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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
序章
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序章 -4.うららかに放課後-

 つつがなく他の施設説明の時間も終わった。悠はその間も田舎の少女っぽさを全面に出して、お上りさんのようによく顔を動かしていた。しかし本当によく笑うなあ。何人かの男子が既に目をつけているのが近くにいてよくわかる。変な虫がつくと厄介だけど、こればっかりはなあ。私は今のところ恋愛はわからんけど、この子がどう思うかはもっとわからん。

 そして私を含む総勢40名は1-4と書かれた教室に戻ってきた。一通り施設の説明を聞いたが、なかなかどうして設備も整っていることがわかった。もちろん、中学時代にある程度下見をしていたし、資料にも目を通していたが思ったよりもこの学校は設備がよかった。だてに体育館そばにシャワールームまで完備されているわけではない。

 入学式は午前中に終わり、今日はこれでおしまいだ。教科書やタブレットなどの類は合格者説明会で既に購入しているから今日は重たいものを持って帰る必要はない。ただ、タブレットは毎日持ち帰りが強制されている。中学時代でも使っていたが、ワンサイズ大きくなり画面も見やすい。これで課題もしなければならないのだが、最初の課題はこの端末のセットアップだった。私もそれなりにデジタルネイティブだと自称しているが、この類の作業は面倒で苦手だ。

 かばんにタブレットを突っ込む前に明日の時間割を確認する。一年生にあってはまだ6時間授業しかないが、二年生や三年生は7時間目もあるらしいし、GSコースはもっとあるらしい。総合学科の私からすれば拷問そのものだ。

 さて、明日の時間割は化学基礎、現文、数学Ⅰ、地理総合、体育、情報Ⅰだそうだ。

 むう。初っ端から苦手な理系科目が3つもあるではないか。だいたい情報Ⅰってなんだ?まったく何をするのか見当もつかない授業ではないか。終礼HR後に担任に情報Ⅰって何ですか?って聞いたらネットリテラシーって言ってたけど、後ろの斎藤さんもたまたま聞いていたみたいで、情報って論理回路とかじゃないの?って言っていたなあ。ええい、小難しいことは私にはわからんのだ!

「ねえ、なっちゃん、どこ行こう?どんなお店があるの?」

 タブレットをのぞき込んでいた私の顔に悠が春今、ここに!という感じで上書きしてくる。心臓に悪い行動をとるなあ。にしてもこの勢い、本当に思春期を迎えた高校生か?

「え、ああ、かえ……って、制服を引っ張らない」

「あはは、ごめんごめん、早く街を見たくってさあ」

 周りの男女を颯爽と差し置いて悠は私の制服の袖を引っ張りながら教室の外へと駆け出そうとする。

 んー。若干、勢い強すぎな気もするけど大丈夫かなコレ。


 自転車置き場は一人一台確保されている。これはクラス全員分、自転車だろうが徒歩だろうが、なんだろうが確保されておりそのスペースは私も初めて見たときには仰天した。正直こんなにいらんだろう、滑走路じゃあるまいし。

 悠と私は自転車通学だ。学校指定のステッカーをぺたりと泥除けの部分に貼り付ける。

「うーん。こういうシールって綺麗に貼るの難しいんだよねえ」

 独り言を言いながら悠はステッカーの位置を微調整しながら真新しい自転車に貼ろうとしている。

「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?ほら、さっさと行くよ」

「いやいや、新しい自転車だもん。せっかくなら綺麗に貼りたいよ」

 妙なこだわりがあるものだ。ステッカーを適当に貼り付けた私とは異なり、悠は1分ほど格闘して貼り付けていた。大雑把に見えて意外と几帳面なところもある。まあ新しい自転車であれば多少なりとも気を遣うのかな。私は中学生の時から使っている自転車で既に三年使っているからあまりそういったことは気にしない。

「よし、貼れた。なっちゃんお待たせ、さあ出動だあ!」

「さあて、どこがいいかな。とりあえず何が見たいかな?カレー屋は後の方で行こう」

 学校指定のヘルメットを篭に乗せ、私は自転車を押して歩く。悠はもうやる気満々でダサい学校指定のヘルメットをかぶっている。

「ぷっ、ハル。さすがに今はヘルメット外しなよ。ダサいよ」

 私は思わず悠のヘルメット姿に突っ込んだ。努力義務のヘルメットをかぶるのはどうかと思うが、幸い私の通学路は自動車の通りも少ない。かといってヘルメットをかぶらないのもどうかと思うがさすがに花の高校生である。こんなダサいヘルメットはかぶりたくない。当面の間は学校付近ではかぶって、離れたらとる。一か月くらい様子見して問題なさそうなら携帯するだけにしておこう。

 しかし、悠はそんなことをお構いなしにそのダサいヘルメットを何の躊躇もなく美しい黒髪にかぶせている。見た目が悠はいいのであるが、そのアンバランスさが際立って面白い。

「え?でも学校指定だからかぶらなきゃダメだよ。……ってちょっとダサいかな」

「相当ダサいよ」

 悠はすっとヘルメットを取り外し、私に向き直り真顔でぐっと詰めてきた。ちょ、近いってば!

「そっか……ぷっ……あはは!」

「ぷっ……あはは!」

 私たちは笑う。悠もやはりダサいと思っていたらしい。正門までの道のりで私たちは自転車を押しながら進んでいく。途中、部活の勧誘活動もあったが今は何も考えていない。中学バスケ部は補欠だったし、もう運動はいいかな。

 校庭では野球部とサッカー部がランニングをしてアップをしている。中学生の時にはよく私も走ったなあ。そういえば悠は中学時代何部だったんだろう。また、道中聞いてみるか。

「さ、一通り笑ったし気を取り直して行こっか。最初はとりあえず商店街から案内するよ」

「了解!商店街かあ。おいしいお店たくさんあるといいなあ」

「お肉屋さんもあるから、帰り道にコロッケとか買えるよ。値段もお手頃で、お肉もごろごろ入ってて熱々だからおいしいよ」

「いいなあ。一個買って食べようかなあ」

「私はそのつもり」

「よし、あたしも買おう!」

「じゃあ、まずはそこからだね。よし、行こう」

 正門を出て、私たちは自転車にまたがる。一応、ダサいヘルメットをかぶる。髪の毛のケアなどはあまり考えないタイプであるが、夏場は暑いだろうなあ。早く適度に慣れてできれば常時被らないようにしたい。

「なっちゃん、なっちゃん」

「ん?何?」

「……ダサい……ぷっ」

「うるさい!ハルも十分ダサいから早く行くよ!正門出てしばらくは真っすぐ!」

 自転車のベルで彼女を追い立て、立ちこぎでペダルを強く踏み込む。2台の自転車は平たんな道を、徐々にスピードを上げて進む。悠の踏み込むペダルが光った気がした。

 舗装されたアスファルトは太陽の光を吸い込み照り返して少し暑さを感じる。ブレザーを着ており、少し厚着であるがやがて半袖の時期が来るだろう。ああ、夏はそこまで来ているのだ。

 案内されるはずの悠が私の少し先におり、私は彼女の横顔を見る。きれいな顔をしているなあ。素直に思った。希望に満ちており、瞳はきらりと輝いて見え、心なしか彼女の左耳にあるヘアピンもきらりと輝いてみえた。今回は名前の順の役得かな。

 葉桜の道は自転車でスピードに乗ると心地よかった。この一年は退屈しない日々を過ごせるだろう。私は晴れ渡った4月上旬の空を仰ぐ。雲が強く早く流れてゆく。強い風が吹いている。きっとこの一年もこの風のようにアッという間に過ぎていくのだろう。

いかがだったでしょうか。序章は毎日更新します!次回更新予定は5月17日です!

ぜひ続きも読んでみてください。

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