第4章 突然の来店
あの荒れに荒れたカラオケの夜から、数日後のことだ。
僕と直樹、そして岡下の3人は、いつものようにアパレルショップで仕事をしていた。
その店はかなり広く、例えるならテニスコート2面分ほどもある、大型店舗だった。
すると突然、自動ドアが開き、女の子3人組が店に入ってきた。
「へぇ〜、こんな大きい店やったんやぁ〜」
周囲を珍しそうに見渡しながら、先頭を切って入ってきたのは美咲だった。
なんと、あの夜の3人が、いきなり店に遊びに来てくれたのだ。
予期せぬサプライズに、僕ら3人は一瞬フリーズし、同時に心の中で叫んだ。
(……可愛すぎるやんけ!!)
店に入った3人は、それぞれバラバラになって洋服や雑貨を見始めた。
私服姿で広い店内を歩き回る3人は、どこからどう見ても目立ちまくっていた。
そんな僕らバカ3人組が、口を半開きにしてニヤニヤと3人を眺めていると、背後から雷のような声が飛んできた。
「あんたら! アホみたいな顔して見てんと、接客してこい!」
一喝してきたのは、直樹の親戚のお姉ちゃん——店のみんなから「ねえやん」と呼ばれている女性スタッフだった。
ねえやんには、カラオケの夜の出来事をすべて話していた。だから、一目でピンと来たのだろう。
気を利かせて、僕らの背中を押してくれたのだ。
……と、そのときの僕は思っていた。
僕らは二手に分かれて動き出した。
僕はなんとなくさくらちゃんの元へ。直樹は由奈ちゃんの元へ。
そして岡下は……ねえやんに首根っこをつかまれ、「お前はレジで待て!」と命令され、足止めを食らっていた。
僕はさくらちゃんに歩み寄り、いつもの軽口を叩いた。
「さくらちゃん、今日もかわいいね〜」
「本気でそれ思ってる?」
「マジマジ! 大真面目!」
「じゃあ、どこが可愛いの?」
突っ込まれた。
ここはボケるべきか、それとも真面目に答えるべきか。
僕が頭を高速回転させ、
「そりゃ!……」
と渾身のボケをかまそうとした、まさにその瞬間——
「さくらちゃ〜〜ん!!」
制止を振り切った岡下の野郎が、空気を読まずに割り込んできやがったのだ。
せっかくのタイミングが台無しである。
「おいねえやん! 猿を放し飼いにすんなよ!」
僕が叫ぶと、飛んできたねえやんによって、岡下は再びレジへと強制送還されていった。
だが、もうボケる空気は完全に過ぎ去ってしまった。
僕は気持ちを切り替え、近くにあった服を手に取った。
「ほら! このミニスカートなんかさくらちゃんにぴったり! 履かせてあげようか? なんなら、事務所で」
「ええわ(笑)」
さくらちゃんは呆れながらも笑ってくれた。
「でもほんま、スタイルええから何でも似合いそう! ミニスカ!」
「それって、ミニスカ姿見たいだけやん! 脚見たいだけやろ!」
バシッとお叱りを受けながらも、そんな冗談を言い合う時間は最高に楽しかった。
由奈ちゃんや美咲とも軽口を叩き合いながら接客をし、気づけば1時間ほどが楽しく過ぎていた。
やがて3人はそれぞれ商品を選び、レジへとやってきた。
さくらちゃんはセーター、由奈ちゃんはパンツ。そして美咲はネックレスを持っていた。
僕は、さっきのミニスカートを大事そうに握りしめ、3人に差し出した。
「こちらもいかがですか?」
見事なまでの素無視。
すかさず横から岡下が、
「無料で差し上げます!」
と調子のいいことを言った瞬間、ねえやんの容赦ない蹴りが岡下のケツに炸裂した。
さらに仕上げとばかりに、直樹が、
「合計100円になります」
とおちゃらけたところ、ねえやんに首を絞められて撃沈していた。そんな後景を見ていた3人はクスクス笑っていた。みんな可愛かった。
そんなこんなで買い物を終え、僕らはねえやんを除いて、みんなで店の外までお見送りに出た。
「今日はありがとうね!」
僕が声をかけると、遅れて岡下も、
「#$)&’%%」
と意味不明な奇声を発していた。
きっと「ありがとう」と言いたかったのだろう。
3人は察してくれたようで、大きく手を振り、由奈ちゃんの車に乗り込んで店を後にした。
3人が去った後、店に戻った僕らを待っていたのは、ねえやんのニヤニヤ顔だった。
「で? 誰が誰狙ってんの?」
「美咲って子、めちゃめちゃ可愛いやん! っていうか綺麗!」
「誰狙い? 誰狙いなん?」
身を乗り出し、楽しそうに質問攻めにしてくるねえやん。
僕らが真面目に答えていると、ねえやんは最後に満足そうな顔でこう言い放った。
「まぁ、あんたらには無理やけどな!」
そう言い残し、ねえやんは優雅に休憩へと入っていった。
……なんなんそれ。
ただ最後に「無理やけどな!」って言いたかっただけやん。
僕も直樹も岡下も、心の中で同時に突っ込んでいたはずだ。
後から岡下に聞いた話では、最初にレジで「待て」を言い渡されたとき、ねえやんは無言でニヤリと笑っていたらしい。
最初から僕らをからかう気満々だったのだ。
「気を利かせて僕らの背中を押してくれたのだ」と思っていた僕の考えは、甘かった。
だが、ねえやんのその言葉が、僕と直樹の男のプライドに火をつけることになろうとは——。
このときのねえやんも、知る由はなかった。




