水の妖怪5
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数体ではなく何十体もの河童が出て来たことで、黒松と先程の隊員が駆け付けた。他の隊員たちも、数歩、前に出ている。
「これまでに、河童と対峙したことはありますか?」
沙羅の問いかけに、黒松は「ある」と言った。
「隊長になってから、脅して川に帰ってもらったことはある。これまでの記録でも、いわゆる討伐という状況ではなかったと聞いている」
「そうですか。多少もめるかもしれませんね。少し下がっていてください」
「だが、危険だ」
「ならば、どなたか一人、来ますか?」
「私が行く」
「なりません!」
黒松を、伊吹が制した。
「隊長の御身に何かあったら、陛下に」
「伊吹。これは任務だ。もし私の身に何かあった場合は、伊吹が指揮を取れ。大切な巫を守らねば、それこそ陛下からお叱りを受けることになるだろう」
「ですが」
「くどい」
黒松の声に、伊吹が引き下がった。
「基本的には手を出すな。神殺しになってはならない。もし神殺しの必要があるのなら、それは私一人で背負う」
「一人で背負わなくていいんです」
剣呑な黒松と伊吹に、沙羅は言った。
「私がうまくやればいいんです」
川幅の中ほどまで来たところで、河童たちは動きを止めた。
「我を呼び出したのは、誰ぞ」
ひときわ大きな河童が声をあげたが、意味を成した言葉としては聞こえない。黒松たちには音さえ伝わっていないらしい。
「何をおっしゃっているのかは分かりませんが、きゅうりは私がお供えしました」
沙羅は声を張り上げた。そして「証拠はこれです」と言うと、竹笊の中身が河童たちから見えるように傾けた。
一匹の小河童が、きゅうりを取ろうと走り寄った。
「待て!」
大河童が叫んだが、小河童は既にきゅうりをつかんでいた……きゅうりの端には、沙羅の手がある。
「ヨコセ!」
小河童に、沙羅はきゅうりを介して心に直接話しかけた。
『あなた方の頭領に、直接話がしたいと伝えて』
「ナンデ、言葉ワカル?」
『それはね、私が鬼族だから』
小河童は雷に打たれたかのように「ギャー!」と叫ぶと、大河童の元に走った。
「頭領、アレ、鬼ダ!」
鬼という言葉に、大河童は反応した。
「鬼だと? まさか角無しか?」
大河童は沙羅の前に飛んだ。やめろ、と黒松が言ったが、大丈夫、と言って制止する。沙羅はきゅうりを差し出した。大河童は理解したようで、その端を握った。
「角無しの鬼が人間の巫の格好をして、一体何の用なのだ?」
沙羅は大河童の目を見据えて言った。
「そちらに、ルサールカがいると思うのですが」
「ああ、あの流れて来た女か」
「はい。彼女を元の世界に戻すことはできるのでしょうか?」
「できない」
大河童は即座に断言した。
「立夏の日に、辰巳の門が開く。水と一緒に流れてくるものはあるが、その水の流れが激しすぎるために戻ることは叶わぬ」
「そうですか。ルサールカは今、どこに?」
「人間よりも、我ら水神の一族と共にあった方が、あれも戸惑いは少ないだろう。あの髪の色は目立つ。この国の者にはない、緑色の髪をしているから。この国の者は、見慣れぬものを恐れ、遠巻きにする。陸に上がって苦しんだものを知っている。だから、あれは我らが保護する」
「ルサールカは、それを望んでいるのですか?」
「帰れないことは、理解したようだ。だが、まだこれから先どうするか考えたいと言っている」
「会わせてもらえませんか?」
「なぜ、お前がルサールカを気に掛ける?」
「あなた様が気づかれた通り、私は角無しの鬼です。鬼はこの世界ではなく、鬼族の里がある別の世界から来たものだということは、あなた様ならわかるはず」
「お前はルサールカを憐れんでいるのか?」
「望まぬ形でこの世界に来てしまったのなら。私自身も、自ら望んできたわけではありません。ですが、この世界に来たことで、私は新しい自分になりました。ルサールカにも、道があることを知らせたいのです」
「本人に確認しよう」
「もう一つ、お尋ねしたいことがございます」
「なんだ?」
「あなた様が、本来の水神の姿に戻るために、何が必要なのでしょうか?」
大河童の目が突然カッと見開かれた。
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