156/220
音を残したまま
ライブが終わって、
機材を積み終えたあと。
ロビーの隅で、
簡単な打ち合わせ。
「飯、どうする?」
ハヤテが言う。
「駅前でいいんじゃない」
ヒナタが答える。
「無難」
「地方の駅前、
だいたい同じ顔してるよな」
コウタが言う。
「分かる」
ハヤテが笑う。
「安心枠」
「で、部屋だけど」
ハヤテが続ける。
「今回は、
ツイン1、シングル1」
鍵を見て、
コウタが一瞬だけ止まる。
「……俺、シングルでいい?」
即答。
「うん」
理由は言わない。
「じゃあ俺とヒナタでツインか」
「いびき、静かにしろよ」
「いびきなんか、かいたことない」
「自覚ないやつだ」
軽く、
笑いが落ちる。
鍵が配られる。
「明日、出発は九時」
「了解」
ロビーを出ると、
夜風が少し冷たい。
コウタは、
ポケットに手を入れて歩く。
重くて、
丸い音。
――ジャンプ。
今日は、
ひとりがいい。
目を閉じると、
音がまだ、
身体の奥に残っている。
それを、
減らしたくなかった。
考えすぎず、
音を残したまま。
飯を食べて、
シャワーを浴びて、
眠る。
ツアーは、
静かに続いていく。




