表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/339

332 帝都陥落①発火


 ガンガンガンガンガンッ!!


 ──いや、ノックじゃない。これはもう攻城戦だ。


 鼓膜を殴りつけるような連打音で、俺は強制的に現実へと引きずり戻された。


 ここは帝国でも指折りの高級ホテル。

 ふかふかのベッド、上質なシーツ、静寂──のはずだった。


 昨晩、帝都に帰還してそのまま泥のように眠りについた記憶まではある。


 今はどうだ。

 安眠? そんなものは粉々に砕け散っている。


「開けろぉぉぉ!! コール!!」


 ドゴォンッ!!


 ……扉を破る気か。


 半分眠ったまま、毛布を頭から被った。

 聞こえない。俺は聞いてない。ここは天国だ。


「コーーールぅ……ご近所迷惑ニャ……開けにゃしゃい……ヒック」


 アウト。

 ラスクだ。完全に出来上がってる。


「いるのは分かってんだ! さっさと開けろ!!」


 ドスの効いた声。

 ……カルアかよ。お前その声どこで覚えた。


「コール! 頼む! 重いんだって!!」


 ジュリア。唯一の常識人の悲鳴が混じる。


 ──ダメだ。放置すると扉が死ぬ。


「……ちっ」


 観念してベッドから這い出し、ふらつく足で扉へ向かった。

 カチャリとノブを回す。


 ゴォンッ!!!


「ぐぉっ!!?」


 開けた瞬間、振り下ろされた拳が脳天に直撃した。


 視界が白く弾ける。

 星が散る。

 人生が走馬灯しかける。


 膝から崩れ落ちる俺の前に──地獄がいた。


「ニャハハハ! 直撃ニャー!!」


 ラスク。満面の笑み。完全に酔っぱらい。

 しかも背中にはルクスを背負っている。


「もぉ、のんめぇませんよぉ〜……えへへぇ……」


 ルクスは夢の国に片足突っ込んだまま、幸せそうに笑っていた。


「ご、ごめん! ごめんなさい! 重くて! ほんとにごめん!!」


 ジュリアは半泣きで謝りながら、必死に背中の荷物を支えようとしている。


 ──荷物じゃない。

 そこには、完全にスイッチの切れた破壊神が乗っていた。


 カルア。目が据わってる。焦点が迷子。


 ジュリアがよろけた拍子に、カルアの振り下ろした拳が加速して俺に突き刺さったらしい。

 体重+勢い+カルアの怪力。


 ──死ぬわ。


 視線を奥へやると、廊下の柱の陰。

 クラリスが半分だけ顔を出し、両手を合わせて無言で「ごめんなさい」と口パクしていた。


 逃げるな。

 いや、それより──。


「誰だよ!! こんなになるまでカルアに飲ませたのは!!」

「「「「皇帝でーす」」」」


 全員が見事にハモった。


 ……あの人、国を運営していい人種じゃないだろ。


「あとで文句言う……絶対言ってやる……」


 ズキズキ痛む頭を押さえながら、俺はよろよろ立ち上がる。


「とにかく中に入れ。他の客に殺される」


 その瞬間。


「うるちゃい……っ」


 バチィィィンッ!!!


「ぐはぁっ!!?」


 カルアの拳が二発目を叩き込んできた。


 俺の意識は、そのまま深い闇へと沈んでいった。


▽▽▽


 ──どれくらい、経っただろうか。


 部屋の中はすっかり静まり返っていた。


 クラリスが一人一人に水を飲ませ、『ホーリーヒーリング』で酔いを抜いて回った結果──全員、戦死した兵士のように眠りこけている。


 ベッドの上ではカルアがぐっすりと寝息を立てていた。

 その頭を、クラリスが膝枕で優しく支えている。


「……らしくないよね」


 ぽつりと、クラリスが呟いた。


「勧められたからって、あんなになるまで飲むなんて」


 その指先は、静かにカルアの髪を撫でている。


「義兄さんがいなくなって……みんな、不安だったんだよ」


 静かな声だった。


「カルアさんなんて、『十番隊がなくなったらコールが帰ってこれない』って……ずっと無茶してた」


 胸の奥が、きしむ。


 俺はベッドの横に腰を下ろした。

 眠るカルアの顔は、さっきの鬼とは別人みたいに穏やかで──どこか、幼かった。


「……悪かった」


 思わず、そんな言葉がこぼれる。


 すると、寝ているはずのカルアの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


 見られている気がして、俺は苦笑する。


「ふがいない兄貴で悪いな」


 クラリスの頭に軽く手を置く。


「……バカアニキ」


 そっぽを向きながらも、返ってきた声は柔らかかった。


 仲間の寝息が重なる。

 静かな夜。時計の針の音だけが、やけに大きく響いていた。


 俺は小さく息を吐き出す。


 ──平和だ。


 そう、思った。


 グワンッッ!!!


 世界を殴りつけるような爆音が、夜を貫いた。


 空気が歪む。


 ズンッ……!!


 腹の底を這い上がるような重い衝撃が、遅れて押し寄せてきた。


「……なに、今の」

 

 クラリスの手が、ぴたりと止まった。


 俺は反射的に窓へ走り、カーテンを勢いよく引き開けた。


 夜の帝都が、赤く染まっていた。


 窓を押し開け、ベランダへ飛び出す。

 焦げた匂いが、風に乗って流れ込んでくる。


 遠く、南の夜空。

 真っ暗なはずの空間を、猛々しい炎が焼き尽くしていた。


 ただの火事じゃない。


 ドンッ! ドンッ!


 炎の中で、連続して爆発が起きている。

 遅れて聞こえてくる悲鳴。


 地上では人の流れが影のように逃げ惑い、建物の一部が崩れ落ちるのが見えた。


「なんだ……あれは……」


 呆然と呟いた瞬間。


「コール!!」


 隣のベランダ。

 アリス、ツナグ、アネモネに、シリルも立っていた。

 シリルの顔は血の気を失っている。


「あっちは……軍の施設です」


 震える声。


「火薬庫が……あったはず……」


「事故か?」


 俺が言った瞬間。


 ──ドォォォォンッ!!!


 今までとは桁違いの爆発が、夜を引き裂いた。

 衝撃波が空気を押し潰し、ガラスがビリビリと震える。


 炎が、さらに広がる。

 広がりすぎている。


 これは偶然なんかじゃない。


 そのとき。

 アリスが、ゆっくりと別の方向へ視線を向けた。


「……違う」


 地を這うような低い声。


「これ──"始まってる"」


 彼女の視線の先。

 軍施設とは逆方向、帝都の中心。


 夜の闇を力任せに押し退けるように、もう一つの巨大な炎が立ち上がっていた。


 黒煙を吐き出しながら燃え上がるそれは──帝都の象徴。


 『シンバス城』。


 誰の目にも明らかだった。

 これは事故じゃない。


 帝都が、燃えている。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ