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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
第一章 夏、到来!
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-1.プールサイドのエース-

―前回(序章)までのあらすじ


 高校の入学式で出会った「桜前線の少女」楠木悠(くすのきはるか)に振り回される小牧千夏(こまきちなつ)はその春一番に巻き込まれていった。勢いあまって自席真後ろの「ダウナー少女」斎藤亜紀(さいとうあき)もその輪に放り込まれ、騒がしくも楽しい日々が始まった。

春(悠)・夏(千夏)・秋(亜紀)がここに集い、季節は夏へ―


青春にさらなるスピードがかかる、第一章-夏、到来!-開幕します!

 ああ、今年も夏が来た。夏休み直前の期末テストで私の成績は言わずもがな。うるさい。中の中でいいのだ。これが私の目指すオール普通だ!

 しかし、暑い。プールの掃除なんて私がやる必要があるのか?水泳部の仕事だろ。私は悪態をつきながら水の抜けたバカでかい箱をデッキブラシでひたすら磨いていた。

 なぜこんなことをしているかというと、単純な話だ。内申点稼ぎ。その一言に尽きる。

 帰宅部のエースたちは「普通の部活」に属していないというだけで、その実力を学校側が把握していないのだ。これはマズい問題である。

 自分で内申点稼ぎに学校の課外活動に参加したにも関わらず、文句を頭の中でぐずぐず言っていた。


 あー、こんなことなら悠と亜紀と一緒に図書館に行けばよかった。

 三人とも確かに帰宅部だ。しかし、あの二人と私が決定的に違う点。そう根本的な学力差である。これは逆立ちしたって、地球が爆発したって変わらない。

 なんであの二人は授業もそこそこに期末テストで上位を独占しているんだ?亜紀なんて共通科目で学年総合3番だったぞ!?狂ったGSコースが上位トップテンを占める中、3番だぞ!絶対に学科選択の時の選択をつけ間違えたに違いない。

 なお楠木悠さんも9番目だった模様です。


 あー、なんなんだ君たちは!どうすればそんなに賢くなれる?どうすれば悠のように授業中上の空でも勉強ができるようになるのだ!まったく。けしからん。

 私の成績は中の中だ。191番の成績などわざわざ思い出す必要もない。

「あれ、小牧さん。珍しいわね、あなたがあの二人といないなんて」

 体操着をまくり上げてデッキブラシで床とひたすら格闘していた私に声がかかる。如月優子先生だ。授業中と同じジャージ姿に私と同じデッキブラシを持っていた。

 女子保健体育の授業担当で、穏やかで優しいから男子人気もある。が人妻らしい。結婚指輪してないけど。

「ああ、如月先生、あの二人は、仲良く、図書館でイチャイチャしてますよ」

 私はデッキブラシで床をごしごしする。

「あの子たちらしいわね、小牧さんはどうして今日はプール掃除を?遅刻の多かった生徒が参加してるはずだけど?」

「私はこう見えて学校の課外活動を通して社会に貢献して、皆で協力することの必要性を学んでいるのであります」

「ふふっ、ずいぶんと殊勝な心掛けね。担任の大崎先生に心づけておくわ」

 如月先生は微笑んだ。

「ありがとうございます!」

「もうそろそろいいかしらね。主任にも聞いてくるわ。一応、差し入れのジュースもあるから、また後でね」

 うひょー。ジュースがあるのは聞いてなかった。いや、さすが如月先生だ。実質の取り仕切りが如月先生でよかった。

 私は頬を伝う汗を首にかけたタオルで拭う。あーあ、今頃悠と亜紀は涼しい図書館で何してるんだろ。亜紀はともかく、悠に図書館は似合わないよなあ。ま、私も似合わないか。


 如月先生と話してから10分もたたないうちに終了の号令がかかった。

 私を含めて生徒たちはプールサイドで一列に並び、健康状態の確認をされる。よく気づいたら、女子は数名だけだった。あ、これマジで失敗した奴だな。内申点欲しさに欲張りすぎたか。来年はもういいかな。

 目の前に如月先生が立ち、手短に挨拶をする。

「はい、じゃあ皆さんお疲れさまでした。これは学年主任からの差し入れです。一人一本ですので、とった人は後ろに順番に回してくださいね」

 おぉ、キンキンに冷えたジュースだ。さっき学年主任って言ってたけど、たぶん如月先生の提案だろうなあ。あの人、よく生徒がわかってる。

「皆さん、渡りましたか?では、今日は本当にありがとうございました。皆さんのおかげでプールも綺麗になりました。でも、遅刻をするのはよくないことですので、今後こういったことがないように余裕を持った登校を心がけてください。では、これで解散です。気を付けて帰ってください」

 二時間ほどの清掃が終わった。ロッカーで制服に着替えてほどほどの会話をして私は駐輪場に向かった。

「小牧珍しいな、お前があいつらとつるんでないの」

 今日はよく人から声をかけられるな。誰だ。

「ん、ああ、園部か。そりゃ私だって一人で活動することはあるよ。あんたは遅刻魔だから来ないわけにはいかないか」

 園部康太。クラスメイトの男子だ。楠木、小牧、斎藤、園部の順で私たちの後ろにいた男子である。ちょくちょく遅刻をしてしまう男子で学力も平均より落ちる感じだ。

 根は真面目なので、こういった行事にも参加はするがそれ以上でもそれ以下でもない。

「うるせーよ。朝が弱いんだよ、俺は」

「どうせネトゲかスマホで遊んでんでしょ」

「お前は母ちゃんかよ。あ、やべ。バイト遅れる。またな、小牧。お疲れ!」

 そう言って園部は自転車にまたがり、颯爽と去っていった。お前はその時間管理がうまくないから遅刻しやすいんじゃないのか。ま、私には関係ないが。

「ああ、じゃあね」

 最後に心で思った言葉は出さなかった。

「さて、帰りますか」

 独り言をつぶやき自転車にまたがる。すでにダサいヘルメットはかごの中だ。だいたいこんな暑いのにヘルメットなんてかぶってられない。

 頬に何かが触れた。ん?空を見上げるとさっきまで快晴そのものだったのに、今にも雨が降りそうな空になっていた。あちゃー、今日カッパ持ってきてないのに。こりゃ、全力で家に帰るか途中のコンビニでカッパを買わないと悲惨な目にあうぞ。とっとと退散するか。

 私は立ちこぎで思いきりスピードを出して帰路についた。

 ハンドルを強く握った掌は掃除の影響か少しひりついた。

 もちろん、その後土砂降りにあってびしょ濡れで帰宅したのは言うまでもない。

「千夏、あんたびしゃびしゃじゃない。掃除してたのについでにプールにもつかったの?」

「そんなわけあるか!シャワー浴びる!」

「プールサイドのエース」いかがだったでしょうか?

夏の季語としてプールを選んでみました。エースというと色々なイメージがあると思います。

みなさんにとってエースとは何が思い浮かびましたか?


次回更新予定は6月5日(金)20時です!

更新は週一回を予定しています。

【2026/5/18~カクヨムでも同時掲載いたします】

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