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ここにいても、いいですか?  作者: 香田紗季


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天狗7

読みに来てくださってありがとうございます。

短いです。

よろしくお願いいたします。

 太王太后は、ここの所イライラするのを止められなかった。


「お前が処分したはずの、お前の夫の隠し子は生きていたようだぞ」


 天狗にそう言われた時、太王太后は「嘘じゃ!」と叫んだ。


「あの時、血染めの衣を持って帰って来たのに?」

「息の根を止めたのは、母親の方だけ。子どもの衣に母親の血をつけて、証拠として持ち帰って来たんだ」

「あやつら、わらわをたばかったのか!」

「もうカリカリするな。闇に紛れている者の生きる時間は、蜉蝣のように短いものなのだ」

「だからって」

「死者の体でも掘り起こすのか?」

「それは嫌じゃ」


 いつからだろう、天狗は太王太后の傍にいた。そして、太王太后の望みをかなえてくれた。


 今の国王の父である亡き王太子は、自分が産んだ子ではなかった。姫宮二人しか産めなかったと父に申し訳なく思った太王太后は、血のつながらぬ息子に年の離れた自分の妹を添臥しとしてあてがった。間に、黒藤の血を引く王子が生まれればよかったのだ。


 だが、その息子は別の家の娘を寵愛した。年の離れた妹は、娘よりわずかに年上なだけ。かわいい妹だった。


 だから、妹が嘆き悲しむのを、見ていられなかった。


 息子と寵姫の間に今の国王が生まれた時、太王太后は寵姫を自然に見える形で始末するよう、天狗に頼んだ。天狗は実に素晴らしい仕事をした。先王が誰よりも愛した、憎き東豎子(あずまわらわ)とその子どもの始末も天狗に任せればよかったとつくづく思う。


「して、天狗様ともあろう方が、なぜわらわの願いを叶えてくださるのか?」

「面白そうだからだよ」


 天狗はにたり、と笑った。


「人が恨み、憎み、狂う様を見ると、愉快だと思うのだ」

「わらわを見て笑うとは、ひどい御方じゃ」

「違うよ。たくさんの人が巻き込まれていく様が楽しいんじゃないか」

「それはそれで、悪いお方じゃ」


 ハハハ、ホホホと笑い合う。太王太后の笑顔など、見たことがある者はほとんどいないだろう。


「では、計画の通りに」

「はい」


 天狗は庇に置かれた几帳越しに話し合っていた太王太后にそう言うと、立ち上がった。そして、翼を広げると空に飛びあがった。


「わらわも空を飛んでみたいものじゃ」というつぶやきが聞こえたが、聞こえぬふりで空高く飛び上がる。


 誰がお前なぞと一緒に飛ぶものか。お前が飛ぶときは、魂がその肉体から離れたときだ。


 天狗の目の端に何かが映ったような気がして、天狗はそちらに目をこらした。だが、見つけられなかった。それ以上気にすることもなく、天狗は巣穴の木の洞へと飛んでいった。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「あれが天狗か」


 妖術をはねのけるという、陰陽寮力作の特別な布を体に巻き付けて様子をうかがっていた黒鉄隊の隊員たちは、大河童や妖狐よりも強い妖力に中てられぬように気を精一杯張っていた。中の声は聞こえないが、太王太后が天狗と接点を持つことは確認できた。


「あとは、何を話し合っているか、内容が分かるといいんだがなあ。陰陽師あたりが何かそういう技を持っていないのだろうか」


 伊吹はぼそりとつぶやいた。黒鉄隊の隊員たちは、静かに撤収していった。月のない、冬の足音が聞こえるような夜だ。 


読んでくださってありがとうございました。

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