序章 -6.東風は孤高を呑むか-
授業が始まって今日で4日目だ。金曜日の午後。すでに私の脳みそは干上がっている。高校生が漢文など使うはずもない。
春眠暁を覚えず。私にとって漢詩とはこの一文に集約されるのだ、以上!
にぎやかな春は悠一人で十分だ。この苦痛な授業に私は瞼同士の逢瀬を我慢できないことになっている。
一方で悠はなかなかどうして学問も悪くなかった。入学式後に過ごしたわずかな時間ではキャラクター的に考えたとき、考えるのが苦手なタイプかと思ったが、決してそんなことはなかった。社会の公民の授業で、一時間目から飛ばし気味のディベートを行ったのであるが彼女は何か小難しいことを述べていた。
正解か間違いかを求めている授業ではないのであるが、何よりも担当教師をうならせるような発言であった。何かすごいことを言ったのだろう。
数学Ⅰの授業も中学校の総ざらいを含めていきなり小テストであったものの、満点に近い点数であった。そしてほぼ想定通りというか理数系は後ろの斎藤亜紀が満点であった。
化学基礎でも同様であった。悠もさることながらダウナー少女、斎藤亜紀がやはり桁違いの学力を発揮していた。まさか周期表をほぼそらんじるとは思わなかった。さすがに先生もびっくりしてたなあ。それでもって彼女に何気なしに聞いたら一番好きな科目は「生物」らしい。自分の生態でも研究するのだろうか。GSコースと間違ってきたのではないのか?
コミュ力お化けの美少女が頭もよければ無敵だ。そして後ろのダウナー少女もこれまた抜群に優秀ときた。間に挟まれた平凡な私はどうすりゃいいんだ、まったく。
そして当の悠は斎藤亜紀にも私同様、いや私の時よりもはるかに凄まじいアタックをかけていた。斎藤亜紀は基本的には休み時間は普段から寝不足なのか突っ伏していることが多いのだが、むろん人間なので生理現象は免れない。彼女が席を立って戻ってきたその隙を見計らって悠は斎藤亜紀に度々突撃するのだ。
「亜紀ちゃん、すごいね~周期表どうやって覚えたの?」
「別に大したことじゃないよ。一度見たら忘れないだけ」
「そんなことないよ~あんなの覚えきれないよ~」
「大丈夫だよ、楠木さんも十分覚えてるよ」
斎藤亜紀はうっすらと笑う。あ、これ怒ってないか?大丈夫かな。
「もう。ハルでいいよ、亜紀ちゃん」
「楠木さん、そろそろ授業始まるよ?席に戻ったら?」
「あらら、本当だね。じゃあ、またあとで」
いや、これ絶対斎藤さんうざがってるんじゃない?その一幕を私はトイレに行った振りをして見守っていた。明らかに「こいつ面倒くさい」という空気感をぷんぷん匂わせている。ストレートには伝えていないけど、絶対そうだ。笑顔だけど笑わないって本当にあるんだ。
うわ~この斎藤さんの攻略は難しいぞ。それにしても周期表を一度見たら忘れないってさらって言ってるけど、それはそれで化け物だよ。この異様な二人には平凡な私が到底たどり着くことすらできない世界である。あ~くわばらくわばら。
いかがだったでしょうか?
次回更新予定は5月19日(火)です!
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