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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
第二章 落日の錦秋
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-1.天地始粛(てんちはじめてさむし)は至らぬ-

―前回(第一章)までのあらすじ

 季節三人娘の楠木悠(くすのきはるか)、小牧千夏(こまきちなつ)、斎藤亜紀(さいとうあき)は夏休みを利用してその仲を深めていった。しかし、二学期が始まる直前、三人で悠のマンションに遊びに行ったときに見た光景に亜紀は戦慄していた。「花の檻」と形容できるほどの部屋。それは異常ともとれるほどの景色だった。

 不穏な空気がやがて降りかかる。


第二章-落日の錦秋-開幕いたします。

 さっきの大崎先生の今日もちんぷんかんぷんな授業を終えて、私はハルの机に腰かけていた。夏休みが終わって早一か月が経つ。

 もう十月なのに空の入道雲はまだまだ夏って感じである。でも、ふとした拍子に虫の音が聞こえる。確実に季節は進んでいる。

「ハルは体育祭何を希望したの?」

「あたしは長距離走以外で希望出したよ、一〇〇メートル走と走り高跳びかな」

 二学期が始まり、悠と席が離れてしまった。一方、亜紀とは隣になって彼女に授業中助けてもらうことが増えた。まあ、お昼はいつも変わらず皆一緒だけど。最近、心なしか亜紀がよく悠を見つめることが多くなった気がする。その目線は少し鋭いときがある。

 確かに悠は不思議な生き物だけど、一学期は多分私の背中で見にくかったから改めて生き物観察してるんだろうな。

「相変わらず長距離はダメなんだね」

「だって疲れるも~ん。長距離走れても良いことないよ」

 意外と悠は長距離以外なら平均より上なのでどちらもそこそこの成績は残すはずだ。

「ふたりとも運動できるからいいわよね」

 亜紀がため息を吐きながら言う。

「亜紀ちゃんは運動ちょっと苦手だもんね」

「ちょっとじゃないよ。相当よ。体育祭なんて誰も得しない行事よ」

「試しにトレーニングでもしてみたら?」

「遠慮するわ、無理に苦手を克服する必要ないもの」

 亜紀は手のひらをひらひらさせる。

「まあ、亜紀はその分脳みそに栄養が詰まってるからいいのかな」

「そういう意味では悠はちょっとズルい気がする」

「ええ? あたしが?」

 確かに言えてる。悠は運動も悪いわけではないし、勉強も十分にできる。

「そうだそうだ。ハルはずるいぞ!」

 悠のほっぺたをつまもうとしたとき、背後にぬっと影が現れる。

「小牧、ちょっといいか?」

 大崎先生だ。休み時間に珍しい。

「大崎先生、どうしたんですか?」

「体育祭で学年対抗リレーの選抜やらないか?」

「私が?」

「ああ、お前さんに白羽の矢がたったんだよ」

「え、なんか面倒くさそう」

 数枚に束ねられた書類をぺらぺらとめくりながら目的のページを探す。

「これだ。ほれ」

 大崎先生は私に書類の一枚を渡す。

「でもなんで私?」

「お前さんの一〇〇メートル走の成績が学年上位だから、学年対抗リレー選抜に選ばれたって話だ。一応、職員会議で話が出たからなそのメンバー表も含めてな」

「うわあ、面倒くさ」

「なっちゃん、やったじゃん!我がクラスのエースだよ、エース!」

「へえ、千夏よかったじゃん」

「いやいや、ナチュラルにめんどいよ」

 ぶー垂れるわけではないが、どう考えても行事の選抜とかは普通にダルい。

「拒否権ってあるんですか?」

 私はメンバー表を凝視する。うん、私結構足早かったのか。そんなに早い自覚ないんだけどな。しかもメンバー一覧に誰も知ったやつがいない。このクラスでの選出、私だけかよ。人のタイムなんて気にしたことないけど、みんな遅かったのか。

「ああ、あるぞ。一方的に決めるのはフェアじゃないからな」

「じゃあ、やめときます」

「そうか。じゃあ、次にタイムよかった奴だな」

 即決即断。これでいい。ちょっと待てよ。これでいいのか?私に足りないピースが埋まるのではないのか?そう、内申点だ!

「やっぱり、やります!」

「なんだ? 心変わりか?」

「次選ばれた人がかわいそうだな~と思って」

 私は打算がばれないように慈しみの表情を浮かべる。大崎先生はとっくにお見通しだろうけど。

「まあ、なんでもいいさ。次の奴は別の組のクラスだったから、俺もこっちで完結できればそれでいいしな。じゃあ、頑張ってくれよ」

「はあい」

「休み時間、つぶして悪かったな」

 大崎先生はくたびれた背中で教室を出て行く。その間に隣で亜紀と悠は体育祭の次にある文化祭の話で盛り上がっていた。

「お、なっちゃん。さすがだね。えらい!」

 悠は私の頭をなでる。悠の手からかすかに花の香りがした。そういえば、悠の家はすごい花屋敷だったなあ。

「でしょ~、花屋さん、褒めなさ~い。そこのクールガイも褒めなさ~い」

「内申点稼ぎに必死すぎじゃない?」

 亜紀が笑う。やっぱりバレてるか。だが、成績最上位と中間層がその差を埋めるには内申点という生活態度で積み重ねていくしかない。

「いやいや、私は次の人がかわいそうでね。善意の参加だよ」

「あはは! やっぱりか~、なっちゃんらしいね。でも、参加するのは偉いよ~」

「でしょ~? これで優勝すればさらに内申アップだよ!」

「バカねえ、っとそろそろ次の授業始まるみたいね」

「次なんだっけ?」

「たしか数Ⅰじゃなかったかな?」

 うへえ。算数は苦手だ。まあ、亜紀にまた教えてもらおう。

第二章「1.天地始粛(てんちはじめてさむし)は至らぬ」いかがだったでしょうか。

天地と言う言葉が入るだけで荘厳な雰囲気になりますね。実際の季節は夏本番ですが、彼女たちは一足先に秋に入りました。プールサイドのエースは今度は体育祭のエースに抜擢されてしまいました。私は運動音痴でしたので、こういう運動会や体育祭は苦手なタイプでした。


次回更新予定は8月7日(金)20時です!

更新は週一回を予定しています。

【2026/5/18~カクヨムでも同時掲載いたします】

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