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夢幻の世界の中で  作者: 高遠ハット
第1章 召喚士カナト ───力。それは強大で愚かな、か弱きもの。
34/36

第34話 いざ行かん、反乱の渦中へと

試験的に地の文と会話の空欄をなくしてみました。

特に何の反応も無ければ、このままで続けてみます。意見のある方は、お手数ですが感想または活動報告までお願いします。

 陽光が少年の頬を照らす。覚醒が導かれるが、少年はいまだに眠りの残滓を離そうとはしない。生温い風が木々を揺らし、森をざわめかせた。

 標高が高く年平均気温が割と低いここ日本アルプスの山中でも、近年の地球温暖化からは逃れられないようだ。

「おぅーい、少年。いつまで寝てるつもりだー? それとも──」

 木枝を組み合わせて作ったシェルターが壮年の男によって取っ払われた。遮蔽物のない直射日光が少年に降りかかる。それでも少年は「んあ……」などとうめくばかりだ。

 男は無造作に足を振り上げた。ちょうど少年の顔面の真上に。

「寝ぼけたまま殺されてぇのか!?」

 躊躇なく足を振り下ろす男。狙いは少年の顔面だ。靴底には鉄板が仕込んであるので、少なくとも顔の骨ぐらいは折れるだろう。

 男の殺気にあてられたのか少年が覚醒。視界いっぱいを靴底が覆う。脳で判断する暇はない。脊髄反射で少年は横に転がり踏みつけを回避。立ち上がる勢いを利用して男の腹に拳を入れる。

「うわっ、耐衝繊維着込んでやがる!」

 しかし拳は通ることなく、男の服に吸収された。少年は憎たらしげに舌打ち一つ。対象的に男の顔には得意げな笑みが。

「ちっちっち、今時の兵士はハイテク化してるのだー!」

「兵士の流行りなんか聞いてないですし、師匠が言えることですか? 全人類の中で最も野蛮な師匠が!!」

「い、いくら何でも言い過ぎだぞ奏斗! 俺だってなあ、日々努力してんだよ!!」

「え……? 確認ですけど師匠、ケータイ持ってます?」

「当たり前だろ」

「パソコンは?」

「持ってるって。って、あ? なんだその顔? さては信じてねぇな!?」

「すごいな、現代って。原始人までもが電子機器を使えるんだ……」

 しみじみと科学の進歩を実感する奏斗。目には涙が浮かんでいた。

「ちょ、やめろ、おい! そういう本気なのか冗談なのか分かんねえ真似はすんな!! いくら俺でも泣くよ? 泣いちゃうよ? あ、やべ。マジで涙出てきた」

 早朝の山中で、まったく違う理由で涙を流す男2人。なんとも奇怪な光景である。

 そんな異様な風景に誘われたのか、一匹の熊が彼らに近づいてきた。

「グスッ、師匠、熊ですよ、熊。どうします?」

「えぐっ、え? あ、ホントだ」

 2人の場合の『どうするか』には、逃げるという選択肢は含まれていない。どちらがどうやって倒し、死体の後始末をどうするか。そこにしか焦点は当てられていないのである。

「よ、よーし。ホントなら奏斗を殴りたくて仕方ないけど熊に八つ当たりしてこのムシャクシャを吹き飛ばそう! うん、それがいいな!!」

「師匠、動物虐待はアウトですよ?」

「大丈夫だ、奏斗」

 熊に身体を向けたまま、上半身を捻り顔を奏斗へ向け指を奏斗に指す男。異様である。

「八つ当たりがてら、お前に一つ技を教えてやろう」

「全然大丈夫じゃないですよ」

「簡単に哺乳類を殺せる方法だ。将来絶対にお前の役に立つから、まあ見とけ」

「そんな血なまぐさい未来なんてこっちからゴメンです。って聞いてないし……」

 怖れず熊へと向かう男。立ち上がって威嚇するが、男の歩みは止まらない。

 そもそもからして、熊が人を襲うのは、人を捕食対象と見ているのではなく単に人を恐れているからだ。熊除けの鈴はそういう意味の下で成立している。そんな状況下で人と熊がばったり出会ってしまった場合、人は恐怖で逃げ出すが、熊だって怖い。その恐怖の延長線上で熊は本能で人を襲い、傷つける。熊が人を襲うのは一種の防衛反応なのだ。 

 だから、例に漏れず熊は自分の身を守るために男を襲おうとした。噛みつかんと牙をむけるが──、

「あ、動かないでくれますかー?」

 目にも留まらない男の貫手が、熊の胸部を貫くのが先であった。

「狙うのは命を保たせる循環器系。もっといえば、肺や心臓だ」

 鮮血をまとわせながら、貫手が抜かれた。傷口から鮮血が一定のリズムで噴き出ていく。

 貫手は肋骨を砕き肺を破っていたのだ。じきに呼吸が成り立たなくなり、熊は絶命するだろう。

 たった一撃で、男は熊の命を奪ってみせた。

「どうだ、奏斗。分かったか?」

「分かったというか……、これ明らかに対人用ですよね」

「そんなことはどうでも良くてだな。とりあえず、朝飯確保だ!」

 奏斗は辺りを見渡す。めぼしいものはまだ痙攣している熊だ。

「まさか……、朝っぱらから熊ですか?」


 火が爆ぜる音の上に鍋がかけられている。

 鍋を吊した三脚のかまどは、シェルターを作った木枝と手持ちのロープを組み合わせて作ったものだ。

 こういった山中での修行、いわば長期間のサバイバル生活では、持ち物は少なくかつ万能性に富むものが求められる。ロープは、それらの条件を満たしてくれるうちの一つだ。

 現代の生活において、『結ぶ』ことの出番は少ない。だが、サバイバル生活においては話が別だ。サバイバル生活では『結ぶ』ことは主役級の活躍をみせる。『結ぶ』ことができるかどうかで生死が決まると言っても過言ではないだろう。

「本当に朝から熊なんですね……」

 頭を抱える奏斗の前には、鍋いっぱいの水で煮られる熊肉。焼くのではなく煮ているのには、確実に火を通そうという安全志向が見て取れる。

「良いじゃねぇか。成長期なんだから食わねえと!」

 子供のように無邪気に笑う男。しかしその姿は血にまみれていた。街中を出歩けば、一発で通報されそうだ。もちろん男は猟奇的な事件の加害者にも被害者にもなったわけではない。熊を解体して返り血を浴びただけである。

「修行に来る度に人間的に退化してる気がしますよ……」

「馬鹿やろう、退化じゃねぇ! 野生に戻ってるって言うんだよ!!」

「はいはい、そうでしたねー」

 熱弁する男を受け流し、奏斗は鍋を覗き込む。肉を煮込む水が真っ赤に染まっていた。赤色の液体がぐつぐつと沸騰する様は、不快感しかもたらさない。食欲なんてものは吹っ飛んでどこかに行ってしまった。

「師匠、血抜きぐらいちゃんとやりましょうよ」

「え? 面倒くさい」

「いやいやいや、どう頑張っても不味いんですから、せめて見た目だけは食欲を呼び込むように努力しません?」

「……食えるならどうでも良くね?」

「うわぁ……、人類の料理の歴史をあっさり冒涜しやがった……」

 無駄話を重ねつつ、火が完全に入った熊肉を口に含む。

 不味い。

 肉本来の味が活きている、なんて言えば聞こえは良いかもしれないが、結局のところ獣臭くてどうにもならない。かむ度に口内が獣臭に汚染される。味付けどころか下拵えさえ不十分なのだから、不味いのは当然か。

 それでも奏斗は食べ続ける。不味いが生きるためには食べるしかないのだ。『食べられればどうだっていい』。命を繋ぐには仕方のない事である。それでも、こんな食事に慣れてきた自分自身に奏斗はうんざりしていた。

「はぁ、味覚が麻痺してる……」

「ま、味ないからな。そんなときにはコイツだ!!」

 ポケットから白い芋虫のようなものを取り出す男。

「なんです?」

「見て分からねえか? 蛆だよ蛆虫! コイツはな、結構塩味が強いんだよ。だからな、ほら!!」

「分かったから実演しないでください。煩悩よりも多い俺のトラウマが増えてしまいます」

「大変だな」

「誰のせいでしょうかねぇ!?」

 ギャーギャー騒ぎながら不味い飯を無理やり飲み込む。いつも通りの食事風景だ。

「そういや、奏斗。お前今年でいくつだ?」

「15になります。受験勉強放棄してまで来てるんですから、感謝してもらいたいですね」

「そうか15か……、そろそろだな」

「何がです?」

「奏斗」

 男の顔から遊びの要素が消える。真面目な話に切り替わるサインだ。

「近い将来、必ずお前は大勢の人を巻き込んだ厄介事に関わる」

「必ず……、ですか」

「ああ、必ずだ。その時お前は間違いなく戸惑うはずだ。普段なら

 考える必要のないことまで頭を働かせるだろう」

 奏斗は静かに男の言葉を聞いていた。口答えするつもりはない。この男は頭はアレだが、喋る言葉に嘘はない。推測でものを言うことを激しく嫌う人間だと知っているからだ。

「だが奏斗、絶対に俺のようにはなるな」

 男の目に物憂げな哀しい色が映る。

「お前が経験したことのない世界に放り込まれても、自分を失うな。自分を保て。流されて自分を捨てた媚びへつらう人間にはなるんじゃない。

 お前の人生は偉ぶったオッサンが決めたものか? 違うだろ? お前自身が決めるものだ。分かったか?」

「肝に銘じますよ」

「それと、だ」

 男の顔には依然として遊びの要素がない。だが、奏斗には分かった。真面目な話はこれで終わりだ。

「何です?」

 身構えて男の返事を待つ。

「いい加減童貞捨てろ。人生の選択肢狭まるぞ?」

 予想通り。奏斗は特に焦ることなく言葉を返す。

「中3で童貞捨てるとか早くないですか?」

「何言ってんだ奏斗。俺がお前くらいの頃には毎日ズッコンバッコンオールナイトよ」

「昔からそんな感じだったんですね……。ま、そりゃあ捨てられるに越したことはないですけど」

「よしきた。富士の樹海の中にあったあの村のこと覚えてるか?」

 指を鳴らし、男が意地悪そうに笑う。下品な笑みだ。

「猛烈に歓迎されたあの村ですよね。年が近めな女の子に何回も『抱いて……』って言われたのでよーく覚えてますよ」

「こないだふと思い立って行ってみたんだけどさ、それはそれは(性的な)歓迎を受けてよぉ!」

「マジですか? 本当に言ってるんですかそれ?」

「そんなわけで今から行くぞ!!」

「えっ? 今から!? 行けるだろうけどって師匠! 待って!

 そんなことしてたら俺の夏休みが終わっちゃう!!」



 ●



 曖昧な意識が徐々に繋がり、身体の感覚を取り戻していく。最初に感じたのは体を揺らす規則的な振動。次に背中が接している硬い感触。最後に白い天井を視覚に収めて奏斗の意識は覚醒した。

「どこだ……、ここ……」

 虫が鳴くようなかすかな声だったが、誰かの耳には届いたらしい。青髪に猫目の少女が奏斗の顔を覗き込む。ネコミミをつけたら可愛いだろうなぁ、と至極どうでもいい事を思っていると、本物のネコミミ娘が視界に入り込んだ。

「カナ兄!? 目が覚めたの?」

「良かったにゃぁ……」

 その声に、やっと記憶が追い付いてくれた。

「仁菜……と、シャオン、か?」

「心配したのよ? ずっと目を覚まさなかったんだから」

「どの、くらい……?」

「5日」

「結構寝てたな……、よっと」

 手をついて奏斗は体を起こす。長く横になっていたせいか節々が痛む。

 窓があった。風景が流れている。ということはどこかしらを移動している最中なのか。

 首を振って、意識を強引に復活させる。

 何か懐かしい夢を見ていた気がしたが、内容までは思い出せない。大方、師匠との馬鹿話の一つでも思い出していたのだろう。

 ふと視界に左腕が映った。思わず奏斗は自分の腕を凝視してしまう。

「左腕が、ある? なんで……」

 勇者に断ち斬られたはずの左腕は、何事もなかったかのように元通りだ。ただ衣服に残った夥しい血糊だけが、事実であったと教えてくれる。

「目を覚ましたら、穿真さんが渡しておけって」

 困惑してきた奏斗に手紙が差し出された。穿真から、という点に奏斗は眉をひそめる。

「胡散くさ……」

「と、とりあえず読んでおいて!」

「アタシたちは隣の車両にいるにゃ!」

「あ、ああ、分かった」

 うわずった声をあげながら去る2人を見て思うことは一つ。

(シャオンの語尾……、変わってね?)

(あとで話すにゃ!!)

(うわっ、介入してくるなよ!)

 気を取り直して奏斗は手紙を開く。幾何学の模様の上に文字がつらつらと書き連ねていた。言語はオルフェリアの直線言語ではなく日本語だ。

『やぁ、真宮。君がこの手紙を読んでいる頃には、君は皇都にはいないだろうね。

 さて、まずは先日の決闘の顛末を───────』



 ●



 皇族専用の街道を馬車が駆ける。魔法で強化された馬はその有り余る膂力で車両を3両引いていた。

 仁菜はシャオンとともに車両と車両の間を渡る。魔法で連結された車両の間は事故防止なんだか衝撃緩和なんだか知らないが、狭いとはいえない間隔が空いているのだ。

 車両の中にはティナとシスカが退屈そうに座っていた。退屈が過ぎたのか、シスカの目は瞳孔を開ききって虚空を眺めていた。

「皇族の趣味は変わっているのですね。シスカ皇女」

「あ……、なんじゃニナか。どうした? 交替か?」

「いえ、カナ兄が目を覚ましました」

「まことか?」

「ええ」

「む……、ならば時間はあまり残っていないようじゃの」

 奏斗が目覚めたというのに、4人の顔つきは未だに硬いままだ。喜びの色は一切見られない。

「親が原因とは言え、カナ兄は戦闘狂種バーサーカーの呪いを受けているわ。時がたてばカナ兄は全世界の敵になるでしょうね」

 仁菜の言葉に感情はない。淡々と現状を整理する事務的な口調だ。

 ふむ、とシスカは一拍置き、

「戦闘狂種……。一般には魔力に侵された魔物の一種と言われているが、本質は違うの。神話の中で邪神だの悪神だのと言われた“悪役”の末裔じゃったか」

 ティナが補足する。

「悪の役目を果たすために、戦闘狂種には見るものが敵意や悪意を感じさせる要素が備わっています。醜悪な外見や残忍な性格、強大すぎる力などが主ですね」

「けど、約20年ほど前に掃討作戦がフランペ六都市連合を中心にして実施。戦闘狂種は全滅したはずにゃ」

「単純に討ちもらしがあったか、何らかの魔法で生きながらえていたのか……。

 何にしろ、戦闘狂種が生き残りのためにカナ兄に呪縛を施した。詳細は分からないけど、悪意を向けられるための要素を含んだものであるのは確かね。

 話はここからよ」

 空気が張りつめる。誰かが生唾を飲み込んだ。

「私たちには、2つの選択肢があるわ。

 一つは、カナ兄を見捨てる。戦闘狂種の生き残りがいたと冒険者に依頼を出せば、確実にカナ兄は討たれ世界は何も変わらない。

 もう一つは、何もしない。現状維持よ。私たちが行動を起こさないのなら、カナ兄が戦闘狂種だと知られる可能性はないわ。いずれカナ兄が戦闘狂種に変わり果てたときには、甚大な被害が出るのは疑いようがないけどね。

 さぁ、どちらにするの? 私は何もしないわ。昔からの仲だもの」

「わたしも何もしません。妹なので。義理ですけど」

「アタシも何もしないにゃ。使い魔だから!」

「わ、妾は……」

 そのままシスカは口ごもる。皇女としての立場と個人の感情とで揺れているのだ。

 個人としてなら、何もしないの一言に尽きる。だが、彼女は皇女なのだ。そこらへんにいる一介の生娘とは違う、一つの言動が国の行く末に大きな影響を与える本物の権力者である。個人の身勝手な感情を迂闊に口にしてはならない。

 それでも彼女は、

「妾も何もせぬ。大体、カナトがいつ戦闘狂種になり果てるのか不確定じゃ。明日なのか来年なのか、はたまた100年後なのか。

 そんな曖昧な理由では人を殺せぬし、国民も納得せぬだろう。

 それに……、」 

 シスカは口元に笑みを浮かべて、

「妾がもしカナトを見捨てると言ったら、お主らは平気で妾を殺しにくるじゃろ」

「何ともいえませんね」

 黒すぎる冗談に仁菜は苦笑を答えとした。

「ともかく、私たちは何もしないってことで」

「それが一番面白いじゃろうな」

 運命の歯車がまた一つ、回り始めていく。



 ●



「なんてこった……」

 奏斗は拳を床に叩きつける。戦闘狂種の呪いのせいとはいえ、また人を殺してしまった。それも凄惨なやり方で。

 穿真の手紙には、こう記されてあった。

『ウルルの遺体はひどいものだったよ。胴体はミキサーで混ぜたみたいにぐちゃぐちゃだし、骨はほとんど折られていた。顔は痛みで歪んでいて、乙女とは思えなかったね』

 自分を切り刻みたくなるほどの、行き場のない怒りにかられる。意識が途切れていたとはいえ、奏斗が人を殺めたことに変わりはない。

 手紙は続く。

『君の意識が無い間、“治療”と称して色々と調べたよ。その結果、君は魔法の同時使用と新しく魔法を契約することができなくなっている。正確に言えば、この2つのどちらかを実行したとき、呪いの効力で強制的に止められる。例えば、全身に激痛が走るようなケースが考えられるね。身に覚えがあるじゃないかい?

 とまぁ、こんな点から精神面に影響を及ぼす呪いであるようだね』

「魔法の同時使用と新規の魔法の契約ができない、ね。となると、これまでに契約した魔法を単発でしか使えないわけだ。

 ……これは死ぬな」

 ふざけてる、と奏斗は息をつく。一体自分が何をしたというのか。『召喚者』のことも親のことも、全く彼には関係のないことだ。にもかかわらず、それらの責は奏斗に集約されている。考えてみればどうにもおかしい。

(気に食わない……)

 事態が自分のあずかり知らぬところで動いている。自分はただ巻き込まれているだけ。主導権はおろか、何が起きようとしているのかさえ分からずじまいであるのに、その中心にいるのは奏斗だ。

 残りの文は、奏斗が箔付きに昇格しただの、箝口令を敷いたはずが決闘の内容が知れ渡っているだのどれも彼の興味を引くものではなかった。割と重要なものではあるが。 

 しかし、最後に書かれたこれだけは奏斗を無視させることはできなかった。

『追伸。

 君の思った通り、“計画”は綻びをみせている。設計図が破綻するのに、そう時間はかからないかもね』

「お見通し、ってわけか……」

 考えが見抜かれていた。その点は腹立たしいが、この文章はあることを示唆している。

「完全に『あっち側』ではないみたいだな」

 宮裂動乱の損失を補うために奏斗の人生を設計して、実行させようとしている何者か。連中に穿真と燈司は完全に荷担しているわけではないようだ。

「のうのうと平和に過ごしたいけど、そうはいかないんだろうなぁ」

 平和からの決別。それは同時に、戦場に生きることも意味していた。

 巻き込まれるのではなく、受け身ではなく、踊らされるのではなく。かき乱し、能動的に、かつ脚本を自らの手で書き換える。

 必要なのは手段を選ばぬ覚悟。捨てるのは躊躇。

 そう決断した奏斗に、隣の車両から声をかけられた。

「お兄ちゃん? 入ってもいいですか?」

「いいよ、もう手紙は読んだしね」

 幌が開けられ、4人の少女が入ってきた。

「単刀直入に聞くわ。これからどうするの?」

「簡単だ。裏で偉ぶってる奴らを引っ張り出して、俺自身を取り戻す。その余波で、世界は変わるかもしれないけどな」

「簡単に言うわね……。でもカナ兄らしいわ」

「お前らはどうする? 俺を捨てても良いんだぞ」

「バカげたことを言うな! 我らはすでにお主のバカに付き合うと決めたのじゃ」

「正気か?」

 奏斗はそれぞれの目を見つめた。どの目にも迷いは、ない。

「良いんだな? これから俺がしようとしていることは、お世辞にも正しいとは言い切れない。それでもお前らはついてきてくれるのか?」

「善悪など、誰にも分からん。自分で正しいと思ったことをがむしゃらにすることしかできんのじゃ」

「その上で、私たちはカナ兄についていく。それがたとえ非難の声を浴びせられても、ね」

「……、分かったよ。降参だ、降参。だから、まぁ、なんだ」

「なに?」

「その……、これから、よろしく、頼む……」

 照れくさげな奏斗に少女たちははにかんで、

「そうね。改めてよろしくね、カナ兄」

「今更じゃの」

「恥ずかしがらなくてもいいですよ」

「そんなご主人様も素敵にゃ!!」

 笑いあう少年少女。彼らはひらすら突き進むことを決意した。すべてを明らかにし、自分自身を取り戻すために。その道がいかに険しくとも、終点に破滅が待っていようとも、彼らは進むのを止めようとはしないだろう。


 道標はただ一つ。己の信じる正義のみ。




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