていい、という意味だと気づくのに、ヴィオレントには少し時間がかかった。


「……もらってええの」

「どうぞ」

「毒とか入ってへん?」

「あなたが持ってきたんですのよ」

「せやったわ」

「今から入れても構いませんことよ」

「勘弁してえな」

「本当に、未来の婚約者に向かって、失礼ですわね」

「冗談やん」

「わたくしも冗談ですわ。毒は入っておりません」

「その言い方やと、別のもんは入っとるみたいに聞こえるんやけど」

「故郷への懐かしさなら、少々」


ヴィオレントは黙った。

それから、焼き菓子を一つ口に入れた。

甘すぎず、香ばしい。

どこか遠い国の味がした。


「……うまいな」

「でしょう」


カルメリアは少しだけ誇らしそうに笑った。

その表情を見て、ヴィオレントはまた言葉を失った。

うまく返せない。

いつものように、余計なことも言えない。

それなのに、不思議と悪い気分ではなかった。


少し離れた回廊の陰で、ロイドはその光景を見ていた。

転生前に読んだコミカライズの中で、ヴィオレント・ラムノア・アルバシオンは『毒舌だけど実は純情』という記号を背負った攻略対象だった。

けれど、ロイドの知るどのページにも、こんな顔の王太子はいなかった。


人を試すように笑う顔でも、相手の急所を見つけて楽しむ顔でもない。

遠い国の焼き菓子を、隣に座った皇女と分け合いながら、言葉を探して黙っている顔。


ロイドは、音を立てないように小さく息を吐いた。

これはもう、攻略対象という役割ではない。

毒舌王太子という記号でもない。

ただ一人の女性の前で、初めて言葉の使い方を間違えたくなくなった男の顔だった。


ここから先は、原作の知識でどうこうできる場面ではないのだろう。

願わくば、あの二人が争うのは国境線ではなく、互いの扱い方くらいで済みますように。

そう祈りながら、ロイドはそっと回廊を引き返した。


中庭に、午後の光がゆっくりと傾いていく。

王国の旗と帝国の旗が、今日も並んで揺れていた。

その後、王太子ヴィオレントが誰彼構わず絡む悪癖が完全に消えたわけではない。

ただ、彼が余計なことを言いかけた瞬間、隣に立つ皇女が静かに扇を開くようになった。

そして、涼やかな声でこう告げるのだ。


「併合」


それだけで、王太子は黙る。

王宮の者たちは知った。

アルバシオン王国でもっとも絡まれたくない人間は、王太子ヴィオレントである。

そして、その王太子がもっとも逆らえない相手は、ラルディア帝国第二皇女カルメリアである、と。

最後までお付き合いありがとうございました。

実は、あまり関西弁の男性には良い思い出はないんですが…よろしければブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
面白いのですが、何で王太子だけ関西弁? 何故に一人だけ方言を喋るのか気になってしまった。 もしかしたら王妃が○阪出身なのでは。
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