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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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177/230

戻ってくる場所

 朝。


 コウタは、

 駅へ向かう途中で立ち止まった。


 ポケットの中で、

 スマートフォンが震えた気がして、

 足を止める。


 画面を見る。


 ヒナタからだった。


 昨夜の時刻。


 内容は、

 短い。


 すぐには打ち返さない。


 画面を閉じて、

 一度、息を整える。


 歩き出してから、

 もう一度だけ、立ち止まる。


 今度は、

 そのまま打った。


 余計な言葉は、入れない。


 送信。


 ポケットに戻す。


 電車が来る音が、

 遠くで鳴る。


 歩き出す。


 スタジオ。


 ドアが開いて、

 三人が揃う。


 挨拶は、短い。


「おはよう」


「おはよ」


 それだけ。


 機材を運ぶ。

 ケースを置く。

 ケーブルを引く。


 誰も、昨日の話を出さない。


 出さなくても、

 そこにあるのが分かっているからだ。


 ハヤテがドラムの位置を直す。

 コウタがアンプに電源を入れる。

 ヒナタがギターを構える。


 クリックは、

 まだ鳴らさない。


 一拍。


「……昨日の件」


 コウタが、顔を上げる。

 ハヤテも、視線を向ける。


「流したくない」


 一拍。


「俺、決めるのが早いのを

 いいことだと思ってた」


「期待に応えるのも、

 役目だと思ってた」


 視線が、少し揺れる。


「それで、置いてった、なら」


 一拍。


「俺のやり方が、間違ってたと思う」


「今は、どう直すか、

 まだ見えてない」


「でも、三人でやってるってこと、

 言葉に戻したい」


 沈黙が、少し長くなる。


 その空気を、ハヤテが先に動かす。


 スティックを持ち上げ、

 机の縁に軽く当てる。


 音は出ない。


「なあ」


 いつもの調子に近い声。

 でも、ふざけてはいない。


「これさ、誰が悪いかの話にすると

 多分、ズレる」


「外がどう見るかとか、期待が重いとかは、

 正直もう避けられない」


 肩をすくめる。


「売れたってことだからな」


 事実だけを置く。


「でも」


 少しだけ、声が落ちる。


「その中で、誰が決めるかは

 まだ俺たちでいいだろ」


 ヒナタを見る。

 逃がさない。


「速さが必要なときは、

 ヒナタが前に出ていい」


「それで助かった場面も、

 山ほどある」


 一拍。


「でも、戻ってくる場所が

 なくなるのは、違う」


 コウタが、わずかに息を吐く。


 言葉を探すように、

 一度だけ床を見た。


「決める前に、

 一回だけでいい」


 ハヤテは続ける。


「置こう。ここに」


 指で、床を指す。


「三人の真ん中に」


 ヒナタが、

 ゆっくり頷く。


「じゃあ」


 ハヤテは、少し空気を緩める。


「今日は音、出さなくていい」


 冗談みたいに言ってから、


「その代わり」


 一拍。


「次は、ちゃんと三人で決めよう」


 スティックをケースに戻す。


 その音が合図だったかのように、

 コウタがベースから手を離した。


 少し遅れて、

 ヒナタもギターケースへ視線を落とす。


 誰も音を出さない。


 でも、

 さっきまでそこにあったズレだけが、

 少し静かになっていた。


 ハヤテが、小さく息を吐く。


「……これでいい」

 

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