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流刑のロト  作者: 野山日夏
日本編(新学期)
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情報ネットワークは高速で

 何の委員にもならずに済んだ晴海達と違い、四人の中でただ一人図書委員を押し付けられた夏帆は拗ねた声をあげた。どうしてもやりたくなかったというのに結局クラスメイトから押し付けられてしまった新図書委員の足取りはこれでもかというほどに重い。纏う空気も心なしかどんよりしていた。

 この調子では夏帆に一体何が起こったか知らない人間であっても、夏帆が何かがっかりするような目に遭ったのだと想像するのはたやすいことだろう。

そんな夏帆の様子に笑い声が二つ。

「あはは、あだちゃんは本当お疲れ様。頑張れ―」

「いい気味だわー」

 完全に人ごとだと思っている口調で晴海と杏奈の二人からそう言われ、夏帆はばっと真由の方を向く。

 晴海の夏帆への当たりは何故か冷たいし、杏奈も常に他人事としての扱いしかしてくれない。それでも友人関係を保っているのだから嫌われている訳でもないのだが、こういうとき夏帆の味方をしてくれる人間など、このメンバーでは真由しかいないのだ。必然的にいつも夏帆が助けを求める相手は、真由に固定されることになる。

「今から美味しいもの食べに行くんだから元気だしなよ」

 夏帆が涙目を向ければ、真由がよしよしと夏帆の頭を撫でる。かたや完全に他人事、かたや夏帆に何故か冷たい、と酷い扱いをしてくる他の二人にはない気遣いに、夏帆はぶわっ、と大粒の涙を流す。

「やっぱり私にはもう真由しかいないんだぁぁあ」

 言いながら大泣きする夏帆に、苦笑を浮かべながら宥める真由。やはり何となく微笑ましい姉妹のような光景だ。とても同い年には見えない。そんな光景を晴海は完全に他人事とばかりに眺めつつもひっそりと、真由の制服が夏帆の涙で汚れそうだ、などと失礼極まりないことを考える。

 そんな晴海の視線に、夏帆が気がつく。決して思っていたことを口に出してはいないのだが、考えていることが何故か伝わってしまったようで。

「なんか晴海が馬鹿にしてくるよぅぅう」

 夏帆の嘆きは余計に大きくなった。その余りの声の大きさに、うるさいなぁ、とばかりに晴海が両手で耳を押さえる仕草をしてみたところで、真由から、

「いい加減夏帆をからかうのやめなさいよ。泣きつかれるのは私なんだからね?」

 などと窘めの言葉をかけられる。晴海に遊ばれる夏帆を見かねてのことだ。

そろそろ夏帆をからかうのをやめなければ、じきに真由がいい加減にしろと怒りの声を上げることだろう。夏帆を拗ねさせても晴海に実害はほぼないに等しいが、流石に真由を怒らせたら晴海も敵わない。仕方がない、と晴海はぱっと耳を押さえていた手を離して、降参とばかりに手をひらひらとさせてみせた。

「最初からそうしてりゃいいのに」

 あっさり幸福宣言をした晴海に、真由が呆れたようにそう口にする。それに晴海は口を尖らせた。

「だってー」

 からかうとその反応がとても面白いのだ、とは言えずそこで言葉を濁したが、晴海の考えていることなど疾うに真由は知っているのだろう。真由が大きくため息をつき、一連の流れを傍観していた杏奈がその様子を笑う。夏帆がぷいと顔を背けたところで全員が噴出してその話は終わりとなった。

 そんな調子で馬鹿をやりながら繁華街への道を歩いていれば、目的地の喫茶店も前へと出たところで、四人が四人とも動きを止めた。存在すら気がつかないほど影が薄いその喫茶店が、今とんでもないことになっているのを目にしたのである。

「……あー」

「ここ、聞いてたのとなんか違くない……?」

「……なんだろうねー」

 夏帆は最早言葉すら失ってしまったようで、三人分のぼやきが漏らされる。だが、それも目前の光景を目にしていれば仕方がないことだと晴海は思う。何せそれほどまでに信じられないような情景が今その場に広がっていたのだから。

 喫茶店の扉の前には、ずらりと行列が出来ていた。電車が来た直後の駅のトイレか何かの行列だって、まさかここまではいかないだろうというようなそれだ。しかも、恐ろしいのはほとんど全てその場にいるのが女性ばかりということである。晴海がロトと共に来たときにはあんなにがらがらだったくせに、一体何がどうしたらこんなに急激に大人気店舗へと進化するというのか。

「あ」

 不意に晴海は先日、ロトを一人で街に行かせようと思ったことを思い出した。芸能人にこそ敵わないまでも整った顔立ちを持つロトだ。きっと道行く女性にナンパでもされるのに違いない。そのときは冗談交じりにそんなことを予想したのだが。

 これはもしかしなくとも、そういうことではないだろうか。街の女の子の誰かがたまたまロトがその店に入っていくのを目撃し。ついていったところ給仕されたりしたか何かでおお、とその店をチェックし、友人を誘っていくうちに口コミが広がって公然の秘密とばかりになったのでは。完全にこれは晴海の推測でしかなかったが、この推測は十中八九間違っていないだろう。

 はっきり言って当初の晴海の予想はなまぬるかったとしか言いようがない状態である。女性であっても人間がここまでたくさんいると、暑苦しいだとかそういう印象を受けることを、晴海は今初めて知った。

「うっわー、亮人さんモテるねぇ」

 夏帆の言葉も尤もだろう。この調子では誘蛾灯が虫を能力よりも遥かに、ロトが女性を惹きつける能力の方が優れていそうだ。何かのフェロモンでも出しているのだろうか。否、だとしたら今までそれを晴海が感知したことがないというのも可笑しい気がする。きっと出しているのは何か別のものに違いない。

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