第1部 開拓者達 第3章 信濃編 第5話 承諾
田尻は、海野の郷で金刺藤太と会って、百済行きの人選を行った。
多真木と田尻は、多道笹に連れられて千曲川に出て、その川を南下しました。そこに集落が見え、その集落は海野の郷(長野県東御市本海野)と言いました。その郷は多真木が出会ったという老人の集落だと多道笹が教えてくれました。
この地は、善光寺と軽井沢を結ぶ北国街道に面していて、江戸時代には海野宿があった場所です。この海野の地名は、平安時代に信濃国小県郡海野荘という荘園があった場所で、その当時の海野氏が支配していたことで名付けられました。この海野氏の祖は紀氏から分かれた大和楢原氏が東国に下野し、滋野氏に、そして、平将門の乱の頃、海野氏となりました。海野氏の末裔には真田氏もいます。
「道笹さん この集落に金刺の老人がいるのですか」
「ここは 金刺一族の集落です たぶん 多真木さんが出会った老人とはこの集落の首長だと思います」
多道笹は、集落の首長の竪穴住居に案内してくれました。
「あぁ 道笹ではないか まぁ お入り」
「金刺藤太さん 今日は 珍客を連れてきました」
「後ろにおられる方は」
多真木は、頭を下げて。
「こないだ お会いしましたね」
「そうだ 安曽の郷に行くと言われていた その後ろの人は」
「田尻といいます」
「多真木さん 安曽の郷での用事は済みましたか」
「はい 多道笹さんを日高の郷に」
「道笹さん 豊城入彦命さまの下で働くのですか それは出世ですね」
多道笹は、うっすら笑みを浮かべた。
「これからは 大倭国の時代になるから」
「ここにおられる方はミカドの下で働いているのですよ」
「田尻さんはミカドの下で どのようにお働きですか」
田尻は、話の展開が。思う通りに。心の中で話しやすくなったと。
「私 文部で書状の整理をしています」
「文字が読んだり 書いたりできるのですか」
「はい」
「そのような人がなぜ こんなところに」
「百済から奇妙な書状が」
「どのような話なのですか」
「戦い上手な人を送って欲しいと」
「そのような人なら 別にどこでも」
「それが ミカドは各地に国造を設置しようとされていて その地を支配している人に任命するつもりらしい もし優秀な首長であれば ミカドの一族と同等に扱うと言われています」
「私も その仲間入りできるのですか」
「できますとも ただ 百済に送る人を提供してくれるのなら」
「なるほど 条件付きか わかった その条件をのむよ」
「では 何方か」
金刺藤太は、最近この集落に大倭国から流れてきた人物が頭に浮かんだ。その人物、元は紀氏の出身で、滋野義隆といった。
「何時だった 大倭国からこの集落に住み着いた者がいます その人に声をかけてみましょう」
「そのようなお方であれば わたしが大倭国に連れていきます」
「大倭国に戻られるのであれば もう一人」
「一人でも増えれば助かります」
「そうですか では わたしの身内から」
このように科野の国から大倭国に人材の交流が盛んになり、ヤマト王権の中堅官僚に。そして、ヤマト王権からも上層部が度々科野の国に。例えば、景行天皇の巡幸や倭建命の東征など。また、継体天皇から欽明天皇の時代頃には、百済の弱体による朝鮮半島からこの科野の国に帰郷するものも多くあり、その人達がヤマト王権の上層部に就くことも。
田尻と金刺藤太との話が纏まり、多真木と多道笹は豊城入彦命がいる蒼海宮に向かった。
この話で、信濃編は終わります。




