席に残る沈黙
打ち合わせは、想定より短かった。
資料が、テーブルに並ぶ。
タイアップ企画。
ドラマ名。
放送枠。
スケジュール。
担当者が言う。
「今回、主題歌の名義なんですが」
一拍。
「事前にお話していた通り、
ヒナタさん個人で、お願いできればと」
言い切りだった。
理由は続く。
「作品の顔として、
分かりやすく打ち出したくて」
ヒナタは、資料から目を上げる。
隣で、
ハヤテが黙って聞いている。
コウタは、
ページの端を押さえたまま、動かない。
「もちろん」
担当者は続ける。
「制作自体は、
これまで通り三人でお願いしたいです」
曲作りは、Snow flakesとして。
矛盾はない。
条件としては、悪くない。
「クレジットも、
Snow flakesとして入ります」
配慮も、ある。
「ただ、表に出るのは」
一拍。
「ヒナタさん、という形で」
沈黙。
誰も、遮らない。
ヒナタは、
一度だけ、喉を鳴らした。
これまでなら、
「分かりました」で終わっていた。
でも、
今日は、言葉が続かない。
ハヤテも、
すぐに調整に入れない。
コウタは、
何も言わない。
言えないのではない。
言う場所が、まだない。
担当者が、少しだけ間を埋める。
「……ご検討いただけますか」
ヒナタは、
頷きかけて、一度だけ視線を落とす。
条件は悪くない。
むしろ、
受けない理由の方が少ない。
今までなら、
ここで終わっていた。
でも。
頭の奥で、
少しズレた音が残る。
音で合わせる話じゃない。
黙って進めば、
たぶん、うまくいく。
でも、
それで決まってしまうことが、
はっきり見えていた。
三人で話してから、
答えなければならない。
「……少し、持ち帰ってもいいですか」
コウタが、
わずかに視線を動かす。
ハヤテも、
何も言わないままヒナタを見た。




