音のないステージ
夜の街に、火の光が弧を描いた。
カウンターの向こうで、バーテンダーがボトルを放り投げる。
炎が一瞬、空中で花みたいに開いた。
「おお……」
ヒナタが思わず声を漏らす。
「フレアショーってやつ」
隣で、なぜかハヤテが得意げに言った。
「魔法みたいだろ」
「なんでお前が誇らしげなんだよ」
コウタが即座に突っ込む。
「いや、いいだろ。
初見の反応が一番いいんだから」
ヒナタは目を輝かせたまま、何度も頷いている。
「すごいな……
音ないのに、ステージ見てる感じする」
その一言に、ハヤテが少しだけ眉を上げる。
「気づいた?」
「うん」
ヒナタは店の奥を指差した。
「あそこ、
ドラム置いてある」
ハヤテは一瞬だけ間を置いてから、あっさり言った。
「うん。
たまに叩かせてもらってる」
「え」
ヒナタが振り向く。
「ステージ立ってんの?」
「立つってほどじゃないけどな」
そう言いながら、ハヤテはグラスを持ち上げる。
「気まぐれ。
タイミング合えば、って感じ」
「……いいな」
素直な、憧れに近い響きだった。
「こういう場所で叩くの、
楽しそう」
「楽しいぞ」
即答。
「音楽ってさ、
ライブハウスだけじゃないんだよ」
ヒナタは黙って、その言葉を噛みしめる。
火が、また舞う。
客席から、自然と拍手が起こる。
ヒナタの肩が、少し揺れた。
「……なあ」
「ん?」
「今度さ」
言い切らずに、でも目は真っ直ぐだ。
「俺も、
なんかやっていい?」
ハヤテは一瞬驚いた顔をしてから、すぐに笑った。
「いいに決まってるだろ」
コウタも、小さく頷く。
「向いてると思う」
ヒナタは照れたように笑って、グラスを両手で持った。
しばらくして、店を出たあと。
ヒナタが振り返る。
「今日さ」
「めちゃくちゃ楽しかった」




