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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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179/222

一人ではない

 朝のスタジオは、

 ひんやりと冷えていた。


「おはよ」

「おはよう」

「朝飯、食った?」


 他愛もない声が行き交う。


 ケースを下ろす音。

 ケーブルを伸ばす手。

 アンプの電源が入る。


 低いノイズが、部屋に広がる。


 ハヤテが、

 ドラムスローンの高さを少しだけ直す。


 コウタは、

 チューナーを足元に置いて、

 弦を一本、確かめる。


 ヒナタが、

 アンプのつまみを回す。


 小さく鳴らす。

 止める。


「こんな感じで」


 誰に向けた言葉でもない。


「うん」


 コウタが答える。


「問題ない」


 先に、

 三人で確認してから。

 

 一拍。


 クリックが鳴る。


 ドラムが入る。

 ベースが重なる。

 ギターが、その上に乗る。


 音は、

 揃っている。


 でも、

 急いでいない。


 一曲、終わる。


 ハヤテが言う。


「今の、

 もう一回やろう」


「了解」


 ヒナタが即答する。


 でも、

 もう一度、音を出す前に、

 一拍、置いた。


「テンポ、

 さっきより落とす?」


 コウタが、

 すぐに頷く。


「それで」


 クリック。


 音が、

 少しだけ深くなる。


 休憩に入る前、

 スタジオのドアがノックされた。


 エンジニアが顔を出す。


「すみません、

 確認だけ一つ」


 タブレットを掲げる。


「来週のレコーディング、

 入りが一時間早まります」


 一拍。


「全体の押しで、

 この枠しか取れなくて」


 誰も驚かない。


 ヒナタが、

 自然に口を開く。


「分かりました」


 言い慣れた返事。


 一度、


 視線が横に流れる。


 ハヤテ。


 コウタ。


「……大丈夫?」


 ハヤテが、

 スケジュールを思い出すように

 少しだけ考える。


「朝イチなら、

 機材の搬入だけ前倒しだな」


 コウタが言う。


「弦、

 前の日に張り替えておく」


 ヒナタが頷く。


「じゃあ、

 それで行こう」


 決まる。


 早い。

 一人ではない。


 エンジニアが頷いて、

 ドアを閉める。


 音が、

 少しだけ遠のく。


「増えてきたな」


 ハヤテが、

 独り言みたいに言う。


「うん」


 時間。

 枠。

 前倒し。


 曖昧だった忙しさが、

 数字と段取りに変わる。


 コウタが、

 ベースを肩に掛け直す。


「この曲、

 サビ前、

 もう少し削ってもいいかも」


 ヒナタが、

 すぐに否定しない。


「どの辺?」


 話が、

 音に戻る。


 でも、

 戻り方が違う。


 先に、

 三人で確認してから。


 クリックが鳴る。


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