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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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187/213

揃っていない、でも止まらない

 ツアー初日。


 最初の音が落ちた瞬間、


 ざわめきが、

 はっきりと

 揺れに変わった。


 ――強い。


 音量じゃない。


 押しつけでもない。


 芯が、

 迷っていない。


 ドラムが走り、


 ベースが床を掴み、


 ギターが

 空気を裂く。


 コウタは

 前に出ない。


 ただ、

 音を支える。


 ヒナタの声は、


 以前より

 前に出ているのに、


 無理がなかった。


 客席が、

 遅れて追いつく。


 跳ねる。


 声が上がる。


 拍手が、

 曲の途中で混じる。


 終演。

 

 身体は正直だった。


 疲れる。


 移動も、

 確認も、

 調整も多い。


 でも。


 音を出すと、


 ちゃんと、

 鳴る。



 残っているのは、

 ひとつだけ。


 ――自分が、

 どう立つか。


 音に逃げない。

 空気に任せない。

 言葉にしようとする。


 ヒナタは、


 次の曲の

 カウントを取った。


 きている。確かに。



 数曲終わったところで、


 照明が

 少しだけ落ちた。


 拍手は、

 まだ完全には止まらない。


 コウタは、

 マイクに近づかない。


 一歩、

 後ろ。


 いつもの位置。


 息を整えてから、


 短く言う。


「……来てくれて、ありがとうございます」


 それだけ。


 歓声が返る。


「ツアー、回ってます」


 淡々と。


「どの街も、

 空気が違ってて」


 一拍。


「でも、

 ちゃんと届いてる感じがしてます」


 言葉を足しすぎない。


 説明もしない。


 少しだけ、

 間。


 コウタは、

 視線を落としてから、


 左右を見る。


 ハヤテと、


 ほんの一瞬だけ

 目が合う。


 次に、

 ヒナタ。


 声は出さない。


 合図もない。


 ただ、

 目配せ。


 ヒナタが、

 わずかに頷く。


 次の瞬間。


 ――低音が落ちた。


 床を伝う。


 腹に当たる。


 遅れて、

 空気が震える。


 ハヤテのキックが、


 客席を

 一段押し下げる。


 コウタは、

 もう何も言わない。


 マイクから一歩離れ、


 音の中に戻る。


 歌は、

 ヒナタが引き取る。


 前に出る声。


 コウタのベースは、


 前に出ない。


 でも、

 逃げない。


 ――ここにいる、と

 分かる音。


 客席が、

 遅れて跳ねる。


 揃っていない。


 でも、

 止まらない。


 照明が開き、


 音が

 重なりきったところで、


 ようやく

 歓声が追いついた。


 コウタは、


 少しだけ

 口元を緩めた。


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