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突撃!コール隊 〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ  作者: 鷹雄アキル


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323 絶望と再生


【視点:ルール・シモン】


 双眼鏡の向こうで広がっているのは──もはや戦場ですらない。

 ただの、狂った殺戮の鍋だ。

 

 私がかけた重力で地面に縫い付けられた化け物たちが、空から無限に降り注ぐ血の刃によって、容赦なく削られ、潰され、原型を失っていく。

 

 肉も、骨も、悲鳴すらも。

 全部まとめて、ミンチだ。


「ブラッディ・カルア。血濡れの侯爵姫……か」


 私は双眼鏡を下ろし、呆れと、僅かな戦慄を込めてぽつりと呟いた。


「噂には聞いてたけど……これは、ちょっと規格外だね」


「ヤベーよ! ゾクゾクが止まんねーよ! あのルックスで容赦ない殺伐感……ヒーッ、ご褒美すぎる!」

「うっさい! マジキモいんだよ!」


 隣で発情した犬みたいに騒ぐタイルの後頭部を、もう一度スパーンと殴る。


「うひぃーッ! 副隊まで可愛いお顔で、俺にお仕置きをしてくれるなんて! 俺、サイコー!!」


 頬を上気させ、目を潤ませて身悶えするタイル。

 

 ──コイツ。マジで隊から追い出そうかしら。


 心底嫌そうな顔をしながら、私は地面にかざしていた手をゆっくりと緩めた。


「ま、とはいえ……ここらで店じまいだな」


 もうとっくに、私の魔力は底を突きかけていた。

 これ以上は、こっちが潰れる。

 大きく息を吐き、広域の重力魔法を完全に解除する。


 途端に、肺が焼けるように重い疲労が全身へ押し寄せてきた。

 

 ──まあ、あとは、あの血の狂乱に任せとけばいいだろう。


 そう思って背伸びをした時だった。

 視界の中央。

 ぴくり、と。

 何かが、動いた。

 嫌な予感に背中を撫でられながら、もう一度双眼鏡を凝らす。


「……は?」


 思わず、声が漏れた。

 挽肉になったはずの肉塊が。

 まるで意思を持ったかのように、不気味にうごめき始めていた。


 ▽▽▽


【視点:カルア】


 終わった。

 そう、確信していた。


 すり鉢状に抉れた穴の底に群がっていたバケモノどもは、すべて私の『血刃』によって粉々に切り刻まれていた。

 ルールの重力と、私の刃。

 これ以上ない、完璧な殲滅。

 私は、加護の反動でぐらりと揺れる視界を必死に保ちながら、大きく息を吐き出した。


「やったっすね、隊長!」


 後方から、トビーが明るい声を上げる。


「……待って。おかしいわ」


 だが、アリスの声が、そのわずかな安堵を切り裂いた。

 彼女の視線を追い、穴の底を見下ろす。


 ぞわり、と。

 全身の毛穴が一斉に開いた。


 粉々になったはずの肉片が、どす黒い粘液を引きずりながら一箇所へ集まっていく。

 無理やり繋がっていく、命の残骸。

 それらが融合し、ひとつの巨大な“何か”へと──。


『ルルルルォォォォォォォォ……ッ』


 低く、濁った咆哮。

 獣にも似た、ひどく悲しげな音が夜気を震わせた。


 ズンッ、と。

 空気が沈む音。


 その直後だった。

 戦場を支配していた絶対的な重力の枷が、フッと消え去った。

 遠くで展開していたルールの魔力が、ついに限界を迎えたのだ。


 重圧から解放された巨大な肉の塊は──ゆっくりと、(おぞ)ましい体を立ち上がらせたのだ。


「や、やべーっすよ……! 奴ら、また蘇ってきたっす!」


 トビーの声が震える。


「……やっぱり」


 アリスが、爪を噛みながら絶望的な声で呟く。


「奴らには『終わり』という概念がない。肉片になろうとも、最後の一欠片(ひとかけら)が残る限り、何度でも立ち上がってくるわ」


「じゃあ、どうすれば奴をやれるの!?」


 私が叫ぶように問うと、アリスは力なく首を振り、「……わからない」と呟く。


 クラリスが、絶望に顔を青ざめさせて膝をつく。


「終わりです。きっと私たち、あいつにペシャンコにされてお終いなんですぅ!」


 アネモネが頭を抱えて泣き叫ぶ。


 加護を使いすぎた代償で、視界が白く明滅する。

 逃げる気力も、立ち向かう魔力も。

 もう、私たちには残されていなかった。


 遥か前方。バケモノ越しに見えるハリンツ隊の陣地でも、誰もがこの“終わらない死”を前に、言葉を失って動揺しているのが分かった。

 その中央。さっきまであの凶悪な重力魔法を振るっていた小柄で赤い髪の少女もまた、目を疑う光景にがっくりと膝をつき、呆然と惨劇を見つめていた。


 ──届かなかった。


 私には、もう血を操る力はない。

 主の魔力を失った真紅の刃たちは、次々と霧となって空間に溶けていく。


「カルア! 仕切り直しよ! ここに居たら危ないわ、いったん引くわよ!」


 呆然とする私の腕を、アリスが引っ張る。

 力が入らない。抵抗もできない。

 私は、引きずられるようにしてよろよろと立ち上がった。


 眼前では、再生を果たしたデカブツが、その巨体から伸びるおぞましい腕をゆっくりと持ち上げ、私たちに向かって振り下ろそうと構えている。


「カルア! しっかりして! 行くわよ!」


 アリスが悲痛な声で叫ぶ。

 ふと遠くに目をやると、向こうの砲台でも同じように、茫然と座り込むあの少女を、大男が担ぎ上げて退避しようとする姿が見えた。


 一瞬。ほんの一瞬だけ、絶望の底にいる彼女と視線が交差した気がした。


 無言のまま、互いの声なき声が重なる。


 ──私にできるのは、ここまでなの?


 瞬間。

 闇を裂いて。

 光が、──来た。


 彼女の背後の暗闇から、まるで夜に突き刺さる二つの太陽のような、強烈で眩しい光。

 それは地を這うような低い爆音を響かせながら、一直線にこちらへ突っ込んでくる。


「なに? あれ……」


 アリスが目を丸くして呟く。


 眩しい光の奥から飛び出してきた黒光りする無骨な鉄の塊が、道なき斜面を猛スピードで駆け下り、そのまま私たちを狙っていたデカブツの横っ腹へと叩き込まれた。


 ドゴォォォォォンッ!!!


 衝撃が、世界を揺らす。

 耳を覆いたくなるほどの凄まじい破壊音。

 恐るべき速度と重量のまま、鉄の塊はデカブツの腕を粉砕し、肉を弾け飛ばし、そのまま突き抜けて──私たちの眼前へと跳んでくる。


 ギュイィィィィンッ!!


 何かと何かが激しく擦れ合う、聞いたこともない甲高い摩擦音。

 猛烈な土煙を巻き上げながら、その巨体は私たちの目の前でピタリと止まった。


 沈黙。

 呆気にとられる私たちの前で。


 ──ガンッ!!


 その鉄の塊の横腹の扉が、内側から勢いよく蹴り飛ばされた。


 逆光。

 眩い光を背に受けて、中から一つの影が飛び出してきた。

 迷いなく。一直線に。私のもとへ走ってくる。


 逆光で、顔は分からない。

 分からないけど──見間違えるわけがない。

 ずっと待っていた。

 ひどく懐かしくて、ひどく恋しい、この気配。


「カルア! 大丈夫か!!」


 影が叫び、私に向かって力強く手を差し出してくる。

 力強くて、温かい手。

 私は、そのゴツゴツとした手を両手でしっかりと握り締めた。

 もう二度と、離さないように。

 

 絶対に、離さないように。


「遅いんだから……!」


 喉が詰まる。込み上げてくるものを必死にこらえて、私は叫んだ。


「バカコール……ッ!!」


 

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