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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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171/222

一拍

 移動中の車内は、

 思ったより静かだった。


 エンジン音と、タイヤが路面を噛む音だけが一定に続く。

 ラジオはついていない。


 ハヤテは窓の外を見ている。

 信号で止まるたび、視線だけが前後に動いた。


 コウタは、膝の上に置いたケースに手を乗せたまま、動かない。

 指先が、ほんの少しだけ力を入れて、また緩む。


 ヒナタは、助手席でシートにもたれていた。


 誰かが話し出せば、会話にはなる。

 それは分かっていた。


 それでも、

 誰も、口を開かない。


 スタジオに着き、

 いつも通りの手順で機材を運び入れていく。


 挨拶。

 準備。

 音出し。


 クリックが鳴る。

 ドラムが入る。

 ベースが続く。

 ギターが重なる。


 音は、揃っていた。


 一曲、終わる。

 誰も顔を上げない。


 もう一曲。

 止める理由はない。


 それでも、

 誰も「よかった」とは言わなかった。


 休憩に入る前、

 スタジオのドアがノックされた。


 エンジニアが応対に出る。

 短いやり取りのあと、戻ってくる。


「このあと、取材が一件だけ入ります」


 誰も驚かない。


「三人で、ですよね」


「はい。簡単なコメントだけ」


 立ち位置の確認。


「真ん中、ヒナタさんで」


 自然な配置だった。


 カメラが回る。


「最近の制作はいかがですか?」


「順調です」


 嘘ではない。


「三人で、いいバランスで進めています」


 それも、間違ってはいない。


 ハヤテが頷き、

 コウタも、少し遅れて頷く。


 取材は短く終わった。


 機材を片づけ始めた頃、

 ヒナタのスマートフォンが震える。


 一度。

 少しして、もう一度。


 エンジニアが言う。


「来週の件、時間が前倒しになりそうです。

 ヒナタさんの入り、早めで」


「分かりました」


 それだけのやり取り。


 コウタは、

 ケースの留め具を一つ閉めてから、

 閉め忘れに気づき、やり直す。


 誰も、何も言わない。


 帰り支度は、いつも通りだった。


 翌日。


 スタジオは、昨日と変わらない音をしていた。


 ヒナタが構える。

 ハヤテが椅子を引く。

 コウタがケーブルを差し直す。


 クリック。


 音は揃う。


 一曲。

 二曲。


 止めない。

 止める理由がない。


 曲が終わる。


 間。


「次、行く?」


「うん」


 クリック。


 同じ音。


 それなのに、

 ヒナタは一拍、迷った。


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