80. 花束
ずっと笑っていた。
なんか四六時中、ほほ笑んでいた。
そんな気がする。
彼女がいると、琉生はずっと笑っている。
文化祭の初日、午後からだけど、琉生は思いがけず、織田 空と一緒に行動することができた。
それは、オリエンテーリングのときのメンバーで一緒に文化祭を見て回ろうと声をかけてくれた佐藤のおかげだ。
内心むちゃくちゃ感謝している。
『人間将棋』に参加したり、そのあと、体育館で2つほどの演目を並んで座って観たり。そのあとは、文芸部の展示教室には、2人で行った。(といっても、途中までは一緒に舞台を観ていたメンツが一緒で、2人で歩いたのは、正味20メートルほどだったが)
文芸部では、初日の感想と反省を話し合いながら、お団子を食べた。新作のネギ味噌団子や幻の白味噌だれ団子まで登場し、先輩たちは幸せそうな琉生に串からはずした団子を1コずつくれた。すぐそばにいた空と目が合い嬉しくなってほほ笑んだのを、団子に喜んで笑ったと先輩たちは思ったらしい。
どちらにしても、『笑う門には福来たる』だ。しみじみ思う。
ただ、のんきに笑ってばかりもいられない。
刻一刻と、終業式の日が近づく。
それは、彼女とクラスメートでいられる最後の日を意味する。
告白するぞ。と決めてはいるが、いつどうやって、という肝心なところは、全く未定だ。
ここへ来て、迷ってもいる。
別れ際に、急に言われても困るよな。
告白したとて、それから全く会えなくなってしまうのに。
彼女も戸惑うだろう。
そうやって悶々と過ごしているうちに、気がついたら、明日は終業式というところまで来ていた。
明日は、幸い仕事は入っていない。朝イチから、学校に行けるラッキーな日だ。
どうする?
念のため手紙を書く?
いや、やはり直接、その顔を見ながら伝えたい。
でも、もしも、会えなかったときのために、手紙に書いておけば。
さんざん迷って、琉生は、やはり手紙を書くことにする。
裏と表で色や柄の違う、デザインペーパーを使う。
この間、バラエティー番組の町探検の取材先の店で、店主のおばあちゃんがいろんな折り方を教えてくれた。
その店では、きれいな和紙や、デザインペーパーをたくさん扱っており、店内には、その折り紙や工作作品がいろいろ飾られていた。琉生は、その中の気に入った色柄の紙を使って、折り紙の花や花束を折るやり方を教えてもらったのだ。琉生や想太があまりに熱心だったので、ほんとは、1つだけ教えてもらうはずが、4つほどやり方を教えてもらうことになった。
一緒に行った想太も、1枚の紙が見事な花になったり星や花束になったりすることに感動して、「オレ、この紙買って帰って家でも練習する」
そう言って、デザインペーパーをいろいろ買い込んだ。想太はもともと手先が器用で、羊毛フェルト作品も数多く作っている。
「オレ、新しい趣味、増えたかもしれへん」とニコニコつぶやくので、店主や店のスタッフも嬉しそうな笑顔だ。
もちろん、琉生も何種類もデザインペーパーを購入した。琉生の場合は、目的はハッキリしている。
彼女への手紙を書いて、それをきれいに折ってプレゼントしたい。
片面は優しい空色、もう一方の面はミモザのような黄色い小さな花が一面に咲いている模様だ。
上手く折れたら、花束をくるむ持ち手の部分が空色、花の部分が黄色いたくさんの小花という、可愛い花束のように見える、はずだ。
花言葉まで考える余裕はなかった。ただ、見たときに、明るい気持ちになるような色にしようと思った。
だから黄色を選んだ。
終業式の前の晩、琉生は、選んだ紙に、ブルーブラックのインクで、空への、メッセージを書いた。
『好きです。
いつかきっと、会いに行きます』
片方の面に宛名も自分の名前も書かず、ただその2行だけを書いた。
そして、それを小さな花束のような形に折る。
折り上がった小さな花束を、そっと琉生は制服のポケットに忍ばせる。
明日、朝イチ、学校で彼女に渡そう。
もちろん、直接伝えられるなら、それが一番だけど。
でも、どちらにしても、この花束を渡そう。




