327 バディ
【視点:グリッド帝国、初代皇帝】
ルールたちが駆けていった直後──。
もう一台の装甲車が、土煙を巻き上げながら目の前に滑り込んできた。
「いやー、もう始まってるよ」
弾けるようにドアが開き、飛び出してきたのはグース。そして、その妹ジュリアだ。
「遅かったじゃないか」
「陛下が早すぎなんですよ」
グースが呆れたように肩をすくめる。
「カルアたちは? コールは?」
私は顎で前方を示した。
「無事に合流した」
「ハリンツ達は?」
「先に行った」
「えー……。あんなバケモノ、コール達に任せときゃいいのに」
「そうもいかん。奴らにも帝国軍としての矜持がある」
「そんなもん……見栄だろ」
グースは頭をわしゃわしゃと乱暴にかきむしる。
そのとき。
「いいのか? お前の妹も行ったぞ」
「へ!?」
グースが慌てて振り返る。
視線の先──銀のロッドを掲げ、一直線に戦場へ飛び込んでいくジュリアの背中があった。
「あのバカ!」
グースも慌ててその跡を追って駆け出す。
「死ぬなよー」
私は小さく笑い、軽く手を振って見送った。
……不思議なものだ。
かつては、命をただの“消耗品”としか見ていなかったこの私が。
今は、ああして駆けていく背中を──祈るように見届けている。
──やれる。こいつらなら。
胸の奥にこびりついていた、過去の罪。
禁忌に手を染め、“死を越える力”を求めた愚かな自分。
「今なら、まだ間に合う」
この命が尽きるまでに。
すべてを、やり直し、次代の若者に繋ぐんだ。
▽▽▽
【視点:コール】
雷撃によって炭化した肉の臭いが、戦場を覆っている。
だが──それだけだ。
巨人の表皮が、気味悪くぬるりと蠢く。
焼け焦げたはずの肉が、何事もなかったかのようにシュルシュルと再生していく。
「……冗談だろ」
思わず呟きが漏れる。
その横を、一陣の風が走った。
ラスクだ。
青銀に輝くブレードクローを振り抜き、巨人の肉を深く切り裂く。
続けて、トビーの風刃が撃ち込まれる。
だが──浅い。
「にゃにゃにゃーッ!」
ラスクが猛然と追撃を叩き込む。
深く裂けた傷口が、瞬時に霜を吹いて凍りついた。
再生を止める──いい動きだ。
だが。
ブォンッ!!
巨人の丸太のような腕が、虫でも払うように無造作に振るわれる。
ラスクは空中で器用に身体をひねり、その腕へふわりと着地。
そのまま太い腕の上を駆け上がる。
一気に首元へ。
──速い。
ザシュッ!
両眼を無残に切り裂く。
巨人が悲痛な絶叫を上げた。
トン、と。ラスクが軽やかに俺の隣へ着地する。
「コール! あいつ倒すのムリにゃ!」
「倒さなくていい!」
即答する。
「『ルーシャル・コード』発動まで、時間を稼げ!」
「アイアイサー!」
ラスクが再び、弾かれたように跳ね上がる。
「隊長ぉー! 増えてますってこれぇ!」
トビーの焦った声に、周囲へ視線を巡らせる。
……最悪だ。
倒したはずの“裏返り”の残骸たちが、次々とむくりと起き上がり始めている。
「チッ、キリがねえな」
俺が剣を構えて前に出ようとした瞬間。
背中を、軽く手で押さえられた。
「小物は任せなさい!」
カルアだ。
「アンタはデカブツを!」
言うが早いか、彼女の両手から赤く輝くワイヤーが放たれる。
絡め取る。
引き裂く。
吹き飛ばす。
鮮やかな手際だが──いかんせん、数が多すぎる。
このままじゃ押し切られるか?
そう思った、その瞬間。
空気が、急激に沈んだ。
ズンッ!!
目に見えない圧倒的な圧力が、空間そのものを上から叩きつける。
「……なんだ?」
迫ってきていた“裏返り”たちが、一斉に地面へ這いつくばり、縫い付けられた。
その中心。
真紅の隊服を着た見知らぬ少女が、片手を高く掲げて立っていた。
「平伏せ──『重力制圧』」
……新手か。
いや──。
「帝国軍、赤の諜報団・特認機動隊『ハリンツ部隊』副隊長、ルールだ」
少女はニヤリと不敵に笑う。
「雑魚は私が押さえておく。さっさと本体をやりな!」
俺の前にカルアが立つ、そして、ふっと口角を上げた。
「助かるわ」
ピシッとワイヤーを引き絞る。
「王国軍第十番隊、副隊長カルアよ」
「知ってる」
「じゃあ話が早いわね」
カルアが一歩、前へ踏み出す。
「私が斬る順に、その重力……解除して」
ルールが呆れたように肩をすくめた。
「注文が多いな、お姫様」
「うるさい!」
二人の間に、バチバチと火花が散る。
だが──。
次の瞬間、二人は示し合わせたように同時に動いた。
▽▽▽
【視点:カルア】
足元の怪物たちが、動けない。
ルールの重力魔法で、完全に地面へ押さえつけられている。
──なら。
遠慮なくいかせてもらう。
地を蹴り、踏み込む。
赤いワイヤーを鞭のように振るい、這いつくばるバケモノの首を刎ね飛ばす。
「次!」
「解除」
ピタリと合う。
私が斬り裂いた瞬間に、その個体にかかっていた重力だけがフッと消える。
無駄な抵抗をされる前に、次の標的へ。
また斬る。
「次!」
「はいよ」
リズムが、合う。
呼吸が、恐ろしいほど噛み合う。
初めて組んだはずなのに──。
まるで、ずっと背中を預け合って戦ってきた相棒みたいに。
私は踊るように動きながら、思わず口元を歪めた。
「やるじゃない」
「そっちこそ」
背中越しに、ルールが笑う気配がした。
その笑みは──どこか、私と同じ匂いがした。
綺麗事だけじゃ生き残れない、血と泥に塗れた戦場を知る者の笑い。
だからだろう。
この小生意気な帝国の副隊長との連携が、妙にしっくりきていた。
▽▽▽
【視点:ルール・シモン】
──面白い。
この女。
斬る速さも、次へ移る判断の速さも、文句なしの一級品だ。
それに何より──合わせてくる。
こっちの繊細な重力操作のタイミングを、まるで最初から“見えている”みたいに完全に読み切っている。
「次、三体まとめていけるか?」
「余裕」
「いいね」
私は、右手に込める圧をさらに強める。
ズンッ!!
迫る三体のバケモノを、まとめて地面に叩き伏せる。
その重力の隙間を縫うように──。
赤い閃光が、空間を薙ぎ払った。
一瞬。
本当に、瞬きする間の一瞬で。
三体が同時に、綺麗な断面を描いて両断された。
「……ハハッ」
思わず、腹の底から笑いが込み上げてくる。
気に入った。
こういうのはいい。すごくいい。
無駄な言葉なんていらない。ただ、動きの感触だけでお互いの実力が分かる。
──こいつ、大当たりだ。
「なあ、カルア」
「なによ」
「終わったら、一杯おごるよ」
「は?」
斬撃の嵐の中で、一瞬だけ間が空く。
次の瞬間。
「生きてたらね」
「決まりだ」
背中合わせで、互いにニヤリと笑い合う。
その背後で。
デカブツを相手取るコールの雷鳴が、天を裂くように再び唸りを上げた。
──主役は、あっちだ。
なら。
私たち『副隊長』の仕事は──
余計な横槍を全部潰して、あいつらの道を切り開くだけだ!




