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完結済『あの時のように~いつまでも変わらない愛を~』  作者: かわなかいっぱん


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第38章 真夏の沖縄

空港の自動ドアが開いた瞬間、ぶわっと肌に押し寄せてきたのは、今まで体感したことのない強烈な熱気と、南国特有の濃厚な湿気だった。

頭上には、眩しすぎるほどの太陽。雲ひとつない青空が、どこまでも広がっている。

空気の中には、どこか甘いハイビスカスの香りと、遠くから漂う潮の匂い、そして強烈な日差しに温められたアスファルトの熱が混ざり合っていた。

シーサーの置物が並ぶ通りを通り抜けると、鮮やかな蘭の花々に彩られたシーサー像が出迎えてくれた。ハイビスカス柄のシャツを着た空港職員の姿や、あちこちに見える「めんそーれ」の文字。

そう、僕たちは今、真夏の8月、沖縄の那覇空港に降り立ったのだ。

3泊4日の沖縄旅行である。

じわっと汗ばむ額を拭いながら深呼吸をすると、南国の風が鼻をくすぐった。大阪の蒸し暑さとはまた違う、どこか開放的で、旅の高揚感を否応なしにかき立てる、本物の「夏の空気」がそこにはあった。

滑走路の向こうには、太陽の光を反射してエメラルドグリーンにきらめく美しい海が広がっている。

「うわぁぁぁぁっ! めっちゃ暑い!! でも、すごい!!」

一歩外に出た瞬間、真っ先に声を上げたのは美咲だった。

美咲とは、もう5度くらい沖縄に来ている。石垣島、波照間島、宮古島、もちろん沖縄本島にも。

二人で来た旅行には、二人だけの楽しさがあった。どれも最高に楽しい思い出だ。

初めて沖縄に来たのは、本島だった。

そのときは不埒にも大奮発して、「ホテルカヌチャベイリゾート」というホテルに泊まった。

広大な敷地に大型の宿泊施設が何棟も並び、その周囲には、海沿いに大きなコテージが何十棟も建ち並んでいた。僕たち二人は、その中でも高い方のコテージで3泊4日を過ごした。

なんだか、もう遠い日のことのように感じる。

あのときは旅行中に喧嘩をしたり、かと思えば思いっきり楽しんだり……。

そんな旅行中にも、忘れられない出来事があった。

沖縄の夜道を、ホテルに向かってレンタカーで走っていたときのことだ。

美咲が、

「お腹すいたね〜」

と言ってきた。

そういえば、観光に夢中になりすぎて、食べるものもろくに食べていなかった。しかも、沖縄でしか味わえないものばかり食べていた。

しばらくすると、美咲が疲れたのか、元気のない声で言った。

「ピザ食べたい……」

僕も疲れてはいたが、元気を出して答えた。

「ピザ! いいねぇ〜! ピザいこ〜〜!」

すると美咲は、少し不安そうに言った。

「でも……こんなところにピザなんてある?」

確かに、今走っているのは国道で、交通量も多く、少し混み気味だった。

この時代、辛うじてカーナビはあったものの、店を探すような機能はまだなかった。検索できるのは、代表的な場所や公共施設などが中心だった。

しかし、そのとき、僕の探偵時代に培った場所を探し当てる能力が発揮された。

美咲に向かって、僕は自信ありげに言った。

「大丈夫! なんとなく……なんとなくやけど……わかった気が……」

「何が?」

美咲が聞いてきた。

僕は説明を始めた。

「この国道の、ここから信号3つ目のところを左折して、2つ目の角を右折。で……そこから2つ目の交差点を左折……して、しばらく行ったら右? 左? どっちかにある予感!」

すると美咲は、

「まじ! まぁダー何でもできるし、とりあえず試してみよか!」

と、楽しそうに話に乗ってきた。少しは元気を取り戻したようだった。

もちろん、僕自身に自信や確信があったわけではない。なぜそんなことが頭に浮かんだのか、自分でもまったく分からなかった。

ただ、昔からたまに、「ここに、これがあったらいいな」と思いながら歩いていると、本当にそれを見つけることがあった。

今回も、それに似たような感覚が働いたのだ。

レンタカーを走らせ、思いどおりに曲がっていく。

3つ目の信号を左折すると、それまでの国道のにぎやかさが嘘のように消え、対向車線が一車線ずつの、少し細い道に出た。

街灯の間隔が急に広くなり、車内ではメーターパネルの青白い光だけが、僕たちの顔を照らしていた。

「……ほんまに、こんなとこにあるん……?」

美咲の声から、さっきまでのノリのよさが消えていた。車内の空気が一気に張り詰める。

「黙って見とけ。次は2つ目の角を右折や」

ハンドルを右に切ると、道はさらに細くなった。

両脇には、閉まりきった古い商店のシャッターが暗闇の中に壁のように立ちはだかっている。街灯がぽつぽつと光るだけで、人影はおろか、動くものの気配すらない。

完全に迷い込んでしまったかのような錯覚に襲われた。

「ダー……ここ、ヤバない? 戻らへん……?」

「大丈夫や。信じろ」

強がってはいたものの、僕の心臓もドックンドックンと嫌な音を立てていた。

自分でも、なぜこんなルートを口にしたのか分からない。

もし何もなかったら……。空腹で限界の美咲に激怒されるどころか、この深夜の沖縄の街中で途方に暮れることになる。

冷や汗が背中を伝った。

そして、運命の2つ目の交差点に差しかかった。

その道は、こちら側から見ると一方通行だった。

予想では、この道沿いのどこかにあるはず……。

車内の空気は、完全に張り詰めていた。

美咲は生唾を飲み込み、息をのんで真剣なまなざしで身を乗り出し、左右をキョロキョロと見回している。

その道路は人通りも少なく、店もところどころ閉まりかけていた。

「ハァ……ハァ……」

美咲の緊張した浅い呼吸音だけが、静まり返った車内に響く。

10メートル、20メートル……。

ゆっくり車を進めるたびに、絶望感がじわじわと胸を締めつけてくる。

やっぱり、僕の勘違いだったのか……。

そう思いかけた、そのときだった。

100メートルほど先、右側に、なんと見覚えのある電飾看板が見えた!

僕たち二人は、

「まじ!!!」

と顔を見合わせ、その店の前に車を止めた。

なんと……明らかに大手チェーン店のピザ屋だった。

看板には「お持ち帰りは割引サービス!」と書かれている。店の前には、配達用のバイクが4台ほど止まっていた。

僕は思わず声を上げた。

「まじかよ……あった……」

美咲も、

「まじで? なんで? 知ってたん? なんなん!」

と、テンションMAXになっていた。

一番びっくりしているのは僕だ!

当然、こんなところにピザ屋があることなど知らなかった。ただ……頭に浮かんだとおりにレンタカーを走らせただけなのだ。

美咲は僕を見て、驚いた顔で言った。

「ダー……まじヤバい! 超能力や……」

まあ、何にせよ、ピザ屋が見つかった。

僕たちはおどきながらも、持ち帰りでピザを買い、コテージに戻った。そして、熱々のピザを2枚、二人で食べ漁ったことを、今でもはっきりと覚えている。

ほかにも、朝食バイキングが最高だったことを覚えている。

朝食のとき、某テレビ局のアナウンサー、○○さんが家族連れで食事をしているのを見かけた。

プライベートなので、あえて声はかけなかった。僕と美咲は小さな声で、

「あれ! あのアナウンサーやんな?」

と言いながら、その横を素通りした。

その後、朝食バイキングの入り口に大きなシーサーが飾られているのを見つけた美咲は、なんと、それにまたがって、

「写真撮って〜!」

と言ってきた。

僕はデジカメで写真を撮ってあげた。

レストランに入っていく人たちは、その姿を見て「くすっ」と笑いながら通り過ぎていく。

そりゃそうだろう。こんな朝っぱらからシーサーにまたがって写真を撮る人も珍しい。

それに、美咲の可愛さに目を引かれた人もいたのかもしれない。

そのあとは二人でテニスをしたり、ホテル内の施設を満喫したりした。

意外だったのは、美咲がテニスがうまかったことだ。以前、習っていたらしい。

一方、僕はテニスをするのが初めてで、ボールがまっすぐ飛ばなかった。

テニスって、こんなに難しいのか……。

そう思いながらも、美咲先生に手ほどきを受け、終わるころには僕の方がうまくなっていた(笑)。

あのときの悔しそうな美咲の顔は、今でも覚えている。

ほかにも、サトウキビ畑での出来事があった。

サトウキビの製造工程を見学しに行ったはずなのに、何を思ったのか、美咲は無理やり製造現場に乱入。そこで働いていたおじさんと仲良くなり、最終的には自分まで製造作業をしていた……。

そんな思い出がいっぱい詰まった沖縄に、今回は、りなとけんじも一緒に来た。

4人での旅行だ。

麦わら帽子を押さえながら、眩しそうに空を見上げている美咲。

「うわ、マジで空気からして全然ちゃうやん! 空の青さがヤバいって!」

その横では、りながサングラスを頭に引っ掛け、大はしゃぎでカメラを構えていた。

「ほんまやな……。これが沖縄か……」

けんじは大きなボストンバッグを肩に担ぎ直し、圧倒されたように周囲を見回している。

「よし、全員揃ったな! まずはレンタカー借りに行って、まずホテルかうぞ!」

僕がそう声をかけると、

「オーー!!」

と、3人の威勢のいい歓声が沖縄の青空へと爽快に響き渡った。

レンタカーの手続きを終え、指定されたミニバンに乗り込む。

僕が、

「誰が運転したい? したい人〜いる〜?」

と聞くと、3人ともスッと目をそらした。

何やこいつら! 運転する気なしか!

仕方なく、僕は運転席に乗り込んだ。

それを見た3人は、「よっし!」とでも言いたげな顔を見合わせている。その間に、けんじがみんなの荷物をトランクに積み込んでいた。

助手席にけんじが座り、

「いきますか……。いざ! 沖縄の街へ!!」

と宣言すると、後部座席のりなと美咲が、

「イケイケ〜! ゴーゴー!」

と、ハイテンションで声を上げた。

エンジンをかけると、冷房の涼しい風とともに、南国独特の空気が車内に満ちていく。

レンタカー店を出て、58号線バイパスへと車を滑り出させた。

車窓の外に広がるのは、どこまでも透明で眩しい沖縄の景色だった。

直射日光に照らされてギラギラと輝くアスファルト。その向こうには、コバルトブルーからエメラルドグリーンへとグラデーションを描く大海原が広がっている。

道路沿いには鮮やかなピンク色のハイビスカスやブーゲンビリアが咲き誇り、青々と茂るヤシの木が、南国特有の潮風に大きく揺れていた。

時折すれ違う「Yナンバー」のアメリカ軍関係者の車や、英語の看板が並ぶ街並みが、異国情緒をさらにかき立てる。

「うわぁぁぁ! 海めっちゃ綺麗!! やばいって、これ!」

後ろの席では、りなが窓に張り付くようにして大はしゃぎし、デジカメのシャッターをパシャパシャと切りまくっている。

「ほんまやなぁ! ダー、ちょっと窓開けて〜!」

美咲に言われ、窓を少し下げると、ぬるい潮風と夏の熱気が一気に車内へとなだれ込んできた。

後部座席から漂う甘いシャンプーの香りと、潮風が混ざり合う。

「けんじ、お前、助手席でナビ頼むで!」

「おう、任せて。でも、あのホテルやったらナビで検索できそう……」

けんじはカーナビを操作し始めた。

どうやら最新のナビだったようで、無事に目的地を検索し、ルートを設定できたらしい。

「あとはよろしく」

けんじはそう言うと、助手席から外を眺め始めた。

僕は、少し不安になって聞いた。

「ほんま、このナビ大丈夫なん?」

「うん。『カロッツェリア』って書いてるから大丈夫やで」

けんじは一言、そう答えた。

こいつ……なんでそんなにカロッツェリアに全幅の信頼を置いているのか……意味が分からない。

「まあ、ナビどおりに行ったら着くやろ〜! テンション上がってきた〜〜!」

後ろから美咲が叫んだ。

ワイワイと騒ぎながら国道を北上すること約1時間。

小高い丘を抜けた先に、今日から宿泊するホテルが見えてきた。

広大な敷地にそびえ立つ、白を基調とした巨大なリゾートホテル。中央には南国の木々に囲まれた大きなガーデンプールが広がり、太陽の光を浴びて水面がキラキラときらめいている。

りなが目を見張った。

「うわっ……ここ、めっちゃ凄くない!?」

けんじも大興奮だ。

「プールでかっ!! 部屋行く前に泳ぎたいレベルやん!」

フロントでチェックインを済ませ、キーを受け取ってエレベーターで上の階へ向かった。

長い廊下を歩き、指定された客室の重厚なドアを開ける。

「うわぁぁぁぁっ……めちゃくちゃキレイ!!」

一歩足を踏み入れた瞬間、洗練された高級感のある空間が広がっていた。

玄関を入ってすぐのエリアには、左側にゆったりとした広さのお風呂、その右隣には独立したトイレが配置されている。

さらに奥へ進むと、右側の壁際にはミニキッチンやクローゼット、ちょっとした棚がきれいに並んで備え付けられていた。

そして、その先にメインの居住スペースが広がっていた。

長方形の広々とした部屋の奥に向かって、左右にベッドが配置されている。手前側には左右にツインベッドが1台ずつ向かい合うように置かれ、さらに奥のバルコニーの手前にも、同じように左右対称にベッドがもう1台ずつ配置されていた。

つまり、部屋の四隅に1台ずつ、合計4台のベッドがゆったりと置かれている、贅沢なレイアウトだった。

「すごーい! ベッドが4つもあるのに、めっちゃ広々してて全然窮屈じゃない!」

「ほんまやな、めっちゃリゾート感あってテンション上がるわ!」

部屋の一番奥にある、大きなガラス張りのバルコニーのドアを開ける。

目の前には、視界を遮るもののない青い海が一面に広がっていた。心地よい潮風が、四人の頬を優しく撫でていく。

「やば……最高すぎるやん、この部屋……!」

けんじもりなも、その豪華さと素晴らしいロケーションに言葉を失っていた。

「よし! とりあえず荷物置いて、着替えてプール行くか!!」

僕が声をかけると、美咲とりなは、

「行くーー!!」

と声をそろえて歓声を上げ、さっそく自分の荷物をそれぞれのベッドの上に広げ始めた。

僕とけんじは、その場で着替え始めた。

一方、りなと美咲は、

「着替えてくるな〜」

と言って、浴室の中へ入っていった。

僕はTシャツを脱ぎながら、けんじに素朴な疑問をぶつけてみた。

「お前ら、どうなん? りなと付き合ってんの?」

すると、けんじはズボンを脱ぎかけたまま答えた。

「ん……どうなんやろ……。よくわからんなぁ〜。好きでも嫌いでもないしなぁ〜、ん〜」

まるで他人事のような言い方だった。

でも、まあ、僕も一回関係を持っただけで、絶対に彼女だということは今までなかったしな……。

もし、それが毎回成立していたら、恐ろしいことになっている。

僕はすでに着替えを終え、ベッドの上でゴロゴロと寝転がっていた。

ふと見ると、けんじが持ってきたビーチボールを必死に口で膨らませている。

こいつ……こういう遊びの準備だけは早いな……。

そう思って見ていると、膨らませ終わったビーチボールが、いきなり僕に向かって飛んできた。

僕は咄嗟にそれを叩き返した。

けんじも向かいのベッドに腰掛け、

「これ、トスし合って落とした方が負けな!」

と言ってきた。

僕も体を起こし、ベッドの上で膝をついて身構えた。

そこから、僕とけんじのガチンコラリーが始まった。

お互いにベッドのギリギリ、きわどいところを狙い、相手の姿勢を崩そうと必死で打ち合う。

「ドサッ!」

けんじが姿勢を崩してベッドから転げ落ちながらも、なんとか腕を伸ばしてボールを返してきた。

だが、時すでに遅し!

僕が返したボールは、誰もいなくなったけんじのベッドの上で、ポコンと転がっていた。

僕は、

「おっし! これでジュース一杯おごりやで!」

と叫んだ。

「あ〜、マジで……。今からの勝負にしよや〜」

けんじは往生際悪く言ってくる。

僕が、

「あかん! 負けは負けや!」

と言い終わるか終わらないかのタイミングで、不意打ちのボールが飛んできた!

「汚ねぇ〜、こいつ!」

そう叫びながら、僕はベッドの上で意地のスライディングレシーブ!

なんとかボールを返せたものの、体勢を崩してベッドから転げ落ち、元の位置に戻ることができなかった。

これで一勝一敗。

ちょうどそのタイミングで、浴室のドアが開き、水着に着替えた二人が出てきた。

美咲が、

「お待たせ〜! 何してんの? 男二人でワイワイ騒いでんの??」

と聞いてきた。

僕はベッドから起き上がりながら、

「男の真剣勝負や! 女ごときには関係ない!」

と言い放ってやった。

美咲は、全身から「そんなんどうでもええわ!」という雰囲気を漂わせながら、

「行くで〜! ぷ〜〜る!」

と声を弾ませた。

こうして僕たちは、みんなでホテル内のプールへと向かった。



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