幕間|手応え
ホテルの裏手に、
小さな温泉があった。
大浴場、というほどでもない。
でも、ちゃんと湯気が立っている。
「……生き返る」
ハヤテが、
肩まで沈みながら言う。
「声でかい」
ヒナタが、
向かいで静かに湯をすくう。
「いや、今日のは効いたって。
移動とライブのセットは」
コウタが言う。
壁にもたれて、目を閉じる。
湯の音。
天井の換気扇。
遠くで、誰かの笑い声。
「温泉あるとこ、当たりだよな」
ハヤテ。
「飯もうまい率、高い」
「だいたい一緒」
ヒナタ。
「ツアー中、
これ基準にしたい」
「温泉指数?」
「大事だろ」
どうでもいい話。
でも、誰も急がない。
「……今日さ」
コウタが、
ぽつりと言う。
二人が、
同時に見る。
「音、やりやすかった」
説明はしない。
「うん」
ヒナタが頷く。
「跳ねてた」
ハヤテが言う。
「丸かったな」
「……それ」
コウタが、
小さく笑う。
「さっきから言われる」
「いい意味でな」
「分かってる」
湯が、
静かに揺れる。
「ツアー、長いぞ」
ハヤテ。
「覚悟しとけ」
「してる」
ヒナタが、
短く言う。
「だから、
今のままで行く」
いつもの言い方。
でも、今は少し違う。
コウタは、
湯から上がる。
「のぼせる前に出る」
「早くない?」
「これ以上いると、
寝そう」
脱衣所に向かう背中を、
二人が見送る。
廊下に出ると、
空気がひんやりしている。
コウタは、
自販機の前で立ち止まる。
ペットボトルの水を買って、
一口。
重くて、
丸い音。
――ジャンプ。
思い出す。
でも、引っ張られない。
「悪くないな」
小さく、
独り言。
遠くで、
ハヤテの笑い声が聞こえた。
ちゃんと、
三人で進んでいる。




