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結界が決壊

おほん、気を取り直して、依頼を続けるとしよう。

リーコは神樹の精霊だったんだから、当然魔物の情報を持っていると考えて間違い無いよな。

遭遇する前に情報を仕入れられるのは有利だ。

これで対策を練ることが出来る。


「ますたあ、私にもお願いします〜。」


「コーコ、見苦しいでござる、それどころでは無いでござるよ。」


「フジマサ様!」


何だ!ミレイちゃんが叫ぶなんて珍し・・・いってほどでもないか、でも切迫した感じの声だ。

見るとそこには巨大な熊がいた。

真っ黒な毛並みに、肩甲骨のあたりの毛が逆立ちそこだけ淡く輝く様に薄い青色をしていて、見ようによってはガスコンロの火にも見える。

凶悪な犬歯に憎しみに燃える様な紅い目。

更に四本の腕に長い爪・・・久しぶりに見たな、夜明熊(ドーンベア)だ。

島で最初に洞穴泊まった時に、朝起きたら表で所在無さげにウロウロしていた奴だ。

夜明けに遭遇したからそう名付けた。


でもどうしていきなり?

今までどこにいたんだろうか、結界はどうした?

あっ!そうか。


「拙者の結界が解けたのでござる!もう緑森霊ではござらんので。」


やっぱりそういう事か、しまった迂闊だったな。

考えが至らなかった、失策だ、神樹に着くまで眷属契約を引き延ばすべきだった。

悔やまれるのは日本人の、と言うか俺の性分だ。

しかし、あそこで断れないのが俺と云う者なんだから仕方ない。

いや待って、今拙者って言った?


「ますたあ!魔物です!」


「ま、まさかそんな!?アレはフォレストサベージです!」


おお、アレが噂のフォレストサベージか、確か俺の手甲の毛皮がそうだったっけ?

まあ、こんな程度ならミレイちゃんを危険に晒すことは無いだろう。

こいつ見た目は派手で、最初は俺もびびったけど、数回戦ってるうちに慣れてきたからな。


「ますたあ!ここは拙者に・・・。」


まあ、そう言うなよリーコ、俺もちょっとは役に立たせてくれよ。

皆んなが動く前に、ドーンベア改めフォレストサベージに接近。

奴の手が振り上げられた瞬間には、鉄の剣で首を切り落とした。


決して弱い魔物では無いけど、足を止めての戦いでは、初動が少し鈍い。

遭遇戦の場合は、先手を取ればまず手こずらない。

しかし、さすがに金属製、良く切れる。

今まで使ってた木の槍や石斧とはわけが違うな、村長さんも良い物をくれる。

それに身体も良く動いたな、なんか軽く感じた。

島とここでは重力でも違うのか?


「このくらいは、コーコやリーコの手を借りるまでも無いよ。」


な?ちょっとはやるだろ?


「フ、フジマサ様・・・あの、その魔物は・・・。」


お、何だミレイちゃん、ちょっとは見直してくれたかな?

やっぱり女子の前ではカッコつけるのが男子だよな。


「ま、ますたあ、凄いでござるな・・・。」


どうだ、マスターっぽいだろ。


「さすがです!ますたあ!」


いやあ、はっはっは、もっと褒めて。


「それ程大した魔物じゃなかったからな、いつまでもおんぶに抱っこじゃカッコつかないもんな。」


「は、はあ・・・あの、フジマサ様はあの魔物の事はご存知ですか?」


「勿論知ってるよ。」


ドーンベアだろ、いやフォレストサベージか、島じゃあそんなに珍しくもないし、難易度も高くは無かったな。


「フォレストサベージなるあの魔物は、我ら緑森霊も手こずるくらいの魔物でござる。それを一刀の下とは、その生命の輝きだけで無く相応しいお力をもお持ちになる。

拙者ますたあの下僕になれて光栄でござる。」


え?


「そうです!あのフォレストサベージは、以前討伐に向かった百名からなる戦士団が、その半数以上を犠牲にして、やっと討伐出来たという程の魔獣です!」


「・・・そこまでは知らなかったな。」


そんなに凄いやつかな?


「ますたあなら当然じゃないですか!それより私にもギュってしてくださいよー!」


コーコはまだ言ってるのか。

しょうがない、眷属に不公平感を与えるのは良くないだろう。

いつも世話になってるしな、請われてやるのは照れ臭いが、妹だと思えば・・・もっと照れ臭いな。

ま、まあ、日頃の感謝の表現という事で。


「コーコにはいつも助かってるよ。」


抱き締めてみた。

ぎゃー!恥ずかしいな!

何だか物凄い勘違い野郎になった気分だ。


「○*☆!?」


「ますたあ、いつまでイチャイチャしてるでござるか。」


別にそんなに長いことしてないだろ。

でも確かに、こんな事やってる場合じゃないな。


「ああ、すまない、そうだったな、結界が解かれたという事は、この先また何か出てくるかもしれないって事だよな。」


「うわああああ!!」


後方から凄い叫び声が聞こえてきた。

やっぱりいたのか、なんだこの気配察知スキルは。

いや、一回当たったくらいでは信用できない。

俺のスキルはともかく、隊長さんの手勢が襲われているのであれば助けないとな。


「コーコ!リーコ!助けてやってくれ!」


「はい!ますたあ!」


「畏まったでござる!ますたあ!」


・・・どうでもいいけど、何でふたりともマスターがひらがなに聞こえるんだろう。

なんか決まりでもあるのか?

まあ、好きにしたら良い。

その間は俺はミレイちゃんを守るとしよう。


「ミレイ、大丈夫か、怪我はないよな。」


ない事は知ってるけど、確認は大事だ。


「は、はい、あの、お陰さまで。」


よし、良かった。

想定外の出来事があろうが、連れて来ると俺が決めた以上は、ミレイちゃんの安全保障に責任を持つのは俺だ!

自己責任だと逃げるつもりはない。


「ミレイはいつでも回復を掛けられるようにしておいてくれ!」


コーコ達の向かった先を見ながら頼んだ。

さっきのフォレサベ程度にもリーコは手こずると言った。

島の魔物は女神(アルセティオ)が用意したものだから、難易度調整とかがあったのかもしれない。

さっきのはたまたま上手くいっただけの事で、俺の想像を超える魔物がいない可能性は否定できない。

頼みは回復出来るミレイちゃんだ、頼りにならない兄ちゃんでごめんな。


「ま、任せてください!」


後ろに気配を感じ、振り向きざまに剣を振るう。

真っ二つになったツーヘッドロビンが目に入った。

こいつもいるのか?

その後、約十分後くらいだったろうか、やっと魔物の猛攻が終わった。


結界が解かれた直後にこれか、やっぱり俺が浅はかだった。

程なくコーコ達が帰ってきた。

コーコの綺麗な金髪は朱に染まり、リーコの端整な顔には疲労があった。

二人とも良くやってくれた様だ、俺の眷属になったばっかりに済まない事をした。


今気付いたけど、この森は島の森に似ている気がする。

結界と参道があった所為で気付くのが遅れたけど、雰囲気が似ている。

つまり、出てくる魔物も相関関係があるのかもしれない。

ならば、方法は幾つか考えられるな。


「ありがとう、コーコ、リーコ。後ろの人達は無事だったのか。」


「いえ、ますたあ・・・すいません。」


「拙者の力不足にございます、一人が犠牲になり申した。」


・・・そうか、犠牲者がでたか。

たとえ覚悟を決めた戦士の死であっても、悼むくらいはいいだろう。

女神(アルセティオ)なんとかしとけよ。

コーコ達と一緒に三人の男女が現れた。


「あんた・・・何者だ?」


出し抜けにストレートな質問を受けた。

そんなの何て答えればいいんだよ。

勇者とかそんな何かです、で納得してくれるのか?

無理だろ。

だから答えられない。


「それは俺がしたい質問です。」


俺の推測が当たっているかどうかは、彼らの素性次第だ。


「貴方方は、たいちょ、レステルさんの手勢ですか?」


・・・・

沈黙が続く。


「お主ら!ますたあが聞いておる!」


「素直に答えるのが賢いですよ!?」


二人に恫喝されて、彼等は口を開いた。


「依頼人の名前を言うわけねえだろ、このタコ!」


まあ、ほぼそれが答えですよね。

隊長さんの手勢でないのであれば、そうだと言えば撹乱になる。

そう答えた場合のデメリットは殆どない。

こちらが信じようが信じなかろうが、疑心暗鬼を起こさせるには十分だ。

つまりそうだと答える他はないのだ。


それが一転、隊長さんの手勢であれば話は変わる。

こちらがそう聞いた時点で、ブラフであろうが、確信してようが関係ない。

決定的事実さえ突き付けなければ、どんな事態でも言い逃れの手段などどうとでもなる。

そうだと答えるのも、違うと答えるのも選べるのだ。

つまり、こちらが聞いている時点で主導権は彼等にあるのだ。

こちらに出来るのは、あくまで情報の取捨選択。

その情報をそもそも与えないというのが彼等の出来る選択だ、まあ、それも当然だろう。

何も喋らなければ、こちらは推測しかできない。


だから彼等は隊長さんの手勢では無い。

もちろん確定している訳では無いが、今の考察通り、隊長さんの手勢であれば、誤魔化す必要性はない、例え何を企んでいようとも、そもそもこちらは、その隊長さんの依頼で動いているんだから、誤魔化すなら、身分を明かして信用させてからするべきなのだ。

だけど、別勢力の場合は、そうだと答える以外の選択肢は無い。

彼等にしてみれば、自分のバックに疑いの目を向けさせる訳にはいかないのだ。

にも拘わらず、彼等は沈黙で答えず、言えないと言った。

大失態だろう。

こちらを舐めているのかもしれない。


彼等は、口頭で、言えないと言った時点で、自白したのと変わらない事を自覚していない。

それすら欺瞞であるのなら、それほどのレベルの密偵ならば、声も上げずに魔物に殺される道を選んだ筈である。

それができない程度の密偵に、そこまでの知恵はない確率は高い。


あくまで確率だ。

決定は下せないので、話を合わせつつ、そういうつもりで接しよう。


「警戒しているのも無理は無いですけど、私としては、レステル様がこちらの支援に誰かを付けるくらいの事はしているだろうと、承知してますよ。」


「そこまでは分かってんだったら、隠すこたねえか、そうだよ、お前らが依頼を遂行できる様にバックアップをレステルの奴に依頼されたんだよ。」


ここでバラすならさっき隠さないよ。

はい、教団側確定です。


今日で盆休みも終わりなので、また明日からは投稿ペースが落ちますが、のんびりお付き合い下さい。

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