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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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戻れなくなる

 三人で席を立つ。

 沈黙が落ちる。


 エレベーターを待つ間、

 表示灯だけが静かに切り替わる。


 ハヤテが、腕時計を見る。

 癖のような動き。


 コウタは、

 床の線を一つ跨いで、戻った。


 ヒナタは、

 何も言わずに、扉の前に立っている。


 扉が開く。


 三人、同時に乗る。

 閉まる。


 下降の揺れ。

 短い沈黙。


 誰も、

 さっきの話題に触れない。


 触れなくても、

 そこにあるのが分かっているからだ。


 地上に着く。


 外は、いつも通りだった。

 人の声。

 車の音。


 ハヤテが言う。


「今日は、ここで解散でいい?」


「うん」


 ヒナタが答える。


 コウタも、頷く。


 それぞれ、

 違う方向に歩き出す。


 背中が離れても、

 沈黙だけは、そこに残っていた。


 ヒナタは、

 曲がり角の手前で足を止める。


 スマートフォンを取り出すが、

 画面は見ない。


 ポケットに戻す。


 今日は、

 誰にも連絡を入れなかった。


 信号を渡る。

 風が、少しだけ強い。


 小さく息を吐く。


 さっきの言葉が、

 頭の中で反復する。


 持ち帰る。


 逃げでも、拒否でもない。

 それでも、決めなかった。


 夜風が、頭の上を抜けていく。


 部屋に入ると、

 照明を点けないまま、靴を脱いだ。


 窓の外は、まだ明るい。

 街の音が、薄く入り込んでくる。


 ギターケースを壁に立てかける。

 いつもの位置。

 ずれはない。


 上着を脱いで、

 椅子に掛ける。


 テーブルの上に置かれたメモを見る。

 打ち合わせのときに、

 無意識に取っていた走り書き。


 ドラマ名。

 放送枠。

 〆切。


 名前の欄だけ、

 空いている。


 ヒナタは、

 ペンを取る。


 書かない。


 置く。


 ソファに腰を下ろすと、

 身体が少し沈む。


 スマートフォンが、

 静かに振動する。


 通知。

 確認の続き。


 今なら、

 「了解です」で終わる。


 いつもなら、

 迷わない。


 画面を伏せて、

 テーブルに置く。


 誰も、急かしてはいない。

 時間は、まだある。


 ヒナタは、

 天井を見上げた。


 音で合わせるなら、

 もう答えは出ている。


 でも、

 それを選ぶと、

 何かが戻れなくなる。


 深く息を吸って、

 ゆっくり吐く。


 カーテンの隙間から、

 遠くの信号が、赤から青に変わるのが見える。


 ヒナタは、

 テーブルの上のスマートフォンを手に取った。


 通知は、

 さっきと同じ場所に残っている。


 画面を開く。


 返事を書きかけて、

 消す。


 もう一度、

 短い文を打つ。


 それも、消す。


 少し考えてから、

 連絡先を切り替えた。


 コウタ。


 名前だけが表示される。


 送信画面を開いたまま、

 しばらく動かない。


 言葉は、

 まだ整っていない。


 ヒナタは、

 深く息を吸ってから、

 短い一文を打った。


 送信。


 画面を伏せる。


 それ以上は、

 何もしなかった。


 ギターケースには、

 触れなかった。


 照明も、

 最後まで点けなかった。


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