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世界末日 Locusta — Dominion of Aria  作者: カネキ


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Episode 2 Providence Accord【プロヴィデンス・アコード】

支配は、静かに始まるものじゃない。

気づいたときには、もう逃げ場がない。

力を持つ者だけが生き残り、

持たない者は踏み潰される。

中野特務技研なかのとくむぎけん


 戦前の陸軍中野学校の流れを汲む。

 戦後の混乱期に、一部の将校と研究者が研究継続のために立ち上げた結社。


 表向きは医療研究を名乗り、

 内部では生体兵器の開発を続けていた。


 技術による支配を目的とし、

 世界征服を視野に入れた秘密結社だった。


 しかし、その野望も今では、ロクスタの暴走により、首領と幹部は死に施設は崩落し、瓦礫だけを残し潰える事となった。


 表の世界は何も知らない。

 報道は一切流れず、人々はいつも通りの生活を続けている。

 ただ、迷宮入りしていた事件に関与していた組織がいなくなり“不審死”“失踪”が静かに減っただけだった。


 ロクスタが投げた石は、世界に点在する秘密結社へと波紋を広げていく。

 そして、そのロクスタと行動を共にするアリアもその波紋の一つとして人生が変わっていった。




【Providence Accordプロヴィデンス・アコード


 世界平和を掲げる慈善団体として知られ、国際医療支援、教育援助、災害救助を行う組織。


 多くの著名人が所属し、アメリカの良心と信じられている。


 しかしその裏では、支援活動を通じて各国政府の内部へ静かに入り込んでいた。


 医療支援の名で病院へ。

 教育援助の名で学校へ。

 慈善活動の名で議会へ。


 あらゆる団体、組織、集団へ、良き隣人として彼らは存在していた。


 そして……


 中野特務技研の崩壊から四十八時間後、世界中で同時に蜂起が起こった。


 議会が掌握され、軍の指揮系統が奪われ、国家の垣根が取り払われていく。

 Providence Accordの名のもとに、平和と自由を掲げ、統一されていく世界。


 当然、その支配に抵抗した国家もあった。

 だが彼らは、そのころにはいたるところにいた。

 抵抗した軍の兵士が突然、異形の戦士になり仲間を襲いだす。

 Providence Accord の改造人間。

 圧倒的な軍事力と人間を凌駕する力を持つ改造人間たち。

 抵抗は、最初から意味を持たなかったのだ。




 そして、世界は一週間を待たず征服された。



世界征服後、3か月、旧アメリカ合衆国、某所――


 街の風景は変わらない。

 世界国家 Providence Accord 成立前と何も変わらない。


「国が無くなったって言われたときは、焦ったけど……かわんねぇな」


「犯罪が少し減った事と、選挙が無くなったくらいだよな」


「税金が安くなって良かったって言う奴もいるけど、訳の分からない連中が上にいて、大丈夫なもんかね」


 世界で似たような会話がなされていたが、秩序は保たれている。

 政治体系がProvidence Accordの一極支配になった以外は、法律なども旧国のものと変わらないため、混乱はなかった。

 統一憲法や法律に順次変更される事はテレビやネットでアナウンスされているが、何をするかが告知されているためか目立った反乱は無い。


 表向きは。


スラム街――


「待て!

 止まらんか!」


「ケイト、早く!」


「あっ!」


 警官に追われ路地を逃げていた男女の目の前にあるゲートが閉ざされていた。


「どうした?

 追いかけっこは終わりか?ん?」


「俺達が何したっていうんだよ!」


「お前たちは、レジスタンスの仲間という疑いがある。

 それで十分だろう?」


「知らないわよ!

 ただ、買い物しようとしてただけじゃない」


「許可証は?

 一緒に探してやろうかあ?」


 警官がケイトの腕をとる。


「や、やめてよ!」


「この野郎!

 ケイトを放せ!」


「うるせぇよ!」


ドガッ!


 ケイトを守ろうと警官につかみかかった男が殴られる。


「ケン!」


 警官に手を掴まれているケイトが必死に手を伸ばす。


「おい。

 なんで、てめぇ改造手術を拒んでるんだ?

 国民の義務だろうが。

 こっちが知らねぇって思ってんのか?」


 倒れているケンに警官が聞いた。


「あんな化け物みたいにされてたまるか!」


 ケンが叫ぶ。

 警官は、ニヤニヤと笑っている。


「じゃあ、公務執行妨害で、死刑だ。

 女は、俺がちゃんと面倒見て楽しんでやるから安心しろ」


ビキビキビキ


 警官の顔が手が徐々に昆虫のように変形していく。


「うわああああ!」

「きゃあああああ!」


「二人とも叫ぶなよ、傷つくだろ」


 警官がケンの頭を持って、持ち上げ宙づりにする。

 ケンが蹴ったり殴ったり、ケイトも必死に警官を殴るが、びくともしない。


「このまま頭を握りつぶすから、良く見とけよ」


「やめて!ケンが死んじゃう!」


「ぎゃああああ!」


ぎりぎりぎり……


 警官の手がケンの頭を締め付ける。



「その手を放せ!」


 警官が声のした方をみると、黒人の青年が立っていた。


「てめぇ……俺に言ってんのか?」


「貴様以外に誰がいる!

 苦しんで死にたくなければ、その手を放せ!」


 警官がケンを投げ捨てる。


「この俺に、ふざけたことを言う奴だな。

 お前を先に殺してやるよ!」


 警官が前かがみになる。


「モーフィン!」


 黒人青年が叫ぶと、体の変化が起こった。

 ビキビキと音を立てながら人間のプロポーションの甲虫の姿に変わっていく。


 飛びかかろうとしていた警官は、相手も変身した事に驚き、躊躇した。

 改造手術はほぼ全ての国民が受けるが、変身できる改造を受けれるのは基準に達した、所謂エリート階級の者に限られているからだ。


「な、なんだよ。

 あんたもか。

 なら、俺の邪魔をするなよ、兄弟。

 お前にも、この女を回してやるからよ、へへへ」


 甲虫の男が警官に近づき、ゆっくりと拳を上げ……


パンッ!


 警官の顔を殴った甲虫の男。

 殴られた警官は、吹き飛んだ頭が壁に当たって肉片が飛び散った。

 首から血が噴き出している。


 返り血を浴びる甲虫の男が二人を見るが、すっかりおびえている。

 驚かせないよう、ゆっくりと甲虫の男は口を開いた。



「大丈夫か?

 安心しろ、俺は、レジスタンスの者だ」





アメリカ某所――


 情報統制のため、全土が平和と思わされているが、レジスタンスとの抗争が続く地区があり、レジスタンスによるProvidence Accordの施設へのテロが頻発していた。

 微々たる抵抗。

 そんな、Providence Accord の改造人間などの戦力に比べれば圧倒的に弱いレジスタンスだったが、ここ最近、各地で反転攻勢を見せていた。


 その原因は、旧中野特務技研の技術者の協力もあり、自前の改造手術の技術を確立したことにあった。

 投入されるレジスタンス改造人間は、少ない数ながらも戦況を各地で好転させていく。



【アリア・ハーシェル】


 アリアは Providence Accord の下位戦闘員として登録されていた。

 身体能力が少し強化されただけの下位改造人間。


 だが――

 アリアには他の戦闘員にはない“切り札”があった。


 ロクスタ。


 中野特務技研の最終兵器。

 アリアの命令だけを聞く怪物。


 アリアはロクスタの存在を組織に隠し、単独任務として報告しながら、実際はロクスタと二人で任務をこなし成果を上げていく。


「アリア、次の任務だが、また単独で行ってくれ」


 結果を残し続けるアリアを良く思わない者達がアリアを始末しようと危険な仕事を次々と与えたが……


 その結果――

 アリアは異常な速度で出世していった。


 戦闘員 → 小隊長 → 特務隊長 → 準幹部候補。


 当然、快く思わない者は相対的に増えていく。


「目立ちすぎだ」


「これ以上、のさばらせていては秩序が」


「我々の地位も危うい」


「今の内に、危険分子は排除せねば」


 アリアは知らずの内に多くの恨みと嫉妬を募らせていく。

 そして、次の任務が言い渡されるだった。




【旧アメリカ某所・レジスタンス拠点】


 アリアはロクスタと共に潜入していた。

 報告上はいつものように「アリア単独潜入」

 実際には、ロクスタと共同で任務にあたる。


(幹部も現実的になってきた。

 あと少しの手柄があれば……

 幹部になれば、ロクスタを……)


「……アリア。

 生体反応が……」


「流石、ロクスタね。

 レジスタンスがあんなところに隠れてたのね。

 主だった連中は、潰したから、大したことない連中でしょ?」


 アリアはレジスタンスの潜伏拠点を発見し、単独潜入として本部へ報告した。


 内部に潜入するロクスタとアリア。

 敵を排除しつつ奥へ奥へと進む。

 あまりの手ごたえの無さに緊張感が薄れていった、


 その時――


「モーフィン!」


 アリアとロクスタの目の前に懸賞金が付けられている幹部クラスの改造人間がいた。


「Providence の犬が……!」


 敵が跳びかかる。

 アリアは応戦するが、力の差は歴然だった。


 壁に叩きつけられ、呼吸が乱れる。


「終わりだ。

 お前みたいな半端な改造じゃ、俺には勝てない」


 敵の爪がアリアの喉元へ迫る。


(ロクスタ……来て)


 声に出さずとも、ロクスタはアリアの危機を“脅威”として認識した。


 敵の爪が皮膚をかすめた瞬間――

 敵の動きが止まった。


 ロクスタが歩いてきた。


「危ないですから、離れてください!」


 レジスタンス戦士が近所のコンビニに行くような姿のロクスタを一般人だと誤認した。

 Providence Accordの戦闘員との戦闘から守る為に手を伸ばしたのだが、ロクスタはその手を払いのける。


ドン!


 次の瞬間、敵の胸が陥没して絶命した。


 ロクスタはアリアを見る。

 無表情。

 ただ、視界に“アリア”がいると認識しただけ。


「……助けてくれたのね」


「脅威の排除。

 命令に従っただけだ」


 アリアはよろめきながら立ち上がる。


「余裕とはね……

 今の、幹部クラスよ。

 いつものように私が倒したことにするからね」


「好きにしたらいい」


「おかげで、幹部昇進までもう少しだったから、今回の結果でいけるかも」


 そう言うと、歩き出したアリアの背中をロクスタが追った。


(これで、また一つ……出世できる)



【Providence Accord 本部】


 アリアの任務成功は、幹部たちの間で話題になっていた。


「またアリアか……」

「ロクスタを使っているだけだ」

「だが結果は出している」

「出世しすぎだろう」

「危険だ。あの怪物を従えているんだぞ」


 アリアは静かに息を吐いた。


(敵が増えるのは当然。

 でも、私は止まらない。

 幹部になりさえすれば、ロクスタを側近として堂々と連れて歩ける)


 ロクスタはアリアの背後で静かに立っている。


 アリアはロクスタを見た。

 ロクスタは無表情でこちらを見ている。


(あなたがいれば、私は中枢へ行ける)


 アリアは微笑んだ。


 その笑みは、どこか冷たく、アリアが変わっていくようにロクスタは感じた。

読んでくれてありがとうございます。

ここから先、力と嫉妬と支配がむき出しに誰が味方で、誰が敵なのか。

裏切りと権力に向けての戦いが加速していく。

そんじゃ、次回も宜しくお願いいたします。


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