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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
第二章 落日の錦秋
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-4.くすぶる稲妻-

――前回のあらすじ


倒れた斎藤亜紀(さいとうあき)を保健室に運び込んだ小牧千夏(こまきちなつ)。帰宅するように促されたものの意地でその場に残ることに成功し、如月(きさらぎ)先生と他愛ない会話をしていた。そんな中、亜紀が目覚めて、大崎(おおさき)先生の車で送られるよりも如月先生がよかったと冗談っぽく笑うのであった。

「ええ!? 亜紀ちゃん、倒れちゃったの?!」

 ガタンと椅子から立ち上がり悠は亜紀を見つめた。おおう、やっぱりこういう反応になるよな。

「大丈夫よ。金曜日だったし、土日はバイトも休みだったし、いつも通りよ」

 淡々と亜紀はいつも通りのテンションで事実だけを述べる。

「あの時の私はといえば、まるで勇者のように亜紀を颯爽と救い、英雄になったのよ」

「ええ?! なっちゃん、格好いい!」

「何言ってるのよ、二人とも。さ、帰ろう。明日は面白くもない体育祭なんだから」

 本当に興味がないのがよくわかる。でも、亜紀はやっぱりまじめなんだよな。金曜日体調が悪くなったんだから、二日続けて平日を休めば体育祭もサボれるのに。私なら絶対にそうする。

 駐輪場に向かう。後ろからさす西日は私たちの影を伸ばす。日中はまだまだ暑く感じるが、この影が伸びるのは秋なんだなあ。なんか悠の影が妙に長く見える。あれ?気のせい?いや、確かに長い。なんだこれ?隣の悠を見るが、私よりも急に身長が伸びた?そんなことはない。私は二、三度目をこすった。前にもこんな違和感あった気がする。

 いつだったか。あ、夏休みにアイスが――

 その時、廊下の角から見覚えのあるジャージ服が姿を現す。

「如月先生! 先日はご迷惑をおかけしました」

 いち早く反応したのは亜紀だ。それに続く形で悠も如月先生に近づく。タブレットに視線をおとしていた如月先生は元気になった亜紀へと顔を向ける。

「斎藤さん。もう平気?」

「はい、おかげさまで。土日、しっかり休んできましたから」

 小さな体で亜紀は回復をアピールする。並び立つ亜紀と悠。影をジーっと見る。

 悠、亜紀、如月先生の影。悠と如月先生の影はほとんど同じだ。疲れ目かな。

「そう。よかった。今日はいつもの三人なのね。これからどこかに行くの?」

「今日はもうまっすぐ帰りますよ、明日は体育祭なので……」

 亜紀はわずかに視線をそらす。あぁ、やっぱり出たくないんだろうなあ。

「ふふっ、そうね。じゃあ、三人とも気を付けて帰ってね。さようなら」

 如月先生は小さく微笑んで私たちを見送ってくれた。本当、いい先生だよなあ。如月先生が担任ならよかったのに。


 自転車のカギを外してダサいヘルメットを前かごに放り込む。自転車押して歩くから問題ない。

「行こっか。亜紀ちゃん、なっちゃん」

「さあ、帰ろう。帰ろう」

 正門を出る。パラパラとほかの生徒たちも下校していた。この中途半端な時間に帰る連中は少ない。突然、から空っ風が私たちの間を通り抜ける。

「うわわ、すごい風。ヘアピン飛んじゃうよ」

「おお~今年も来たねえ、敷浪の空っ風」

「やっぱり日中は暑くてもこれが吹くと秋って感じだね」

 今年もやっぱり秋になってきたわけだ。この地方特有の秋の夕方に吹く空っ風だ。この辺は盆地らしく、北の方にある山から……詳しい話は亜紀が知ってる。

「にしても、本当に明日、いやだなあ……」

 珍しく諦めが悪く明日を嫌っている。まあ、運動音痴にとって運動会や体育祭というものは嫌に違いない。私がテスト嫌いなのと同じだ。

「亜紀ちゃんは結局何に出ることになったの?」

「私は障害物競争よ。運動性が低いのを順に選んでそうなったのよ。だから来年は玉入れを絶対にプログラムに入れてもらうわ。生徒会に直談判してやる……いや、私が生徒会に入れば捻じ曲げれるか」

 運動したくないことに熱意をかけてるなあ。私なら本当にずる休みしてしまう。体育祭のプログラムを変えるためにそこまでする…人だなあ、亜紀は。

「そういう悠は百メートル走になったの?」

「それがね、聞いてよ。亜紀ちゃん。一〇〇メートル走は横にいる人にとられたの」

 泣き真似をしつつ、悠は私を指さす。

「人聞きが悪いなあ。私は別の競技にしてたけど、大崎先生が私に振りなおしたじゃん」

「あら? ばれちゃった?」

 悠はいたずらっぽく舌を出す。

「ばれるも何もそうなったじゃん」

 私もつられて笑う。

「で、結局は二人三脚になったよ。高跳びもダメだったみたい」

「相方は?」

「確か園部君だったと思う」

「園部君? え、男子なんだ?」

「ペア的に余っちゃったみたい。まあ、頑張るよ」

「あー……ふーん、園部かぁ……あいつ、うまくやれるかなあ」

 この話、園部知ってたっけ?っていうか、ほかの男子と女子からもあいつ今後いじめられるんじゃないか?悠を狙ってるやつは多いからなあ。もし本当に悠との二人三脚があるのならあいつのこれからが心配だ……妙に胸がざわついた。

「くすぶる稲妻」いかがだったでしょうか。


自分が高校生のときは体育祭はグラウンドを貸し切ってやっていました。そのとき、芝生のグラウンドだったので寝転がって気持ちよかった記憶があります。


次回更新予定は9月4日(金)20時です!

更新は週一回を予定しています。

【2026/5/18~カクヨムでも同時掲載いたします】


※1.運試しで本作に「GL」と「第九回アイリス異世界ファンタジー大賞」のタグをつけました。それにともなって過去話も改稿もしたいと考えています。作風は今まで通りなのでご安心ください。


※2.別作品「鉄火、錆を削ぐ(https://ncode.syosetu.com/n9094me/)」が「第一回じゆうに大賞」の一次選考に生き残りました。こちらもよければお読みください。本作とは全く異なるベクトルで基本はおじさんしか出てきません。

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