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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
第一章 夏、到来!
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-5.夕立の前触れ-

―前回のあらすじ

 

 地下鉄を乗り継ぎ、お目当ての場所に迷いなく来たカレー女王こと、斎藤亜紀(さいとうあき)を筆頭に、近衛兵の楠木悠(くすのきはるか)小牧千夏(こまきちなつ)は午後の何でもないひと時を過ごしていた。かのように思えたが、やはりそこはカレー女王亜紀と近衛兵の悠はトランスに入り恍惚の表情を浮かべていた。

 ひとり正気を保つ近衛兵の千夏はその状況に恐怖しただただ、絶望の淵で嘆くほかなかったのである。

 電車が揺れる。冷房はガンガンにきいてうまいカレーとアイスの後でうたた寝にちょうどいい。

 私たちはこれからメインイベント?のスカイツリータウンのある浅草を目指す。亜紀はボケっと外の景色を見ているのか?アイドルに恋した少女の顔だが、ただ満腹で満足して魂が行方不明なだけ。

 ピーンポーン。乗換駅で亜紀がトイレに行ってる間に悠を怒っておいた。

「ごめん、ごめん。あまりにも亜紀ちゃんが面白かったからふざけちゃった」

「いや、マジ焦ったって。私だけがおかしいのかと思ったよ」

 舌をペロッと出して悠は笑う。この悪ノリは質がわるい、ほんと。

「でも、美味しかったのは事実だよ。モンブランも紅茶もおいしかったし」

「まあね。でも食べ終わってからの亜紀がまたすごかったわ」

「はは、ほんと。あれは私もついていけなかったよ」

 ふたりで笑う。亜紀の狂った一面だ。語りが既に宗教勧誘のそれだった。思い返すだけでも空恐ろしい。

「お待たせ、何か面白いことあったの?」

「亜紀ちゃん、お帰り」

「なんでもないよ」

「そう?じゃあ、次は最後、銀座線だよ」

 ホームを歩くと生ぬるい風が吹く。地下鉄特有の変な感じがする。にしても都心の地下鉄はこんなに妙な風が吹くのか。居心地が悪い空気だ。

「地下鉄ってなんかぬるい空気だよね、電車の中は涼しいのに」

「地下で熱がこもりやすいの。排煙の風もあるし」

「排煙?」

「大きな換気扇ね」

「やっぱり亜紀ちゃんは物知りだねえ」

 悠が亜紀に笑いかける。

 背中から逆風に押された気がした。淀んだ空気がかすかに押し流された?

 少し涼しくて気持ちいいなあ。けど、この涼しさ……エアコンとかの感じじゃない。

「おお、一瞬だけ涼しかった」

「さっきの電車が行ったからそれで風の流れが少し変わったんだね」

 銀座線に乗り込み十分足らずで浅草駅に着いた。目的のスカイツリータウンまであと少しだ。地下から地上に出ると、午前中の晴天とは一変。曇り空だ。

「あれ?今日ってお昼からお天気悪くなる予報だったけ?」

 気の抜けた声で悠が空を見上げる。うん、結構降りそうな感じだなあ。ちょっと空気湿っぽいし。

 すかさず亜紀はスマホで天気予報をチェックしていた。

「あー。昨日からちょっと予報変わってるね。午後から雨みたい」

 ふぅ。と亜紀はため息をついていた。ああ、そっか。亜紀、雨の日は頭痛いってよく言ってるもんなあ。

「じゃ、先に浅草寺で煙を浴びちゃいますか」

「そうだね、さっさと千夏の賢さを引き出してスカイツリータウンに行こうか」

 待て。煙を浴びるのは私だけなのか?

「ん?誰がアホだって」

「アホとは言ってないわ。あなたの潜在能力を引き出そうってだけ」

「大丈夫だよ、なっちゃん。どんななっちゃんでも受け止めるよ」

「どんなってなんだよ?二人そろってバカにして~」

「あはは、さあさあ煙を浴びにいざ浅草寺へ~」

 悠は雷門と書かれた大きな提灯めがけて走り出す。駆け出す悠を私は追う。悠にかけっこでは負けない!亜紀も小走りでやってくる。


 浅草寺は夏休みということもあってか多くの人でにぎわっている。お、あの店なにが売ってるんだろ?目移りしてしまうなあ。

「へい、亜紀。浅草寺のお土産を教えて」

「私はAIじゃないの。浅草は雷おこしが有名じゃん。それでいいんじゃないの?」

「人形焼きもあるよね?あれもおいしいよね~」

「二人ともよく知ってるなあ。お、あの饅頭おいしそう」

 さすが仲見世。いろいろあるなあ。

「ほんとおいしそうだねえ、あ。でもサイズ大きめだねえ」

「私はパスかな」

 掌をひらひらして亜紀は買わないみたいだ。

「じゃあ、私ちょっと買ってくるよ。待ってて」

 私は店に並んだ饅頭を眺めた。うまそうだ。さっきのカレーもアイスもおいしかったが、やはり饅頭だ。

「おばちゃん、これ一つくださいな」

「はいよ。二百円だね、はいちょうど。熱いから気を付けてね、ありがとう」

 財布から二百円を出して代わりに饅頭を受け取る。お、本当に熱々だ。

「ありがとうございます、うわぁ、美味しそう。ハルはどうするの?」

「んー。見た目以上に大きいなあ。あたしも今回はやめとこっかな」

 悠は確かに私よりも食い意地がない。

「そっか。じゃあ、こうだね」

 私は饅頭を半分個に半分をくわえる。さらにその半分を半分にした。

「これなら食べられるでしょ?」

 私は饅頭をかじりながら悠に差し出す。少し驚いたような表情を浮かべながら悠は饅頭のかけらを受け取った。

「ありがとう、なっちゃん」

「へへへ」

 私と悠は仲見世の隅っこで水を飲んでいる亜紀に近づく。

「ただいま、はい。これ」

「おかえり……ってこれは?」

「饅頭のかけら」

 無理やり亜紀の口に押し当てる。

「むぐ…」

「どう?熱々でしょ?おいしい」

「うん、熱々おいしい」

「えへへ、素直でよろしい」

「おいしいねえ、亜紀ちゃん、なっちゃん。なっちゃん、ありがとうね」

 饅頭を頬張り、仲見世を一通り見ながら例の煙へとやってきた。おぉ、煙ってる。

「さあ、なっちゃん、頭を出して」

「OK!任せときな!」

「なんなの、あんたたち」

 私は頭をぬっとその大きな植木鉢に向けた。

「いくよー」

 悠が私の頭めがけて煙をかける。あれ?なんかすんごい煙が私にまとわりつくんだけど。なんでだろ?おお、煙たい!煙で涙が出てくる!

 おお、目が染みる!って、亜紀もちょっと頭に煙かけてる。亜紀はこれ以上賢くなりたいのかな。あ、頭痛予防か。

「ぷっは、煙たい!」

「どう?なっちゃん、二次関数とオームの法則は?」

「うーん。わからん!」

「ほんと、あんたら何やってんのよ。はいはい、お参りしてスカイツリータウン向かうよ」

 煙は曇り空に吸い込まれていく。今にも雨が降りそうだ。早いうちにスカイツリータウンに向かおう。

「夕立の前触れ」いかがだったでしょうか?


雨の匂いが自分は好きです。土砂降りは嫌ですが。

アスファルトから立ち上る独特な匂い。嫌いな方も大勢いらっしゃると思いますが、これも一つの個性なのだと思いました。


次回更新予定は7月3日(金)20時です!

更新は週一回を予定しています。

【2026/5/18~カクヨムでも同時掲載いたします】

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