それで、決まっていく
収録前の確認は、短かった。
立ち位置。
尺。
入りと終わり。
問題はない。
スタッフが言う。
「じゃ、これで行きます」
一拍。
コウタが、口を開いた。
「……」
声にならない。
ヒナタが視線を向ける。
ハヤテも、気づいて待つ。
コウタは一度、息を吸った。
「……いえ」
それだけだった。
「大丈夫です」
誰も追わない。
誰も責めない。
「じゃ、本番お願いします」
流れは、進む。
結果は、悪くなかった。
拍手も、数字も、予定も。
終わったあと、
コウタは何も言わなかった。
次の段取りが、始まっていく。
昼過ぎ。
スタジオの外は、思ったより明るかった。
通りを挟んだ向かいの店が、入れ替わっている。
ハヤテがそれに気づいて言う。
「ここ、前は何だったっけ」
「ラーメン」
コウタが即答する。
「そうだ」
それで終わる。
ヒナタは、ケースを肩に掛け直す。
金具が、軽く鳴る。
予定は、詰まりすぎていない。
次のリハまで、少し余裕がある。
「じゃ、軽く飯行く?」
ハヤテが言う。
「いいね」
ヒナタが返す。
コウタも、頷く。
店は混んでいなかった。
三人並んで座る。
注文は、すぐ決まる。
水が来る。
会話は、途切れない。
天気。
移動。
次の入り時間。
困る話はない。
笑うところもある。
食べ終わる頃、
ヒナタが時計を見る。
「そろそろ」
「うん」
外に出ると、
風が少しだけ強い。
「じゃ、また後で」
それぞれ、違う方向へ。
何も、問題はなかった。
午後。
スタジオの控室で、
ヒナタのスマートフォンが鳴った。
画面を見る。
短い確認。
「入り、少し早めでも大丈夫ですか」
「大丈夫です」
送信は、早い。
ハヤテが横で聞いている。
「何時?」
「三十分前」
「了解。じゃ、俺、先に段取り組み替える」
自然な流れだった。
コウタは、
アンプのつまみを一つ戻す。
音を出す前に、位置を確かめる。
誰も、何も言わない。
別の日。
リハの終わり際。
「次、同じ形で行けます?」
スタッフが言う。
ヒナタが頷く。
「はい」
ハヤテも続ける。
「時間、問題ないです」
コウタは、
譜面を一枚、裏返す。
確認は終わる。
また別の日。
集合時間の連絡が来る。
ヒナタ宛て。
返信。
「了解です」
そのまま、
ハヤテに転送。
「ちょっと早まった」
「把握」
コウタは、
ケースを肩に掛け直す。
重さは、変わらない。
どの日も、
問題はなかった。
遅れも、ミスもない。
話し合う必要もない。
選択は、
毎回、同じ順で行われる。
決める。
整える。
合わせる。
それで、決まっていく。




