325 そして、ふたたび。
【視点:コール】
「あいつ、やっても やっても蘇ってくるのよ」
呆れたように肩をすくめ、アリスが指差す。
視線の先では──粉砕されたはずの腕の肉片が、どす黒い粘液を引きずりながら、ぞろりと本体へ戻っていく。
肉片が、集まる。
繋がる。
再生する。
……悪夢みたいな光景だ。
確かに異常な再生力だが──俺の意識は、別の“違和感”に引っかかっていた。
地面。木々。バケモノの残骸。
すべてが、赤く濡れている。
まるで、この一帯だけ──おびただしい量の『血の雨』が降ったみたいに。
「なぁ、この血の海はいったい……?」
「あれは……」
俺の問いに、アリスが一瞬言い淀み、ちらりと隣を見る。
カルアは、気まずそうにすっと目を逸らした。
……おい、なんだその反応。
「……あれは、私の血」
──は?
「……カルアの、血!?」
俺は思わず一歩引いた。
いやいやいやいや。
この量、おかしいだろ。地面一面だぞ!?
「お、お前……大丈夫なのか!?」
慌てて問いかけると、カルアは頬を掻きながら、ちょっと恥ずかしそうに俯いた。
「な、新しい『殺り方』なのよ。ちょっと事前に抜いて、ストックしておいただけだし……」
……いや、“だけ”で済む話じゃない。
いったいどれだけ抜いたんだよ。
相変わらず、命の扱いが軽すぎる。無茶ばかりする奴だ。
でも──。
それでも、こいつがちゃんとここにいる。
それだけで、胸の奥が少し軽くなった。
「なあ、コール! 感動の再会中に悪いが、私は自軍が心配だ! ここは任せるぞ!」
不意に、横でアイドリング音を響かせていた装甲車の運転席から、皇帝陛下が身を乗り出して声を張った。
「え、あ、はい! 助かりました!」
俺が頷いた瞬間。
「ではな!」
片手をひらり。
次の瞬間──。
ギャリィィィィィィンッ!!
ドガァァァァァッ!!
盛大なタイヤの摩擦音と土煙を撒き散らしながら、黒鉄の塊が弾丸みたいに飛び出していく。
……速ぇなオイ。
嵐かよ。
そのぶっ飛んだ去り際を、呆然と見送っていたカルアがぽつりとこぼした。
「ねえ、コール。あの破天荒な運転手さん……誰?」
俺は、遠ざかる土煙を見つめながらため息交じりに答えた。
「あの人は──グリッド帝国の初代皇帝だ」
「「「…………はぁ!?」」」
カルア、アリス、トビー。
見事な三重奏の絶叫が、夜の森に反響した。
▽▽▽
「皇帝!? 義兄さん、帝国でいったい何やってたの!」
次の瞬間、我に返ったクラリスが猛然と突進してきた。
ガシッと腕を掴まれ、そのままぐいっと引き寄せられる。
「おさるさん倒したり!? 村の人と朝まで飲んだり!? 皇帝とおしゃべりしたり!?」
……情報の切り取り方が雑すぎる。
「ふざけてばっかり……!」
クラリスの目が潤む。
「どれだけ、どれだけみんな心配したと思ってるの……!」
そのまま、俺の服の胸ぐらをぎゅっと握りしめる。
細い腕が、小さく震えていた。
「……もう、絶対──置いてきぼりにしないで」
「……ごめん」
俺は短く答えて、俯く彼女の頭をそっと撫でた。
言い訳は──いらない。
そこへ。
「コール! 大事な肝を落としてるニャ!!」
俺の後ろから、すっかり車酔いから復活した元気な声。
振り向くと──。
「みんなお久だニャ!」
ラスクが、ドヤ顔で胸を張って登場してきた。
……なんだその登場の仕方。
俺は深いため息を一つ吐く。
「何をだ、このゲロ猫」
「ボノラッテは最高ニャ」
ぐっと親指を立てる。ウインク付き。
……殴っていいか?
「はいはい。あんたもコールと一緒にいたなら、すぐに通信で報告しなさいよ」
呆れ顔で、アリスが冷たくツッコむ。
「『おしゃべりさん』は壊れてたから捨てたニャ。てへ」
こいつ、ほんと自由だな。
その後ろから──。
「副隊……ご心配おかけして、すいません」
おずおずと、ルクスが顔を出した。
「副隊って……あんた、今はカルア隊でしょ!」
「あっ……そうでした!」
慌てて口を押さえるルクス。
それを見て、カルアが肩をすくめる。
「いいのよ。こいつがいるならそっちの方が自然でしょ」
そして──彼女が一歩、前へ。
空気が、切り替わる。
「これより──カルア隊はコールの指揮下に復帰する!」
凛とした声。
その言葉に、全員の顔が変わる。
悪ガキみたいな顔だ。
……来たな。
ジェフとアッシュはまだ来ていないが──
それでも、十分すぎる。
最高の仲間だ。
「で? コール隊長。次のミッションは?」
カルアが不敵に笑う。
俺は、前を見る。
蠢く巨大な化け物。
血の海。
まだ終わっていない戦場。
背中に、仲間がいる。
「決まってる」
息を吸う。
「──あのバケモンを完全に叩き潰す」
視線を巡らせる。
「各自、全力を叩き込め! 作戦名は『臨機応変』。ミッションは──『いのち大事に』だ!」
胸の奥が、熱い。
剣を抜き放ち、夜空へ掲げる。
「全部、ぶつけろ!」
そして──。
「いくぞ!」
拳を握る。
「突撃──コール隊!!」




