330 女子会
「ボノラッテ!!」
ラスクの絶叫が、夜の食堂の空気をビリビリと震わせた。
「うるさい」
向かいの席から、ルールが耳を塞ぎながら気だるげに吐き捨てる。
その冷たい一言で、弾けそうだったテンションが一瞬で日常の温度へと引き戻された。
「……こんな濃い味付けの鳥肉であんなに喜ぶなんて。王国の味覚も大したことないね」
腕を組み、テーブルに並んだ帝国の郷土料理『ボノラッテ』を鼻で笑うルール。
大皿で湯気を立てる鳥の煮込みを前に、辛辣な言葉とは裏腹に、その口元はどこか誇らしげだ。
「えーっ。すっごく美味しいですよ! 王国にもあればいいのに」
クラリスが両手で頬を包み、ホロホロに煮込まれた肉をうっとりと咀嚼しながら反論する。
「そういや」
ルールが、フォークをくわえたクラリスをまじまじと見つめた。
「あんた、あの男の妹なんだって?」
「はい! 義兄さんの、可愛い自慢の妹です!」
クラリスはエッヘンと胸を張る。
「……似てないね」
「血は繋がってませんからー」
クラリスはにこやかに返し、また一口ボノラッテを頬張る。
「で?」
ルールの視線が、隣で優雅にグラスを傾けるカルアへと移った。
「あんたが、皇太子の元婚約者?」
ピタリと、カルアの酒の入ったグラスが止まる。
「……帝国の軍人は、デリカシーってものを持ち合わせていないのかしら」
「義姉さんは、自分から婚約破棄したんですからね! そこ、絶対に間違えないでください!」
カルアが言い返すより早く、クラリスが身を乗り出して力説した。
ルールが「へぇ」と意外そうに目を丸くする。
「分かってて、わざとからかってんのよ。この小生意気な副隊長さんは」
カルアはすまし顔のまま、琥珀色の酒を一口あおった。
「カルアが正妻で、あたいが浮気相手ニャ!」
突然、口の周りを煮汁だらけにしたラスクが胸を張って宣言する。
「……浮気って、あんた。せいぜいペット枠でしょ」
カルアの冷たいツッコミを華麗にスルーし、ラスクは隣のルクスにニヤリと笑いかけた。
「最近は、ルクスもコールにぞっこんニャ!」
ガシッ。
ラスクの皿にあった一番大きな肉の塊が、ルクスのフォークに無慈悲に串刺しにされた。
「――してませんッ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶルクス。
「にゃあああッ! あたいの肉ゥゥ!!」と泣き叫ぶラスク。
そのカオスな光景を前に、ルールは思わず眉間を押さえた。
「おいおい、ちょっと待てよ……」
信じられない、といった目で、目の前の王国女子たちをぐるりと見渡す。
「あの男……そんなに良いか?」
ピタリ。
騒がしかったテーブルの動きが、一斉に止まった。
カルア。クラリス。ルクス。ラスク。
全員の視線が、ルールに突き刺さる。
そして。
「「「「よくない!!」」」」
一寸の狂いもない、見事な四重奏。
「お、おう……」
凄まじい圧に気圧され、ルールは思わず椅子ごと後ろへたじろいだ。
▽▽▽
「あら、もう始まってるの?」
ジュリアが、当然のようにカルアの隣に腰を下ろす。
「来たニャー、喧騒の種!」
「なによー」
ジュリアは勝手にエールの瓶を奪い、自分のグラスに注いだ。
「ツナグは?」
ルクスの問いに、ジュリアはグイッとグラスを呷る。
「アリスさんたちと浴場に行ったわよ。今日はもう疲れたって」
「おまえさー。帝国の特級魔術師だろ? なんで王国軍にいるんだよ」
ルールの突っ込み。
ジュリアはすました顔で答える。
「だって、仕方ないじゃない。コールが『いないと寂しい』っていうんだから」
「……よくもまあ、平然とウソがつけますね」
カルアが冷ややかな声で、隣でグラスを傾ける。
「なんでウソって言えるのかしら?」
ジュリアも負けじと、エールを一息で飲み干す。
「あの唐変木が、そんなこと言うわけありませんから」
カルアが自分のグラスにエールを注ぐ。
「あれで、なかなか可愛いとこもあるのよ?」
ジュリアがその瓶を横取りし、自分のグラスにも注ぎ足した。
バチバチ。
目に見えない火花が、二人の間で激しく散る。
「な、なんか二人の殺気がマシマシなのニャ……」
「これが、大人の女……」
「ルクスちゃん。それ違うと思うよ」
怯えるラスク、謎の感心をするルクス、冷静にツッコミを入れるクラリス。
「いや、だからわかんねーよな。あんな男の、どこが良いんだか」
ルールの呆れたような言葉。
瞬間。
バチバチとやり合っていたカルアとジュリアの動きが、ピタリと止まった。
ルクスとクラリス、そしてラスクの視線も、一斉にルールへと突き刺さる。
「「「「「どこもよくない!!」」」」」
今度は五重奏。
寸分の狂いもない、見事な声の重なりだった。
「お、おう……」
凄まじい圧に、ルールは再び椅子ごと後ろへたじろいだ。




