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突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


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333 帝都陥落②それが流儀


「ウソ。なに、これ……」


 いつの間にか隣に来ていたクラリスが、窓の外を見つめて固まっていた。


 夜空が、毒々しい赤黒さに染まっている。

 遠くから断続的に響く重低音。風に乗って運ばれてくる、微かな悲鳴と焦げた臭い。

 間違いなく、帝都全土が戦火に包まれている。


 俺は彼女の両肩を掴み、真っ直ぐに目を見た。


「いいか、クラリス。まず皆を叩き起こせ。ここに集めて、すぐ戦えるように完全武装させろ」


 クラリスは弾かれたように我に返り、こくこくと首を縦に振る。


「ホッジには、この部屋をベースにして通信網を構築するよう伝えてくれ」

「……義兄さんは?」

「俺は、少し外の様子を見てくる」


 踵を返し、部屋へ取って返す。

 急いで隊服を羽織り、腰に剣を差した。


 ドアノブに手をかけた瞬間。

 背後から、服の裾を強く引かれた。


「一人じゃダメ! もう、一人でどっか行こうとしないで!」


 すがるような、悲痛な叫び。

 クラリスの手は震え、俺の服を固く握りしめて離さない。

 さっきの言葉がよぎる。


 ――みんな、不安だったんだよ。


「大丈夫。私も行くから」


 隣の扉が開き、アリスが出てきた。

 すでに制服へ着替え、戦闘準備は完璧だ。

 その後ろから「なんか起こったんですかぁ〜」と、相変わらず情けないアネモネの声が漏れている。


「俺も行くっす!」


 廊下の奥からトビーが駆け寄ってくる。その後ろには、ホッジやジンクス、ゾイドの姿もあった。


「丁度良かった。ホッジ――」

「わかってます。ベースはこの部屋でいいんですね?」


 俺の言葉を先回りし、ホッジが即答する。


「ジンクス、ゾイドも頼む」


 それぞれが頷き、散らばっていく。


「頼んだぞ」


 阿吽の呼吸。

 まったく、最高にやりやすい連中だ。


「大丈夫よ、クラリス。こいつの背中は私が請け負うわ」


 アリスが、俺を掴むクラリスの手にそっと自分の手を重ねた。


「急ぎましょ。ここで何が起こっているのか、すぐに見極める必要があるわ」

「そうだな。行くぞ」

「うッス!」


 俺たちは、ホテルを飛び出した。


▽▽▽


 幸か不幸か、ホテルの周辺に火の手は上がっていなかった。

 俺たちはそのまま、炎の上がる王城の方角へ向かって夜の街を駆ける。

 頭上を巨大な火球が飛び交い、遠くの街区で爆発が起きるたび、地面が微かに揺れた。


「なーんも起こってないっすね」

「甘いわよ」


 呑気なトビーの言葉を、アリスが即座に切り捨てる。


「さっきから、腐臭でくらくらするくらいよ」

「……いたぞ」


 大通りの先。

 街灯の薄明かりの中に、不気味な影の群れが浮かび上がった。

 大通りの幅いっぱいに広がり、うめき声を上げながらよたよたと歩いてくる。


 ――『抜け殻』だ。


「とりあえず、『裏返り』じゃなくてよかったっすね」


 トビーが安堵の息を漏らす。


「どうしますか?」


 言いながら、すでに彼は剣を抜いていた。

 胸糞が悪い。

 こいつらだって元は、自分の精霊を討たれた弱き立場の人間たちだ。だからこそ、一秒でも早く解放してやらなきゃいけない。


「残していくと、後から住民に被害が出る。一掃しながら進むぞ!」


 俺は深く腰を落とし、石畳の地面に両手を叩きつけた。


「動きを止めるッ!」


 叫ぶと同時、限界まで練り上げた魔力を一気に流し込む。

 広範囲制圧の雷撃――『ヴォルト・クラッシュ改・サンダーロード』。


 バチィィィィンッ!!


 石畳を伝い、青白い閃光が放射状に弾け飛んだ。

 強烈な電圧の網が抜け殻の群れを呑み込み、急激なショートで奴らの動きが完全に止まる。


 その硬直した群れの隙間を、影が縫うように走り抜けた。

 トビーだ。


 ザシュッ! ザシュッ!


 無駄のない神速の刃が閃くたび、奴らの首がポロポロと宙を舞う。

 地味にキモい。


「さ、行くよ」


 アリスが俺の肩を叩き、立ち上がらせた。

 前方を見据え、鋭い視線を細める。


「こいつら、こんな街のど真ん中に、急に湧いて出てくるわけないもんね」


 その通りだ。

 こいつらを街へ運び込んだ『何か』が、必ずいる。

 視線の先で、王城が闇夜の中で炎を纏って燃え上がっている。

 まるで世界の終わりを告げるような、酷たらしくも美しい光景。


「……シュールだ」

「なんて?」

「なんでもない。行くぞ」


 やる気マックスで剣を振るうトビーの背を追って、俺たちはさらに奥へと踏み込んだ。


▽▽▽


 煙を上げる城壁。

 俺たちは広場へ続く大通りの角、崩れかけたビルの陰に身を潜めた。


 城門は固く閉ざされている。

 そして眼前の広場は、凄まじい数の抜け殻たちで埋め尽くされていた。


「いやー、流石に真正面から全部相手にするのはキツいっすねー」


 壁からそっと顔を出し、トビーが舌を巻く。


「コール、どうする?」


 背後から、珍しくアリスが聞いてきた。

 俺は一瞬だけ目を見開く。


「……あんたが指示出さないと、落ち着かないのよ」


 ぽつりと、アリスが続けた。


「前はさ。正直、なんでこんなのが隊長なのよって思ってた」

「ひどいな」

「うるさい」


 暗がりの中、彼女の言葉だけが静かに響く。


「だけど――あんたがいなくなって」


 視線が、わずかに揺れる。


「カルア、壊れかけてた」


 短い言葉。けれど、重い。


「クラリスも無理してた。私も……まあ、似たようなもん」


 アリスは自嘲気味に笑う。らしくない顔だった。


「でさ、気づいたのよ。“誰も前に出れなくなってた”って」

「…………」

「強いとか、弱いとかじゃないのよ。判断が……できなくなってた」


 弾丸のような言葉。だからこそ、深く刺さる。


「だから思った。『コールならどうしてた?』って」


 アリスが、一歩近づく。その目は、まっすぐだった。


「……何もできなかった。ほんと、ムカつくくらいに。で、やっとわかった。私たち、あんたに――行先を決めてもらってた」


 俺は静かに首を振った。


「違うよ、アリス」


 少しだけ、声を強くする。


「俺は“決めてた”んじゃない。“預けてた”だけだ」


 アリスの眉が、ぴくりと動く。


「お前ら、どうしたいのかってな」

「それ、世間じゃ丸投げって言うのよ」

「そうだな」


 あっさりと肯定する。

 壁越しに、広場を埋める敵の群れを見据えた。


「だから失敗もする。でも、それでいいんだ」


 俺は一歩、暗がりから身を乗り出す。


「その代わり――俺は絶対に逃げない。お前らが出した答えの、先頭を走る」


 アリスが、黙る。

 数秒の沈黙。


「……ほんと、ズルいわね」


 呟いた彼女の顔には、もう何の迷いもなかった。


「それ言われたら、やるしかないじゃない」

「だろ? ――で、トビー! どうしたい!」


 俺が声を張り上げると、壁の端で様子を窺っていたトビーが、嬉しそうに振り返った。


「正面突破っしょ!」

「だよな! 採用!」

「はやっ!?」


 アリスが思いっきりツッコむ。


「ちょっとは考えなさいよ!」

「考えた結果だ」

「絶対ウソでしょ!」

「でもお前も、嫌じゃないだろ?」


 からかうように言うと、アリスは腕を組みながらそっぽを向いた。


「……まあ、嫌いじゃないけど。ほんと、調子狂う」


 口元がわずかに緩んでいるのを見逃さず、俺は笑みを深くした。


「よし。トビー、あの噴水を叩き壊せ!」


 俺はビルの陰から飛び出し、城門手前の巨大な石造りの噴水を指差した。

 トビーが間髪入れず、神速の風刃を放つ。


 ドガァァァンッ!!


 凄まじい音と共に噴水が砕け散る。

 空高く吹き上がった水しぶきが雨のように降り注ぎ、台座から溢れ出した大量の水が広場一面を瞬く間に水浸しにした。


「アリス! トビー! 下がってろ!」


 俺は前へ踏み出し、水をたっぷりと吸った石畳へ愛剣を深々と突き立てる。


「一丁、派手に行くぜ――『ヴォルト・クラッシュ・パルス』!!」


 剣を伝い、莫大な雷撃が解き放たれる。

 濡れた地面を青い閃光が縦横無尽に走り抜け、広場にひしめく抜け殻たちを一網打尽に包み込んだ。


 バヂヂヂヂヂッ!!


 激しい放電と共に、奴らの体から一斉に焦げた煙が上がる。


「行くぞ!」


 地面から剣を引き抜き、駆け出そうとした瞬間。


「コール」


 武器を構え、横に並んだアリスに呼び止められる。

 すでに援護の態勢に入り、鋭い視線を前方へ向けたままだった。

 ほんの一瞬だけ、俺に目を向ける。


「……死んだら、許さないから」

「怖いな」

「マジで言ってる」


 戦火に照らされた横顔は、真剣そのものだった。


「――ちゃんと帰るわよ、隊長」


 命令でも、願いでもない。もっと厄介で、重たい信頼。


「……了解」


 短く返す。それで十分だった。


「トビー、行くぞッ!!」

「アイアイサーッ!!」


 水しぶきを上げながら、麻痺した敵陣のど真ん中へと駆け出す。

 背後から放たれるアリスの鋭角な防護障壁が、先頭を走る俺たちの道を容赦なく切り拓いていく。


 正解なんて知らない。間違ってもいい。

 仲間を信じて、ただ前へ進む。

 

 それが、俺たち『コール隊』の流儀だ!


 

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