表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
序章
PR
5/16

序章 -5.戸惑う春-

「なっちゃん、このコロッケ安いし本当においしいねえ」

 本当に子供のように悠は公園のベンチでコロッケを頬ぼっていた。ここのコロッケは具材のバランス感が絶妙だ。無論、こうした状況下で食べるからこそなおのこと旨味も感じることもできるのだろう。しかし、ここのコロッケはたまに味が変わる。要は味が安定していないのだ。だが、私はそんな味の安定しないコロッケが好きだ。

 もちろん、おいしいものは食べたいが、この絶妙に変わる味こそがだいご味なのだ。当たり外れがあるから、あたりを食べたときの嬉しさはこれまたいいものだからだ。もしかしてギャンブラー気質かもしれない。

 午後からは悠に自分の行動範囲を実地で説明した。自転車での行動範囲など知れていると侮るなかれ。気合を入れれば5駅から10駅くらいはなんとかなる。とはいえ、金欠で昼食も菓子パン1つをそこそこに分け合った今の我々にそこまでの体力はない。

 日はすでに傾きかけていた。スマホの時計を確認すると17時前だった。お母さんにはすでに連絡しているが、あと一時間ほどで家に帰ったほうがよさそうだ。門限というより、ごはんの時間に間に合わないと弟たちにすべてを平らげられてしまう。ひもじく白米とみそ汁だけになってしまうのはごめんこうむりたい。

「さて、そろそろ帰ろうか」

 ベンチから立ち上がり、ぐっと背伸びをする。公園には子供たちの声が響いている。小学生低学年の男の子たちがドッジボールを繰り広げている。

「そうだねえ。あのカレー屋さん本当においしそうだったねえ、今度休みの日に行こうよ」

「ん?ああ、マハールのことね。あそこ、ネパール人のオーナーさんらしいけど、ネパールカレーを日本人の口にも合うようにって頑張ったみたいだよ」

「詳しいねぇ、もしかして常連?」

「常連ってわけじゃないけど、おいしい店だよ」

「いいねえ。この街、あたし気に入っちゃった」

 悠も立ち上がり、私の隣でぐっと背伸びをした。私とほとんど同じ身長であり、目線の高さもほぼ同じ。今見えている景色は同じでも、きっと彼女にとっては真新しいことばかりなのだろう。退屈な私にも少し彩が生えそうだ。そんな期待が広がる。

「そりゃよかったよ、まあ休みの日にでもまたもうちょっと詳しく教えるよ」

「ありがとう!ちなみに、ここって駅から近いの?」

「まあ、自転車で5分くらいかな。そういえば、ハルの家ってどのあたりなの?」

「うーん。住所で言うと二丁目で何たらレジデンスってところかな」

「ああ、あそこか。じゃあ、あたしの家とも近いね。多分、二丁目でレジデンスっていったら日輪レジデンスじゃないかな?」

「ああ!それそれ。ニチリンレジデンスってやつ!っていうか、なっちゃんご近所さんなんだね、タオルと洗剤もって挨拶に行くよ!」

「いやいらんよ!新聞の勧誘じゃあるまいし。ま、案内ついでに帰ろうか。ここからなだいたい自転車で10分くらいだね」

「OK!」

 私と悠は自転車のサドルにまたがり、東のほうへと向かった。暮れていく西日を背にして帰路を目指す。悠は鼻歌交じりに自転車を漕ぎ思い出したように私に告げた。

「そうそう、そういえばなっちゃんの後ろの席の子、斎藤さんって言うんだよね?説明の時ちょっと話してたけど友達なの?」

「いや、全然知らない子。休み時間ずっと寝てたから体調悪いのかな。って思って声かけただけだよ。寝不足って言ってたけど」

「そっかあ。確かにずっと顔面ずーんってなってたよね。あの子、確か下の名前が亜紀って言ってたよね。あたしあの子とも仲良くなりたいなあ」

「それは季節の秋とかけて?」

 つい聞いてしまった。いや、でも絶対そうだろう。

「あはは、ばれちゃった?でも、決めてるんだ。あたし、両親が転勤族だったから本当に仲良くなるのは二人か三人くらいまでって。みんなと仲良くなりすぎちゃうとお別れの時辛くなっちゃうから」

 悠は笑ってこそいたが、少し遠くを見つめているように見えた。まあ確かに数年に一度、引っ越してしまうとそこで築いたコミュニティも一瞬でなくなってしまう。ましてや小さな子供の場合、親とは違って気軽にスマホや連絡手段は持っていない。高校生くらいになればそんなことはないのだろうが、小学生中学生くらいまでなら不思議ではない。悠もこの屈託なき笑顔の裏で苦労しているのだろう。

「私みたいな時の勢いでいったら煙たがられるかもよ?あの子、見た目よりちょっとクールかもしれないし」

「ええ?そうなの?困ったなあ。あたしこれ以外で友達の作り方知らないや。まあ、なんとかなるでしょ」

 悠は自転車でまた笑っていた。本当によく笑う子だ。その横顔に一瞬浮かんだ影はどこかへと消えていた。

 沿道の菜の花が4月の風に揺れている。

 あれ?ここの菜の花って前に咲いてなかったけ?満開じゃなかっただけなのかな。人間の記憶は曖昧だなあ。

いかがだったでしょうか?

次回更新予定は5月17日(日)です!

序章は毎日更新します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ