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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
スノーフレークス編

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整いすぎた音


 帰り道。


 夜風が、ほんの少しだけ暖かかった。


 コウタは今日の音を、思い出す。


 悪くなかった。

 むしろ、よかった。


 それなのに、

 違和感だけが残る。


 少しズレて、

 すぐ揃った音。


 何がズレているのか、

 まだ言葉にならない。


 考えなくてもいいはずなのに、

 気づけば同じところを繰り返していた。


 家の鍵を回す音が

 やけに耳に響いた。


 部屋に入ると、

 空気が少しだけこもっていた。


 電気をつける。


 机の上には、

 会社から持ち帰った資料がそのまま置かれていた。


 明日までの確認。


 いつもなら、

 先に終わらせる。


 でも、

 手をつける気にはならない。


 机。

 ベース。

 メモ帳。


 いつもと同じ部屋。


 コウタはケースからベースを出す。


 今日のフレーズを、

 指でなぞる。


 同じように弾いてみる。


 鳴る。


 でも、違う。


 もう一度弾く。


 やっぱり違う。


 アンプのつまみを、

 ほんの少しだけ動かした。


 低音が、

 少しだけ前に出る。


 もう一度弾く。


 ……違う。


 音程じゃない。


 リズムでもない。


 たぶん、

 もっと曖昧なものだ。


 コウタは手を止めた。

 

「じゃあ、これでいこう」


 ヒナタの声が、頭に残る。

 

 判断が、早い。


 ――あのとき、整った。


 でも。


 それは、

 いつもの整い方じゃなかった。


 今までは、

 少しズレた音を

 みんなで置き直していた。


 でも今日は。


 最初から、

 答えが置かれていた気がした。


 自分は、何だろう。


 音を作る人か。

 整える人か。


 どちらも、必要だったはずなのに。


 ヒナタの音は、外からも求められている。


 判断は早い。

 迷わない。


 それは、間違っていない。


 でも。


 今の音は、

 スノーフレークスだと

 言えるのか。


 不意に、スマートフォンが震えた。


 画面に、

 あかりの名前が表示される。


 考えていたことが、

 そこで少しだけ途切れた。


 思わず、表情が緩んでしまったことに気づき、

 コウタは、少しだけ息を吐いた。

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