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省略
現場は、静かに回っていた。
確認。
修正。
判断。
すべてが、速い。
「ここ、少しだけ抑えましょう」
「了解です」
説明はいらない。
理由も聞かれない。
ヒナタが口を開く前に、
空気が先に動く。
波形を見て、
一箇所だけ指を止める。
「ここ」
それだけで通る。
誰も、
「誰と作っているか」を聞かない。
資料には、
ヒナタの名前だけがある。
クレジット。
連絡先。
最終判断者。
すべて、一人分。
楽だ、と感じてしまう。
決めていい。
迷わなくていい。
待たせない。
現場は止まらない。
誰も困らない。
休憩中、
スタッフが何気なく言う。
「この感じ、安定してますよね」
ヒナタは頷いた。
「はい」
それで終わる。
Snow flakesの名前は、
最初から、一度も出なかった。
省略されただけだ。
帰り道、
イヤホンを外す。
街の音が、
そのまま耳に入る。
速い。
全部が、速い。
でも。
あのツアーの最終日みたいに、
誰かの音を待つ瞬間が、
今日はなかった。
それでも、
仕事は終わった。
問題なく。
滞りなく。
正しく。
待たなくていいことは、
楽だった。
ただ、
少しだけ、足りなかった。




