問題ない
照明が、少しだけ強い。
白い背景。
立ち位置を示すテープ。
マイクは、胸のあたり。
「では、同じ質問をもう一度お願いします」
スタッフの声は丁寧で、慣れている。
ヒナタは、頷いた。
さっきと同じ。
わかっている。
「今回のツアーを終えて、今のお気持ちは?」
一拍。
口を開く。
「……そうですね」
言葉を探す間。
沈黙が長いわけではない。
でも、毎回ここで引っかかる。
「三人で、最後まで走り切れたのは……」
途中で止める。
違う。
でも、それじゃない。
スタッフは口を挟まない。
待っている。
「……手応えは、ありました」
安全な言葉。
何度も使った。
「ファンの方の反応も、すごく温かくて」
頷きが返る。
カメラは止まらない。
本当は、
音の話をしたかった。
あの夜の、
低音が床を伝った感じ。
跳ねた客席。
揃っていないジャンプ。
でも、それをどう言えばいいのか、
わからない。
「ありがとうございました。
もう一パターン、お願いします」
同じ質問。
同じ順序。
同じ期待。
ヒナタは、もう一度、息を吸った。
説明するほど、
音から遠ざかる気がした。
言葉にすると、
さっきまで確かにあった熱だけが、
少しずつこぼれていく。
終わったあと、
控室に戻る。
ハヤテはスマホを見ていて、
コウタは椅子に座ったまま目を閉じている。
「……どうだった?」
ハヤテが聞く。
「問題ない」
即答。
それが、
いちばん問題ない答えだった。
コウタが、
目を閉じたまま言う。
「問題ないって言う時ほど、
だいたい問題あるけどな」
ヒナタは、
少しだけ黙った。
ギターケースに手を置く。
音は、
まだ、ちゃんとそこにある。
なのに、
言葉だけが、追いつかない。




